渋谷龍太(SUPER BEAVER)、なぜ多方面から引っ張りだこ? ソロ、映画、バラエティと活躍の幅を広げる人間力

 SUPER BEAVERのボーカリスト・渋谷龍太が、バンドやソロでの音楽活動、俳優デビュー、バラエティ番組出演など多方面から引っ張りだこの状況だ。

 スピッツの楽曲から着想を膨らませた映画『楓』(12月19日公開)には、劇中歌「楓」の第2弾カバーアーティストとしてソロ参加。俳優デビューを飾った映画『ナイトフラワー』(11月28日公開)では、街の麻薬密売の元締め役で登場。危険な香りと妖艶な佇まいで観る者を魅了する。一方で、かまいたちがMCを務めるバラエティ番組『かまいガチ』(2025年2月12日放送回/テレビ朝日系)にも出演し、“居酒屋あるある”のクイズで盛り上がる姿も見せた。もちろん、バンド活動も充実。2025年はシングルとして『片想い/涙の正体』、「まなざし」(配信限定)、『主人公』を発表したほか、12月3日には初のアコースティックアルバム『Acoustic Album 1』もリリースする。

 SUPER BEAVERのメンバーとして活動をスタートさせてから、ちょうど20年。なぜ今、渋谷は各界から求められているのか?

10代の頃から独特の空気と世界観を持っていた

SUPER BEAVER「美しい日」【「都会のラクダSP at ZOZOマリンスタジアム」 2025.06.21】

 渋谷はSUPER BEAVERのフロントマンとして確固たるポジションを築いている。バンドは2025年6月、千葉・ZOZOマリンスタジアムで行われた初のスタジアムワンマンの2DAYSで約6万人を動員。名実共に日本屈指のロックバンドへと成長した。渋谷自身も近年、東京スカパラダイスオーケストラやSuperflyとのコラボパフォーマンス、前述した「楓」カバー参加などを実現させ、SUPER BEAVERとは異なる場所でも抜群の化学反応を見せたことで、ボーカリストとしてさらに評価を高めている。

 ただ渋谷自身は、10代の頃からブレることなくここまでやってきた。2021年に筆者がSUPER BEAVERの4人にインタビューした際、ベースの上杉研太は「計り知れない謎のオーラがあって、『ああ、彼はきっと変なヤツなんだ』と思っていました(笑)。『こいつと一緒に何かを作れば面白いんじゃないか』と直感が働き、突拍子もなく『バンドをやらないか』と声をかけました」と振り返り、「今と変わらないんですよね。独特の空気と世界観を持っていたので。それはもともと人が持っているものだから、練習してがんばっても追いつけるレベルの話ではない。渋谷と何かやれば化学反応が起きる気がしてましたね」と渋谷が持つ天性の才能に賭けたと語っていた(※1)。

 渋谷のボーカリストとしての技術は年々向上していることに違いはないが、ただ持ち合わせている“核”は揺るぎないものがあった。上杉が話していた、渋谷の独特の空気と世界観は類稀なものがあり、それがフロントマンとしての強烈な存在感へと昇華され、近年の飛躍につながったのではないだろうか。

どん底から這い上がってきた人間力

 SUPER BEAVERは、ここまで来るのにたくさんの紆余曲折があった。結成1年目から大きな注目を集めて2009年にメジャーデビューを果たしたが、2年後にインディーズでの活動へ戻った。いわゆる“メジャー落ち”を経験した。そして2020年にメジャー再契約をつかみとった。そう考えると決して“華々しいバンド”ではなく、苦労に苦労を重ねた“叩き上げバンド”と言ってもいいだろう。

 渋谷は一度目のメジャーデビューの期間に“どん底”を経験し、バンドが解散危機に陥るほど追い込まれていたと、『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』(TBS系/2024年7月12日放送)に出演した際に語っていた。そこからインディーズに戻り、借金を背負いながらも地道にバンド活動を続け、不死鳥のごとくメジャーシーンの中心に返り咲いた。『ナイトフラワー』のインタビューでは「いまとなっては面白い経験だったなと。だからこそいろいろな人の気持ちがわかるようになったし、おそらく死ぬまで調子に乗らずに済む土壌が出来たと思います」と当時を振り返る(※2)。一度挫折を経験したからこそ説得力のある言葉。実際、ミュージシャンとしてだけではなく、さまざまな人から信頼される渋谷の人間力も、活動の幅が広がった理由の一つである。ちなみに渋谷の交友関係は、木村拓哉、長渕剛、佐久間大介(Snow Man)、小栗旬、濱家隆一(かまいたち)など多岐にわたる。彼の人間力は各界のトップランナーをも魅了しているのだ。

“ささやかな日常”を描きながら気づきを与える

 渋谷はミュージシャンとしてだけでなく、文筆家としての顔も持つ。その多彩さが彼の魅力を広げている。

 雑誌『ROCKIN'ON JAPAN』(ロッキング・オン)では連載「俺はいいけど、うちの大将がなんて言うかな」で愛猫との暮らしを綴り、WEBメディア『ダ・ヴィンチWeb』では全国各地を巡る彼の日常が書かれている。2021年には初の長編小説『都会のラクダ』(KADOKAWA)を刊行。SUPER BEAVERの軌跡をモデルにした物語が紡がれた。

 渋谷の文筆作品の特徴はいずれも“ささやかな日常”を描きながら、その中にふとした気づきや本音を込めるところ。それが読み手の共感を生む。『都会ラクダ』で印象的だったのが、なにかに傷ついてどうしようもなかったら逃げた方がいいと書いていたところ。「道徳観が欠けたやつなんて絶対にいるから」と、無理をする必要はないと記した。

 筆者は同著刊行の際にも渋谷にインタビューをおこなっているが、そのコラム内容について「まったく正面から向き合う必要がないですからね。誰であっても、どんな場面であっても、自分が嫌な思いをする必要なんてないから」と、逃げることは決して後ろ向きなことではないと口にしていた(※3)。そういった一つ一つの言葉や考えが読み手にしっかり響くからこそ、文筆家としてメディアに求められるのではないか。

 筆者は何度もインタビューをしているからこそ、感じ取れるものがある。それは渋谷が、どんな物事に対しても創作意欲をいっぱいにして臨んでいること。だからこそ自分が関わる作品に関して、非常に細かく、そして言葉の限りを尽くして説明をしてくれる。

 バンドマン/ボーカリストとしての確かなスキル、人を惹きつける人間力とカリスマ、創作における真摯な姿勢を持つ渋谷龍太。今、音楽だけではなく多方面でマルチに活動するミュージシャンが注目を集めている。渋谷もまた、そういった時流の代表的な一人になるのではないだろうか。

※1 https://spice.eplus.jp/articles/289368
※2 https://www.cinematoday.jp/news/N0151509
※3 https://spice.eplus.jp/articles/286895

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