前島亜美、不器用な自分との向き合い方 “亜流”であることの美学――アーティストデビュー2年目の今

 2024年11月にアルバム『Determination』でアーティストデビューを果たした声優・前島亜美が11月12日に2ndシングル『不器用に 君のとなり』をリリース。夏にリリースされた1stシングル『Wish for you』に続き早くも2作目のアニメタイアップで、今作は秋アニメ『不器用な先輩。』のエンディングテーマとなっている。

 そんな彼女に初インタビュー。準備期間を含めて一年あまりのアーティスト活動で、16曲もの制作に関わり、ものづくりの世界にどっぷり浸っている。この一年で、彼女は自身の価値観を覆すほど大きな変化を遂げていた。(松本まゆげ)

“不器用”な自分との対話「この言葉にたくさん甘えさせていただきました(笑)」

――「不器用に 君のとなり」は、TVアニメ『不器用な先輩。』のエンディングテーマです。前島さんは、どのように楽曲制作に関わりましたか?

前島亜美(以下、前島):楽曲をコンペで選ぶところから携わりました。アニメ制作チームの皆さんから「懐かしい雰囲気が感じられる、ゆったりとした曲調のものを」といったオーダーがあったので、それを柱に置きつつ、前島亜美としての曲でもあるので私が歌って違和感のない曲という部分も基準にして。「これだ!」と思ったのがこの曲でした。

――前島さんが「これだ!」と思った決め手は何だったんですか?

前島:「すごく好きだった」のひとことに尽きるんですが、懐かしさがありつつも現代感を感じられる曲調だったことです。不器用さや思いやりも感じられるあたたかいメロディや、飽きのこない曲調も刺さって、この曲がいいなと思いました。イントロを聴いた時、頭のなかに『不器用な先輩。』のキャラクターたちが行進している姿が自然と浮かんだのも、ポイントですね。

――歌詞は共感性の高い内容になっていますよね。〈傷つくのも傷つけるのも怖い〉とか〈素直になるって難しい …考えすぎてる〉とか。

前島:不器用で生きにくいと感じている方に、寄り添える歌詞だと思います。実際、私自身も不器用なので「お守りになるような歌詞だな」と感じながら目を通しました。それに1番の〈君が私の声を聞いてる/そして微笑むから/孤独より 強くなれる/気持ち知ったよ〉という歌詞からは、私と私を応援してくれる方々の関係性を感じ取りました。ライブで歌うのはこれからですが、応援してくれている方々の前で歌ったらグッとくるだろうな、って。

――ライブではより気持ちが乗りそうですね。

前島:はい! 歌詞の〈君〉が、ライブを観にきてくださる皆さん一人ひとりを指す言葉になると思うので、歌うのが楽しみです。

――タイアップというと、かなり早くから制作していたかと思うのですが。

前島:実はデビューを発表した頃にはお話をいただいていて、まだアーティスト活動に慣れる前から作っていました。結構ふわふわしている時だったと思います。

――同じくタイアップだった1stシングル『Wish for you』は、レコーディングをするにも、まだ自分の歌い方が定まる前だったとか。

前島:そうなんです。そもそも「タイアップってどうしたらいいんだろう?」とも思っていましたし。

――今回はどうでしたか?

前島:タイアップ作品にも楽曲タイトルにも“不器用”が入っているので、この言葉にたくさん甘えさせていただきました(笑)。至らない点があっても、いびつであっても、それが今の自分の不器用さなんだと受け入れる。歌う時も無理に声を作ったりせず、自然に出てくる歌声を大事にしましたね。

――面白いコンセプトですよね。たしかに“不器用”がテーマなら、その歌い方がしっくりきそう。

前島:そうなんです。完璧じゃなくてもいいと思って。

――ちなみに、前島さん自身も不器用とのことですが、どんなところが不器用だと思いますか?

