SNSの考察文化でトリビュート作品の楽しみ方に変化? RADWIMPS、クリープハイプに見る“体験型”価値

 RADWIMPSのメジャーデビュー20周年を記念して制作されたトリビュートアルバム『Dear Jubilee -RADWIMPS TRIBUTE-』が、SNSを中心に盛り上がりを見せたことは、今年の日本の音楽シーンにおいてひとつのトピックと言えるだろう。

近年のトリビュートは“総合的な体験”を意識?

Mrs. GREEN APPLE - 狭心症 / Kyoshinsho [Audio]
 

 特に発売前は印象的だった。参加アーティスト名や楽曲名が伏せ字で公開されたことにより、ファンの間で推理し合う“暗号解読合戦”が勃発。「この文字数ならあの曲?」といった予想が飛び交い、まるで参加型の謎解きイベントのように、ほかのアーティストのファンも巻き込んだ一種の祭りとなって、その規模は最終的にX公式のポストのインプレッションが3000万件を超えるほどにまで発展した。

 発売後もその熱は冷めることなく、「参加したかった」と名乗り出るアーティストも現れ、SNSでは“第二弾予想合戦”が加速。「次のトリビュートがあるならこの曲をこの人に歌ってほしい」といった投稿が駆け巡った。その一連の流れは、これまでのトリビュートアルバムが持っていた「アーティストの敬意を静かに味わう」というイメージとは大きく異なる風景と言えるだろう。

 もちろんトリビュートアルバムが話題になること自体は、これまでも多々あった。しかし、ここまで参加型の盛り上がりを見せるのは、新しい潮流と言えるのではないか。ネット上での推理、予想、感想、そしてアーティストのリアクション、そうした多方向のコミュニケーションが作品の一部として繰り広げられることにより、トリビュートアルバムというフォーマットそのものがアップデートされつつあるように感じる。近年のトリビュートアルバムは、より“総合的な体験”を意識しているように思われるのだ。

トリビュートを介した独自のコミュニケーションも

 昨年発売されたクリープハイプ初のトリビュートアルバム『もしも生まれ変わったならそっとこんな声になって』は、その象徴的な例の一つ。クリープハイプはリリースに先立ち、“アーティスト名×楽曲名”の組み合わせの正解数に応じて賞品をプレゼントするキャンペーンを開催。参加アーティストをただ発表するのではなく、特典を用意することで“リスナー参加型”へとその枠組みを拡張させた。

 このクイズをきっかけに、SNSでは「この曲を歌いそうなのは誰か?」「このアーティストならどの曲が合う?」という考察が広がり、リリースに向けてファンの中での期待感が自然と醸成されたのは言うまでもない。

クリープハイプ トリビュートアルバム『もしも生まれ変わったならそっとこんな声になって』トレーラー

 また、このトリビュートアルバムにはUNISON SQUARE GARDENによる“フレーズの仕返し”が含まれているのもポイント。2019年に発売されたトリビュートアルバム『Thank you, ROCK BANDS! ~UNISON SQUARE GARDEN 15th Anniversary Tribute Album~』で、クリープハイプは自身の楽曲のフレーズをUNISON SQUARE GARDENの「さよなら第九惑星」に入れ込んでいたため、その“お返し”として、UNISON SQUARE GARDENが自身の「シュガーソングとビターステップ」のフレーズを「イト」のカバーに差し込んだという(※1)。

UNISON SQUARE GARDEN ‐ 「イト」

 こうしたアーティスト同士の双方向のやり取りもまた、トリビュートアルバムというものが持つ新しい流れと言えるだろう。近年のトリビュートアルバムは“アーティスト×ファン”、そして“アーティスト×アーティスト”といった多方向のコミュニケーションが相互に活性化しているように思うのだ。

 トリビュートアルバムはもともと、アーティストが敬意を込めてカバーし、その音をファンが受け取るというシンプルなものだった。しかし今では、発表前から伏せ字やヒントで盛り上がる、クイズや企画でファンが参加する、SNSで予想や思い出が語られる、アーティストたちがカバーで返答するなど、複合的なイベントとして成立しつつある。ファンは完成品を待つだけでなく、能動的に参加し、語り合い、考察してその価値を更新していく。その象徴がクリープハイプであり、今年のRADWINPSであった。

 音楽が誰かの手に渡り、また誰かに返っていく。その“循環の架け橋”となっているのが、いまのトリビュートアルバムなのだと思う。

※1:https://natalie.mu/music/news/585238

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