Mardelas 1万5000字インタビュー 10年の道のりの真実、鳴らすべき音楽、現在地――語り尽くす

Janne Da Arc、LUNA SEA――V系バンドのオマージュとMardelasのスタイルの融合

――でも、そういう構成の仕方もMardelasらしさのひとつなんでしょうね。実際に分析をするとそういう裏付けがあるという。『Ⅲ』の曲もリレコーディングしてますね。

蛇石:『Ⅲ』からの4曲は即決でしたね。ほかにもMaoくんにアレンジしてもらった曲はありましたけど、ベストに入れるんだったらここかな、って。「Link」はみんなが好きなので入れました(笑)。ライブの時にやると、みんな喜んでくれるんですよ。

及川:『Ⅲ』から、7弦ギターの曲が出てくるんですよね。「World vs Honor -仁義なき世界-」や「Bullseye」がそうですね。

――今回の「World vs Honor」は、オリジナルアルバムにあったイントロダクション(「Mardelas the THIRD」)がなく、そのままイントロから入ってくるから、ヘヴィさが際立って聴こえてきますね。

及川:たしかにイメージが違いますよね。「Crossroads」の次に並んでいるというのもあるかもしれないです。『Ⅲ』も音は強めに作ったつもりだったんですけど、今のほうがさらに音の壁がある感じになりましたね。

――「World vs Honor」はストーリー仕立てのMVも印象に残っていますが、『Ⅲ』はバンドとしても、『II』を踏まえつつ、また新たな側面を見せた作品でもありますよね。

及川:1stアルバムの路線にも戻しつつ、新たなものを取り入れて作った作品ですね。まだちょっと迷いがあるというか、「これでいいのかな?」みたいな感じだった当時の記憶があります。

蛇石:コンセプトアルバムを作ってみたかったというのもあったけど、『Ⅱ』があったからこそできたアルバムだなとすごく思います。『Ⅱ』での反省点もありつつ、やっぱこういう世界観は私たちにしかないよなという確信もあって。だから、私は特に迷いはなかったかもしれないですね。自由にやってました。選曲的には、代表曲の「World vs Honor」、蛇石曲のなかのリード曲っぽい「Bullseye」、及川曲のなかのリード曲っぽい「Deception」、ライブで人気の「Link」みたいな感じで選びました。『Ⅲ』を制作していた時も、「World vs Honor」、「Bullseye」、「Deception」という流れは、リードっぽい曲をポンポンと最初に並べてたんですよ。

――「Bullseye」は、曲としてはどんな気持ちで書いていたんですか?

蛇石:Aメロは歌というよりはラップに近いような、ちょっとリズムを意識したセクションを作りたくて。でも、サビは直球。だから、Bメロは短くしたいというのもなんとなくあったし、バックコーラスみたいな声も入れてみたかったんです。攻撃的でありつつ、人の気持ちの儚さみたいな部分を歌詞だけじゃなくて、曲でも表現したかったんですよ。この10年間で自分のリズム感が鍛えられた実感があって。ラップをやるようになったのもあるんですけど、今回のレコーディングでも自由に歌うというよりは、リズムとかを強調するような歌い方を心掛けたりして。そういう意味では、ちょっとほかの曲とは違うかもしれないですね。

及川:「Bullseye」は、アレンジもしやすかったですね。7弦曲でヘヴィさはありつつも、Mardelasの売りであるメロのよさが際立つようにして。でも、『Ⅲ』の曲を録り直してみて思ったのは、ギターの速弾きが結構多いんですよ。これも『Ⅱ』の反動だと思うんですけど(笑)。

本石:「こういうリズムを樹京くんがやるんだ!」って、当時は意外に思ったんですよね。『Ⅱ』ではやってなかったのに。あれは何か意識したの?

及川:新たなエッセンスとして、こういうのもちょっとやってみようかな、って。いろんな曲をコピーするなかで、そういう曲ってみんな通るじゃないですか。ただ、すごく影響を受けたというものでもなかったというか。

――樹京くん的リードトラックと言われた「Deception」に関しては?

