My Hair is Badらしさは“躊躇いのない表現”にあり RADWIMPSらトリビュートからライブまで一貫した姿勢
11月19日に、RADWIMPSのトリビュートアルバム『Dear Jubilee -RADWIMPS TRIBUTE-』がリリースされた。どのアーティストがどの楽曲を担当するのかは、「アーティスト名/楽曲名」の文字数だけを公開する方法で発表され、ファンのみならず、多くの音楽好きがそれぞれの予想を言い合い大きく盛り上がった。そんな期待が膨らむ中、リリース日となる19日を回ると、すぐにInstagramのストーリーズやX(旧Twitter)のタイムラインがあの青いジャケットで埋め尽くされていたことを覚えている。
My Hair is Bad「いいんですか?」「ただ」などで見せる愛情深いアレンジ
その中で、特に話題となったのが、My Hair is Badの「いいんですか?」だった。アーティストそれぞれが独自の解釈と愛のあるアレンジを加える中で、My Hair is Badは「いいんですか?」の歌詞の中に、RADWIMPS「ラストバージン」のフレーズを織り交ぜたのだ。さらにいうと、〈どんぶりで50杯は軽くおかわりできるよ〉の一節が、私には〈どんぶりで10杯は軽くおかわりできるよ〉と聴こえる。もしかするとどちらとも取れるように歌っているのかもしれないが、このフレーズを聴いたとき、率直に「やっぱり、マイヘアっていいなあ」と思った。「大人になった今、確かに50杯いけるとは言えないもんなあ」「『いいんですか?』の歌詞に盛り込むならこのフレーズしかない!ってくらいの完成度だなあ」――そんなことを思いつつ、私自身もこの曲とともに過ごしてきた長い年月を回想しながら何度も聴いた。私たち聴き手も、リリース当時から考えれば多くの年齢を重ねてきたけれど、昔も今もこの曲を愛し続けてきたんだなと気づかせてくれる、本当に愛情深いアレンジだった。
My Hair is Badは、過去にもストレイテナーの「REMINDER」、サンボマスターの「ラブソング」、ELLEGARDENの「金星」、クリープハイプの「ただ」でトリビュート作品に参加している。中でも「金星」には、自らのバンド活動のきっかけともなったELLEGARDENへの想いを込め、「ただ」では「ウワノソラ」の歌詞を引用しつつ先輩への敬愛を表し、「REMINDER」はテンポも速くし、歌詞も新たに加えながら自らの決意と成長を託している。そもそも“トリビュート”とは、“賛辞”や“敬意”といった意味を持つ言葉であり、My Hair is Badのアレンジ方法は一見トリッキーに見えるかもしれないが、実は彼らはその意図にすこぶる忠実だ。相手の想いに応えようとする真面目さ、憧れの存在に対する情の深さ、そして「マイヘアらしい」と思わせる思い切りの良さには感服する。いつだって彼らには、表現への躊躇がないのだ。
「フロムナウオン」で培われた度胸と信念
My Hair is Badの表現力は、特にライブで発揮される。今やライブの主力楽曲のひとつとも言える「フロムナウオン」では、その日その時に感じた言葉を、歌詞を改変しながら歌い鳴らす。間違いや失敗などに臆することなく、思考と衝動をその時間、そのメロディに乗せていくあのアクトに、何度心を揺さぶられたか分からない。そこで自然と培われたであろう度胸と信念、そして自分の想いに対して正直であろうとする姿勢は、先述したトリビュート作品にもしっかりと宿っているように思う。My Hair is Badというスリーピースバンドとして、それぞれのアーティストの音楽ファンとして、ひとりの人間として、男として、忖度や驕りなど全くない、愚直でまっさらな気持ちを音楽で表現できるのは、今も昔も変わらないMy Hair is Badの最大の魅力だ。きっと、彼らにトリビュートを託した者たちも同じ気持ちで、「マイヘアは何をしてくれるんだろう?」という期待感と高揚感をもってオファーしたのではないだろうか。だってこれは、音楽家が音楽家へ向けた、最大級のラブレターなのだから。
今回のトリビュート作品を聴いて、原曲はもちろんのこと、改めてMy Hair is Badの楽曲を聴きたくなった。きっと、そういう人も多いのではないかと思う。常に自分自身と向き合い、矜持を更新しながら強く持ち続ける彼らの魅力に改めて気づかされた機会だった。