前島:めちゃくちゃ口下手なところです。自分のなかに言葉の検問みたいなものがあって、思いついたことをそのままパッと言えないんです。友達と話をしている時も、「相手が悲しむ要素が入っていないかな?」とか「配慮が足りていないかな?」とか考えてしまって、なかなかうまく伝えられなくて。不器用だなと思いますね。あと、手先も不器用です(笑)。「どちらからでも切れます」と書かれた納豆のカラシはまずうまく切れないですし。あと、シャンプーとトリートメントをあべこべに詰め替えちゃうこともあって、「どうしてこんなことになるんだろう?」と思うことがよくあります。

自分の歌が流れていることがまだ不思議

――『不器用な先輩。』には堀田美緒役で出演していますが、演じてみて好きだなと感じたところはありますか?

前島:堀田ちゃんはすごく前向きなエネルギーを持っている子で、人と人を繋いでくれる力があるんです。常に輪の中心にいて、彼女がいることでその場が明るくなるところが魅力的で好きですね。それでいて、主人公の鉄輪さん(CV:Lynn)がヘコんでいたら優しく寄り添えるし、亀川くん(CV:坂田将吾)がウジウジしていたら「いったれ!」と背中を押せる人でもあって。人の心の機微に寄り添える繊細さも持ち合わせています。「堀田ちゃんが友達にいてくれたらいいのに!」と思うくらい、素敵な子です。

――そんなキャラクターを、前島さんはどのように演じましたか?

前島:今回は、音域的にあまり作らず、地声に近いフラットなお芝居を心がけました。そのおかげで、一言一言にリアルな気持ちを入れられたと思っています。あと、初回のアフレコの時に「もっと元気に!」というディレクションをいただいたので、自分が思っていた以上に堀田ちゃんの明るさを求められているんだなと感じて。「元気にやるぞ!」とは、すごく意識していましたね。私は根がそこまで明るくないので(笑)、アフレコがある日は「今日は元気にいくんだ!」と気合いを入れてからスタジオに向かっていました。

――現場はどんな雰囲気でしたか?

前島:和気藹々としていたんですけど、きゃいきゃいしていたわけではなくて、大人な和気藹々でした。和やかで居心地が好くて、大好きな空気感でしたね。

――どなたが中心になってその空気を作っていたのでしょうか?

前島:みんなで空気感を作っていた気がします! 坂田さんは皆さんに話を振ってくれていましたし、斎賀(みつき)さん(観海寺律役)が毎回着てこられるお洋服がかわいくて、よくその話をしていたのを覚えています。ゆるキャラのスウェットを着ていらした時も「かわいい!」って。

――斎賀さんはメインキャストのなかだといちばん先輩だと思いますが、キャリア関係なく雑談で盛り上がれるのはいい現場ですね。

前島:そうですね。私はもともとアニメが大好きで、声優さんのこともすごく好きだったので、「まさか斎賀さんと掛け合いできる日がくるなんて!」と夢のようでした。さすがに緊張してしまいましたが、優しくお話してくださって嬉しかったです。

――この取材をしているタイミングでは、1話が放送されたばかりですが、エンディングの映像は見ましたか?

前島:もちろん! 素晴らしかったです。この曲を初めて聴いた時、キャラクターたちが行進している姿が自然と浮かんだんですけど、エンディング映像でもまさにみんなが歩いていて! 「解釈一致だ!」と嬉しくなりました(笑)。ラストの〈Believer〉で、みんながお花をブワッと舞い散らしてくれるところも、素敵な演出ですよね。

――自分の名前が映る喜びもあって。

前島:タイアップは2度目なんですけど、自分の歌が流れていることがまだ不思議なんです。どうしても慣れなくて(笑)。でも、クレジットに名前を見つけると、嬉しさが込み上げてきます。一緒にディレクターさんのお名前が載っているのも見て「そうそう、みんなで作ったよね!」と、制作の日々が蘇ってきました。

前島亜美「不器用に 君のとなり」-Music Video-

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