Kroi「世の中にはもっと変な音楽があっていい」 魅惑のサウンドスケープで観客を揺らした初のホールツアー
ソウル、ロック、ジャズ、ヒップホップなど古今東西の音楽ジャンルからの影響を昇華し、ミクスチャーな音楽性を提示する5人組バンド・Kroi。彼らにとって、キャリア初となるホールツアー『Kroi Live Tour 2025-2026 - HALL』のセミファイナル公演が10月9日、埼玉・大宮ソニックシティ 大ホールにて開催された。8月27日に映画『九龍ジェネリックロマンス』の主題歌として書き下ろした新曲「HAZE」をリリースしたばかりの彼ら。本公演はそんな最新曲も組み込みつつ、過去曲もバランスよく配置した“ベストオブベスト”ともいうべき内容で、駆けつけた約2,500名のオーディエンスを魅了した。
ホールに映える“ベストオブベスト”な選曲&アレンジ
ステージには巨大なアーチ状の照明がそびえ立ち、その下にドラムセットやキーボード、アンプが整然と並ぶ。無駄を削ぎ落としたストイックなセットだ。定刻となり、会場が暗転すると同時にメンバーが登場し大きな拍手と歓声が響き渡る。まずは、2023年にリリースされたEP『MAGNET』のオープニングを飾る楽曲「PULSE」から、この日のライブはスタート。千葉大樹(Key)の奏でるピアノに導かれ、内田怜央(Vo/Gt)がソウルフルに歌い上げると同時にバンドがイン。益田英知(Dr)のグルーヴィなドラムと関将典(Ba)のスラップベースがじわじわとアンサンブルを盛り上げ、長谷部悠生(Gt)のギターはファンキーなカッティングや浮遊感たっぷりのロングトーンを、セクションごとに切り替え景色を塗り替えていく。
続く楽曲は、今年リリースされたTVアニメ『SAKAMOTO DAYS』第2クールオープニング·テーマでもある「Method」。ジャジーでスリリングなイントロが響き渡ると、会場のあちこちから歓声が上がる。シンコペーションを多用した前のめりのリズムがオーディエンスの体を揺らし、内田のラップと千葉のオルガンが絡み合う中で自然発生的にハンドクラップが鳴り響く。「大宮! 声が小さいぞ大宮!」と長谷部が煽り、フロアのボルテージは上昇していく一方だ。
間髪入れず、内田のシャウトとともに始まったのは「Small World」。ミディアムテンポのファンキーなリズムに乗って、長谷部がステージ前面まで迫り出し、ディストーションの効いたフレーズを放つ。内田は歯切れ良いラップから、ファルセットと地声を巧みに織り交ぜたボーカルまで、1曲の中で効果的に使い分けながら楽曲を彩っていく。さらに、〈Drippin' now〉とリフレインするサビが印象的な「Drippin' Desert」で一段ギアを上げ、2020年リリースのEP『hub』からドープなヒップホップチューン「Bug」へとなだれ込んでいく。いきなり5曲ノンストップで駆け抜けたライブ前半の展開に、客席からは割れんばかりの拍手と歓声が湧き上がった。
ひと息入れ、2021年のアルバム『LENS』から「selva」。長谷部によるギターの高音フレーズとファルセットコーラスが官能的に混じり合う中、タイトなリズム隊の上で内田のラップが滑り出す。中盤で披露した関と長谷部のソロバトルに、オーディエンスは拳を振り上げ応戦。そこから短いジャムセッションを挟んで演奏したのは、Kroi流のネオソウル曲「Polyester」だ。ミニマルかつレイドバックした益田のドラムと、タメの効いた関のベースが漆黒のグルーヴを生み出した。
再びジャムセッションを挟み、新曲「HAZE」へ。ステージ上にはスモークが焚かれ、そこにセピア色の照明が当たるとまさに“朝靄”の中へと迷い込んだような錯覚に陥る。ノスタルジックかつオリエンタルなメロディを内田が歌い上げると、一瞬にして異国ムードが会場全体を包み込んだ。続く「Astral Sonar」は、サイケデリックかつアンビエントな音源から一転、内田がボンゴを叩くなど主にリズム面で大きなリアレンジを施し、どこかシュガー・ベイブにも通じるような空気を漂わせていたのが印象的だった。