和田アキ子、人生のすべてを刻む魂と愛の歌 57年目の新曲「愛ヶ十」――Tani Yuukiとのコラボパフォーマンス収録現場に密着!
歌に対してだけは真剣なんです。ほかのことはなんともない(和田)
和田:このあいだ、テレビ番組で、この曲を初めて歌ったんです。そこで、画面に表示される歌詞には何を〈愛〉と読ませるか、ふりがなのようなものを出してほしいとお願いしました。番組を観る方たちも、そのほうが深みを感じられると思って。奥が深い曲ですよね。どちらかというと大人な歌詞じゃないですか? それも、ちょっと小洒落た感じで。文学的な表現がこの若さで出てくるっていうのも、すごいことです。
Tani:それはやはりアッコさんに書かせていただいたということだと思います。
和田:本当にありがたいです。「ちゃんと歌わないといけない」と、身が引き締まります。
Tani:僕もそうです。50年以上活動していらっしゃる方への楽曲提供でもありましたから。
和田:でもね、長くやればいいってもんじゃないのよ(笑)。
Tani:(笑)。でも、アッコさんは活動歴の長さはもちろんですが、僕の世代のソングライター、音楽家にとって、アッコさんは希望の光というか。すごく大きな背中を示していただいています。子どもの頃からTVのなかの人として知っていたので、初めてご挨拶をさせていただいた時も、「本当に実在していらっしゃる方なんだ!」という感覚でした。楽曲を作らせていただくにあたっても、50年以上にわたる活動のなかで歌い続けていらっしゃるたくさんの曲の大きさを感じました。自分がもし50年以上音楽ができたら、僕はファンの方々に何を言うんだろうな、何を歌うんだろうな、とかを考えたりもしました。僕はまだ5年目なので、全然想像もしていなかったような未来の話まで考える素敵な機会をいただきましたね。
和田:そう言っていただけて嬉しいです。
Tani:それに、一度は歌うのをやめた楽曲にチャレンジをするというのもすごいことだなと思います。僕はもうすぐ27歳なんですけど、大人になるにつれて、新しいものへのチャレンジが億劫に感じることも多くなってきているところがあるので。
和田:「愛ヶ十」は、ぜひ歌いたかったんですよ。もう一度聴いて、そこであらためて歌詞を見た時にびっくりしたんですから。こんなに考えさせられる歌詞はなかなかないです。“和田アキ子=バラード”っていうイメージが皆さんのなかにはあまりないみたいで。だから今回は新鮮です。今までにご一緒した皆さんも素敵だったけど、今回はとても新鮮なんです。詩集のなかの文字を歌っているみたいです。私のファンは聴いて泣くと思う。
Tani:本当に嬉しいです!
和田:Taniくんのファンは若い人が多いと思うけど、聴いてほしいですね。みんな“愛”って好きだから。絵文字も目がハートになっていたりしますけど、あれも愛ですから。
Tani:写真撮る時にも指でハートを表現しますからね。
和田:そうそう。普段の生活のなかで「ありがとう」と言う機会は少ないし、「愛」なんて言葉は使わないけど、そんななかで〈あなたにありがとう〉を「愛ヶ十」と表現できるのは素晴らしいこと。ボーカロイドで歌える時代になりましたけど、生の声で聴いていただきたいです。
Tani:今はAIもありますからね。
和田:でも、ちゃんと歌える者として、私は「愛ヶ十」をきちんと伝えていきたいんです。
Tani:こんなふうに言っていただけるのが本当に嬉しいです。先ほど僕の節を聴いて泣きそうになったとおっしゃってくださったんですけど、これ以上の誉れはないですよね。
和田:幸せです、私。今日はいい日です。あらやだ、バイきんぐの小峠みたいになっちゃった(笑)。
Tani:なんて“いい”日だ(笑)。でも、僕にとってもそうです。アッコさんの歌声、深さがすごくて。僕も今日までにアッコさんの声と絡み合えるように精一杯練習したんですけど、実際に現場に入って歌ってみると、深い懐に包み込まれるような感覚でした。
和田:そんなことないですよ。もうド緊張してたから。
Tani:それだけ音楽、曲に対して真摯に向き合ってくださっているということですよね。
和田:歌に対してだけは真剣なんです。ほかのことはなんともない。歌が終わっちゃうと元気になるのに。
Tani:デビュー前に大阪で歌っていた頃は緊張しなかったんですよね。
和田:あの頃は緊張しなかった。『紅白』に最初に出場した時もなんともなかったの。いつ頃からだったかな? 失恋の歌をいただいて、バラードを歌うようになった頃からだと思います、歌を歌う時に緊張するようになったのは。あと、私、レコーディングを早く終えないとメロディを変えちゃう癖があるので(笑)。「古い日記」の「はっ!」は、実は当時冗談で入れたんですよ。
Tani:そうなんですか!