及川:Janne Da Arcのハードな曲、みたいなイメージが作曲した当時はありました。Janne Da Arcの楽曲には、こういうビートが多いんですよね。Janne Da Arcのような90年代ヴィジュアル系バンドは、ハードロックやヘヴィメタルがルーツの人が多いし、そこは自分とも似てるんですよね。だから、自分らしさをすごく込めた曲かな。

――ええ。聴くとルーツがわかりますよね。

蛇石:そうそう。だから、歌詞も合わせました。yasuさんって、女性目線で歌詞を書くじゃないですか。

――それこそ〈僕〉ではなく〈私〉ですよね。

蛇石:そうそう。その逆をやって、ちょっとエロティックな表現だったりとかもオマージュとして入れました。『Ⅲ』は、コンセプトアルバムではあるけど、(「Deception」は)その部分にかなり寄せた曲ではありますね。

及川:こういう曲、最近はちょっと減りましたよね。

蛇石:でも、「Deception」が好きっていう人の気持ちは、なんかわかる。樹京さんとルーツが似てそうな人が多いもん。だから、たぶん伝わってるんでしょうね。

――僕の世代で言うと、Janne Da Arcからさらに遡って、それこそLUNA SEAなどが見えてくるんですよ。

本石:僕も同じ意見ですね。

蛇石:もっさんも好きって言ってたもんね。

及川:サビのベースとかね。

本石:最初にデモを聴いた時、「LUNA SEAがメタルをやったらこんな感じになるのかな?」みたいな印象があったんですよ。ギターソロのロングトーンにSUGIZOさんっぽさを感じたり。

及川:LUNA SEAはがっつりじゃないですけど、たしかに聴いていましたし。ギタープレイ的には、『Ⅲ』ぐらいから如実に表現力というものにこだわり始めたと思います。ワウを踏んでみたりして。「Deception」で言えば、イントロのリードって結構伸びやかですよね。あれを淡白に弾いちゃうと、イントロというパートを埋め尽くせないんですよ。「ほかの音も入れなきゃ!」みたいな気持ちになる。だから、ビブラートのかけ方だったり、チョーキングの上げ方にこだわって、それ自体が歌にもなるような感じ。今ではそれが自分のスタイルになりましたけど、「Deception」はその走りだったのかな。

出会いと別れには、タイミングもあるし、大きな意味があると思ってる(蛇石)

――みんなの大好きな「Link」はどのような曲作りだったんですか?

蛇石:でも、みんなは曲が好きなのか、歌詞が好きなのか、ちょっとわからないんですよね。

――なるほど。でも、Mardelasのライブで「Link」が演奏されると、そのことに喜びを表明するファンが少なくないのはたしかなんですよね。

及川:会場が一体になるんですよ、「Link」をやると(笑)。

蛇石:途中のもっさんの雄叫びがいいのかな?

及川:お祭りっぽい感じなんじゃない?

蛇石:参加できる感じ、一緒に歌える感じが好きなんだろうな。もともと、これはhibikiが脱退する時に贈った曲なんですね。「違う道に行くけど、お互いに頑張ろうね」みたいなノリで書いたんです。心境の変化もあるなかで、寂しいニュアンスもありつつ。

――「Link」は『Ⅲ』の前に、ライブ会場限定販売のCD『Snake to Metamorphose』(2017年)で発表されていましたよね。

蛇石:そう。でも、彼が抜けたことによって、もっさんが入ってくれたわけだから。出会いと別れには、タイミングもあるし、大きな意味があると思ってるんです。ただ、ライブでやるうえで、「Link」はメンバーは誰も得をしない曲(笑)。ずっとハイトーンだし、ずっと速いし、ドラムもずっと忙しいし。でも、やります。

――『Ⅲ』は、本石くんにとっては最初の音源になるんですよね。

本石:そうです。「Link」は『Ⅲ』に収録する時にベースを弾き直しているので、この曲だけは、このベストアルバムで2回弾き直したことになるんですよね。僕的には今回がベストテイクかもしれないです。やってるフレーズは一緒だけど、なんか違うというか。

――当時とはドラマーが変わっていることも、違った聴こえ方につながるでしょうね。EP『Ground ZERO』(2019年)から3曲というのは、作品のボリュームを考えると多めですよね。

及川:『Ground ZERO』の縛りというよりも、「この曲は外せないだろう」という曲があるなかで、「バラードを入れるなら何がいい?」という話から「Coma」が選ばれたんです。

蛇石:私は「都会の黄昏 -Urban Twilight-」(『Ⅲ』収録)も捨てがたかったんですけど、「Coma」にしました。

――その「Coma」にはどんな着想があったんですか?

