歌声分析 Vol.3:中島健人 “声の演技者”として歌に最適な人格を宿すスキル、DNAに刻まれた抜群のリズム感

歌声分析

 アーティストの魅力を語るうえで、楽曲だけでなく“歌声”そのものに宿る個性にフォーカスする連載「歌声分析」。声をひとつの“楽器”として捉え、音楽表現にどのような輪郭を与えているのかを掘り下げていく本連載では、技術的な視点からさまざまなアーティストの歌声を紐解いていく。

 連載第3回目となる今回は、中島健人を取り上げたい。

低音が際立つ「N / o'clock」「Celeste」、安定したファルセットを鳴らす「碧暦」

 筆者が中島健人の声に強い興味を抱いたのは、彼とキタニタツヤによる音楽ユニット GEMNの「ファタール」(2024年)を聴いた時だ。低音の出し方がこれまでのアイドル像とは明らかに異なり、声音のコントロール精度がずば抜けている。楽曲ごとの“空気の色”を瞬時に読み取り、最適な声を選び取る反応速度の高さが常人のレベルを超えていると思った。中島健人というアーティストは、声でその歌に人格を吹き込んでいくのだ。本稿では低音域、高音域、リズムの3軸から、その魅力を紐解きたい。

 まずは、中低音域について。1stアルバム『N / bias』(2024年)収録の「N / o'clock」は、HIPHOPのリズムとエレクトロニカの要素がせめぎ合う、アグレッシブなナンバー。中島は唇を使いながら強く出す、つまり少しブーストさせるようなスタイルで低音を聴かせている。言葉を濁らせるように発声しているところも、ドープなリズムの楽曲によくマッチしている。それと同時に、中島の声がバックトラックのキック的な役割を担っているところも面白い。

 一方、2ndシングル『IDOLIC』(2025年)収録の「Celeste」は余白を活かしたサウンドが際立つミディアムバラード。この曲で注目したいのは、Aメロでの低音だ。中島は声の重心をぐっと沈めて母音を低く着地させることで、湿度を帯びた柔らかい低音を作っていることに加え、ブレスを差し込み、低音がその場に滞留するような響きを生み出している。

 次に中高音域について探っていきたい。1stシングル『MONTAGE』(2025年)に収録されている「碧暦」は、トレンドライクなトラックと繊細なメロディが特徴の1曲。ほぼビートレスでありながらBPMは速め。この曲を中島は、ほぼ1曲を通してファルセットを主体にして歌っている。途中でラップに近いアプローチも出てくるが、徹底して柔らかい発音を維持し、母音を抜き気味にして、曲の冒頭から描いてきたメロディの繊細さを持続させている。普通なら、ファルセットを使い続けると音程が不安定になりがちだが(この不安定感も含めてファルセットの魅力ではあるのだが)、中島は安定したファルセットを鳴らしている。完璧に喉をコントロールしているのだ。さらに、あえて音程の高低差を広げていないところも興味深い。限定された音域の中で、ニュアンスを軸にして表現している。

中島健人「碧暦」Music Video

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