和田:うん。スティーヴィー・ワンダーがよくやってたから、それをレコーディングでやったら、「何それ?」って(笑)。ほかにもいっぱい「はっ!」を入れてたけど、カットされて(笑)。最終的に4個か5個だけ、そのまま残ったんですよ。
Tani:もっと入ってたんですか?
和田:そうなんです。でも、今この年齢になって、26歳のTaniくんが作詞作曲をしてくださった曲を歌えるのって、本当に幸せ。この喜びをかみしめながら、もっと「愛ヶ十」を理解しなきゃだめだなと思っています。
Tani:とんでもないです!
和田:モノにしますから。ここのところちょっと忙しくて、バラエティ番組に出たり、歌と関係ないことをしていましたので、ここから“歌手 和田アキ子”に専念します。ちょっとメロディが変わるかもしれないけど(笑)。
Tani:全然変えてください(笑)!
和田:いい歌が歌えて幸せ。私の財産のひとつです。私が自分で言うのも変ですけど、「あの鐘を鳴らすのはあなた」を含めて、(ランキングで)1位になった曲はひとつもないんです。でも、「笑って許して」とか、いろんな曲を皆さんに覚えていただけていることが自慢なんです。記録はないけど皆さんの記憶には残っている。「愛ヶ十」も皆さんの記憶に残るように歌っていきます。大事に歌っていきたいですね。
Tani:ありがとうございます。
――このあとの撮影でTaniさんは和田さんと一緒に「あの鐘を鳴らすのはあなた」を歌うんですよね?
Tani:はい。
和田:私は余裕です!
Tani:うわあああ! 僕がミスってしまうかもしれません!
和田:大丈夫。2回までは大丈夫(笑)。
Tani:(笑)。でも、僕は声の深さが全然足りないので。
和田:大丈夫ですよ。
Tani:緊張するなあ。アッコさんが「あの鐘を鳴らすのはあなた」を歌ったのは、22歳の時なんですよね。
和田:そうだね。作詞をしてくださった阿久さんが「大阪から歌の上手い子がくる」ってホリプロから聞いた時に、ジャズか何かを歌える歌手だと思ったらしいんです。私のデビュー曲は「星空の孤独」。その時、私は10代だったんですけど、出だしの歌詞が〈胸にひろがる 孤独のつらさ〉なんですよね。〈夜空に抱かれ ひとりの眠り〉とか。阿久さんは、「アッコが10代だと知ってたらこんな歌詞書かなかった」とおっしゃっていました。「あの鐘を鳴らすのはあなた」は、そのあとにいただいた歌詞なんです。昔の歌謡曲の〈あなた〉は彼氏/彼女を指すことが多くて、〈お酒〉や〈雨〉とかが出てくる曲もよくあって。「この曲の〈あなた〉は、誰ですか? 親ですか? 兄弟ですか? 彼氏ですか?」と阿久さんにお訊きしたら、「アッコが今までに出会ったみんなだよ」と。だから、「あの鐘を鳴らすのはあなた」と「愛ヶ十」の〈あなた〉は、ちょっとリンクするんですよ。
Tani:もったいないお言葉です。
和田: Taniくんにも会えてよかったです。
Tani:こちらこそ、本当にありがとうございます。世代を超えたコラボは目上の方に寄り添っていただかないと実現しないものなので、本当に幸せです。
和田:これからもよろしくね。今日の撮影もあと一曲残ってるから。
Tani:そうなんですよね。
和田:Taniくん、ひょっとしたらめちゃくちゃ下手かもしれないし。
Tani:うわああああ!
和田:あははははは! お客さんの前でもいつか一緒に歌えたらいいですよね。
Tani:ぜひともお願いいたします。僕もより頑張っていきます!