米津玄師×宇多田ヒカル、藤井 風×川村元気、藤原聡×魚豊……対談を通して表れるアーティストの思想

 アーティスト同士、あるいはアーティストと著名人による対談。それはリスナーたる我々がアーティストの思考/思想を解き明かす上で重要なピースとなる。本稿ではいくつかの対談を通して、アーティストの個性に迫っていきたい。
 
 米津玄師と宇多田ヒカルによる対談が、10月2日にYouTubeにて公開。本対談では、前半に米津と宇多田それぞれの印象やコラボレーション楽曲「JANE DOE」を通じての出会い、「JANE DOE」制作のきっかけや宇多田へのオファーの理由が語られ、後半では楽曲に対するスタンスの違いの話に。ボーカロイドをルーツに持つ米津は、“母音”と“子音”を分けて打ち込むというボーカロイドの特性が、自身の歌唱にも影響を与えていることを明かした。これを受けて宇多田は、「JANE DOE」のデモにおける米津の歌唱を「軸を揃える、マスを揃える感覚に近い」ものであると感じたという。それに対して宇多田は「(軸やマスを)崩していく、ズラしていく」真逆の歌い方であるため、この対照的な両者がデュエットすることは「レアで素敵なチャンス」だと語った。「JANE DOE」の宇多田の歌唱パートにおいても、米津の癖が滲み出ており、宇多田ヒカルというアーティストのキャリアのなかでも異質な作品に仕上がった理由であることが、あらためて感じられる対談となった。

米津玄師 × 宇多田ヒカル - JANE DOE対談

 2024年3月に公開された映画『四月になれば彼女は』に主題歌「満ちてゆく」を書き下ろした藤井 風と、原作者・川村元気との対談が映画公式サイトにて公開(※1)されている。「何なんw」などを引き合いに、藤井の楽曲に物語を感じたという川村に対し、作詞はどうやっているのかいまだにわかっていないと語る藤井。しかし、その一方で「咲いては枯れるとか、始まっては終わるとか、そういうところを超えたところに行きたい」とアーティストとしての明確なビジョンを明かしていた。藤井の楽曲を聴けば、確かにこの考え方に沿って言葉が紡がれていることが分かり、「満ちてゆく」も、まさに彼の思想を体現する楽曲と言えるだろう。原作『四月になれば彼女は』にインスパイアを受けた結果、教会をレンタルして1時間程度でメロディを書いたと語っていた。そんな藤井の天才ぶりがあらためて感じられるとともに、楽曲作りにおける環境やタイアップ作品との共鳴が「満ちてゆく」という名曲を生み出したことも知ることができる対談である。

藤井 風 - 満ちてゆく Official Video

 『チ。 ―地球の運動について―』の作者・魚豊の連載デビュー作をアニメ化した映画『ひゃくえむ。』。主題歌はOfficial髭男dismの「らしさ」だ。そんな魚豊とOfficial髭男dismの藤原聡(Vo/Pf)による対談企画(※2)が映画公式サイトで実現。お互いの作品との出会いや作品に対する思いを語り合うと、話題は「らしさ」=お互いのアイデンティティにまつわる話に。クリエイターとして現行シーンのトップを走っているからこそ、「もう悩んで作品を生み出す理由もないのでは」と悩んでしまうという魚豊。そして、そこにシンパシーを感じる藤原。しかし、そんななかで『ひゃくえむ。』を読んだことで他者からの評価にも全力で向き合いたいと考えが変わったという。トップクリエイターの苦悩や葛藤、そしてその先の覚悟が感じられ、ひいては「らしさ」にも繋がる藤原の思考が浮かび上がる対談となった。

Official髭男dism - らしさ [Official Video]

 今夏は史上最大規模の国内ツアーを開催し、現在はヨーロッパツアーを開催中のONE OK ROCKのTaka(Vo)とプロボクサーで元世界4階級制覇王者の井岡一翔は、昨年末にYouTubeの企画で対談。10年来の親友ならではのオープンなムードで対談が進行するなか、Takaが「音楽やってて今年一番辛い時期だった」と2024年を振り返り、試行錯誤を繰り返していたが、最終的には「自分がどうしたいか」というシンプルな結論に立ち返ったと話す。また家庭環境からもともとの基準が高く、東京ドーム規模でも「(すごさに)ピンときてない」と語り、だからこそ「とにかくベストパフォーマンスをすること」を重視していたと明かした。常に全身全霊で音楽と向き合うTakaの根源的な思想に触れられた対談となった。

【前編】井岡一翔×ワンオクTaka、異色の親友対談!誰も知らない秘話が飛び出す!?「悩んだ井岡がアジアツアーについてきた」

 アーティストがそれぞれの分野の第一線で活躍する著名人たちと繰り広げる対談は、普段は窺い知ることのない思考/思想が垣間見える。そしてそれは彼らの作り出す楽曲や活動にも反映されている。対談を通してアーティストの考え方をさらに深く知ることも、楽曲をより楽しむきっかけになるのではないだろうか。

※1:https://4gatsu-movie.toho.co.jp/talk.html
※2:https://hyakuemu-anime.com/interview/

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