蛇石:バラード枠は私のお仕事という感じで今までやってきたけど、『Ⅲ』で思いっきり歌謡曲に振り切ってみたから、ちょっと違う雰囲気というか。完全な邦楽ではないけど、洋楽っぽさも半々ぐらいのイメージで進めつつ、歌もメタル一辺倒じゃなくて、どちらかと言うと、ソウルやゴスペルに近いエッセンスを感じてもらえるようなものにして。樹京さんは、自分で書く曲では全然ないから、アレンジは大変だったと思います。Maoくんにも、「半音上昇から曲が始まるの !?」って言われたりして(笑)。コード進行も凝ってますし、時間をかけて書いた曲でしたね。

――これは、歌に特に惹きつけられますよね。

蛇石:ありがとうございます、頑張りました(笑)。でも、原曲の歌もいいんですよね。だから、それを倒すのが大変でした。全体として、テクニックもすごく必要なんです、音域も広いし。ただ、そんなことよりもとにかく体を鳴らさないと成立しない。体をぶち鳴らすイメージで録ってました。

――“蛇石マリナ”というシンガーの特徴が、すごく表れた曲だと思いますよ。

蛇石:そうですね。リード曲っぽくはないから広くは評価されにくいかもしれないけど、「Coma」はちょっと特別で。蛇石マリナらしさという意味ではほかにいないという点で、ファンの方や関係者の方からもすごく褒めていただけることが多い曲ですね。

及川:今回のレコーディングをしている時に、マリナが「原曲を超えられなかったかも」みたいなことを言ってたんですけど、全然そんなことはなかったと思います。

――先ほどの話のように、「Apocalypse」と「Cleopatra」は「この曲は外せない」というところですよね。

蛇石:そうですね。「Apocalypse」はMVの再生数がいちばん伸びた曲ですし、Spotifyでもダントツで1位なんですよ。やっぱりリフが強烈だったのかなあ。

及川:ANGRAの「Nothing To Say」に触発されたリフなんですよ。全然ビートも違うし、あまり似た感じには聴こえないと思うんですけど。

本石:いつもライブでやっている曲なので、僕は今回のレコーディングも、いつも通りにやりました(笑)。『Ground ZERO』の時点で完成された曲なので、フレーズもほぼ一緒。違いがあるのは、いい機材にしたぐらいですかね。ただ、「Coma」は個人的なリベンジをしたかったんです。レコーディングでたくさんのベースを使うようになったきっかけの曲でもあって。当時はアルバム全曲を1本のベースで貫いてたんですよ。そのほうが統一感が出やすいから。でも、『Ground ZERO』のレコーディングを終えて完成したものを聴いてみると、「Coma」だけ合ってないなと感じたんです。この曲はジャズベとかオールドなベースで弾いたほうがよかったんじゃないか、って。

――「合ってない」と感じるのは、本人だからでしょうね。

本石:本人だけかもしれないです。でも、よりよい音があったんじゃないかと思っちゃったりして。曲に合ったベースを使うことの意味ですよね。この曲は、僕も思い入れが強いです。

――『Ground ZERO』は、Mardelasのキャリアを考えるとひとつの転機にもつながる重要な音源だったと思うんです。

及川:Maoと一緒にやれたのも、『Ground ZERO』からですからね。その出会いがあっての今回の参加でもありますし。

――『Ⅳ』でさらなる開花をしていく予兆が、この『Ground ZERO』にあるんですよね。

及川:無理に何かをひねり出して新しいことをしようとかせずに、自分のバンドらしさを素直に出せるようになってきたと思えたのが、ちょうど『Ground ZERO』の頃なんですよ。

関連記事