Leinaが音楽を通して追いかける“幸せ” メジャーデビューを機に振り返る、自身の生い立ちと生きることへの原動力
9月17日、シンガーソングライター・Leinaが、EP『Blue age』でメジャーデビューを果たした。
たとえば、嵐が「A・RA・SHI」でデビューしたように、「デビュー曲」というものは、自分は何者であるか、どういうアーティストになりたいのかを世の中に宣言するための自己紹介的な役割を持つ。Leinaはこのタイミングでアーティストとしての核を伝えるべく、EPの表題曲「Blue age」で、自身の生い立ちを赤裸々に歌った。そこに、Leinaはなぜ音楽をやっているのか、音楽でどのような幸せを追いかけているのか、それらの本当のことが詰まっている。自身のライフストーリーをそのまま描いたミュージックビデオと、このインタビューで語られた言葉から、Leinaが音楽に懸ける覚悟を知ってほしい。(矢島由佳子)
こんなに苦労したことにも意味があった
――前回インタビューさせてもらったのがEP『Blue age』制作中の6月で、「メジャーデビューのタイミングでは、Leinaの核を表現しようと思っている。でもLeinaの核とは何か、というところにぶち当たっている」ということを話してくれていて。実際にできあがった曲を聴くと、ここまでやるのかとびっくりしました。「Blue age」の歌詞は、Leinaさんのリアルと捉えていいですよね?
Leina:これはもう全部リアルですね。EPをリリースするときに1曲は「売れ線」とか何も考えず、Leinaが大事にしている、いわゆる核となるものを書いたほうが絶対にいい、ということをスタッフから言われていて。今までも「人に寄り添いたい」ということを歌ってはきたけど、より深く、自分の生き様とかリアルな人生を組み込んだ歌を作ってみるのもありなのかなと思って。「やっちゃうよ? だいぶ暗いよ? 知らないからね?」とか言いながら(笑)。こういう曲を今自分が書いて出せるのは、チームのおかげだなと思います。
――不特定多数の人が共感できる情景とかではなく、本当に、Leinaさんの個人的な経験、人生の話がドキュメンタリーのように綴られていて。
Leina:この曲をメジャーデビューでやらせてくれるのはなかなかないなと正直思っていて、これでいかせてくれるのはすごく幸せだなと思います。最初の〈無くなるなら最初から要らない〉は、自分の根底にある考え方で。「あなたはもう一度この世界に生まれたいですか?」と聞かれて、生まれたいか生まれたくないかの選択ができるとしたら、自分は生まれなくていいかなとずっと思っていて。生まれちゃったからには、ちゃんと時がくるまで好きなことをして終えようとは思っているんですけど。
――それは、「人生ってしんどいよな」という想いからくるものなのか、それとも「失う怖さ」みたいなことなのか――。
Leina:「人生ってしんどいよな」があって、自分なりに大切なものを色々失ってきて、そうなったら「いらないな」って。あったものがなくなるから悲しくなったり悩まされたりするけど、最初からなかったら何も思わないじゃないですか。無なんですよ。だったら自分は最初からいらない、無でいい、ということをすべてにおいて思うから。失った痛みとかを乗り越えた経験があって人として成長できるというのも理解した上で、でも〈無くなるくらいなら最初から要らない〉という考えがある。そのあとの〈生まれるのに選択肢は無い/幼い頃見た記憶に今も取り憑かれている〉は――生きている上で、「この過去があったからこういう自分になっているよな」と思うことは節々であって。高校の卒論で愛着障害について書いたんですけど、安定した家庭で育った人間と安定してない家庭で育った人間では、メンタルや人との関わり方で苦労するのは安定してない家庭で育った人間だと思っていて。もちろん自分次第でプラスに持っていけるし、それがあって人に優しくなれたりするけど、でもできればそんなものはなくていいじゃないですか。苦しみがなくても人に優しくなれるし、そういう思いをしなくても幸せになれるから。自分がぶつかってきた壁の重さはそういった過去にあるから、ある意味取り憑かれていると思う。トラウマ的なところも少しはあるし。
――どういった環境で育ってきたのかということが、〈青い肌は元通りなのに消えない胸の傷/振り上げた腕は痛みになるとしか知らなかった12〉と始まる箇所から、具体的に書かれていますよね。
Leina:あざや怪我は治っていくけど、胸の傷は消えないままで。〈振り上げた腕は痛みになるとしか知らなかった12〉というのは、父に手を上げられていたことがあったので。父の教育がそういうタイプだったから。そういう意味と、実際にいじめられている子とかが「助けて」って腕を振り上げても、それが返り討ちになることがあるという意味も込めた1行です。〈自分が嫌いだった14〉〈死にたくてたまらなかった17〉も、2番も、リアルなんですけど、〈赤いライトで視界が染まる/聞かれた親の居場所と様子〉というのは――父が家を出てから、母は夜仕事で、基本的に夜は親がいなくて。熱が出たりインフルになったりしても親はいないので、弟が体調を壊したときは自分が面倒を見たり、逆に自分が体調を壊しているときは姉や兄が見てくれたりという感じで。〈赤いライトで視界が染まる〉っていうのは、自分が一番衝撃的だった、忘れられないシーンのこと。自分が11か12歳のとき、弟同士が殴り合いの喧嘩をしていて、弟が頭を殴られたのかな。目がうつろになっていて、今にも意識が飛びそうな状態で、自分が救急車を呼んで。それで警察も来て、そりゃ「親はどこにいるの?」ってなるし、近所の人にも見られていて。6、7歳の弟も大変だし、自分もまだ子どもなのにそういう状況に置かれている現実にすごくショックを受けたこともあって、真っ赤になっていた景色が忘れられなくて。〈幼い頃身に付ついたヒール〉はどこか大人っぽかったり、背伸びをしないといけない状況だったりしたことから書いた1行で、〈守ると決めたHold your brother’s hand〉というのは、まだ自分は子どもなのに弟を守らなきゃいけないっていう当時の感情を書いています。
――そういった環境や状況が、次のラインの〈Somebody love me./自分と違う周りとのバグ〉にもつながっていくということですよね。
Leina:小さい頃はこれが普通だと思っていたけど、小学校や中学校に上がったり、歳を重ねるたびに自分の家庭の異常さを知っていくんですよ。世の中には似たような環境の人や片親の人もいるだろうし、もっとひどい環境の人もいると思うんですけど。そういう環境の中でも自分は「好き」に執着して生きてきたし、夢とかは掴めるものだと思っていて。自分の音楽はヒップホップではないし、ラッパーと表現方法は違えど、でも成り上がっていけたらとは思っています。ここまで自分のことをリアルに書いたのは初めてだったんですけど、「真っ暗の中にわずかに霞む小さな希望」みたいな曲になっていますね。
――「成り上がりたい」というのは、メイクマネーしたいというだけではなくて――人間、幼い頃はどうしたって家庭環境が人格形成に影響を与えるものかもしれないけど、そこに抗って、自分次第で性格や思考を変えられるし、人生を幸せに歩めるのだということを証明したい、という気持ちがLeinaさんには強くあるのかなと。それが音楽や生きることへの原動力になっているのともいえますか?
Leina:本当に。だから〈溺れる様に生きる/心に蝕んだ信念を抱えて〉なんですよね。生きていく上で、自分でなんとかもがいて生きようとする考えが根本にあるかもしれないです。自分でなんとか這い上がっていこうとしている感じ。「人に寄り添いたい」というのもひとつの信念だけど、自分の中で「生きてやるぞ」的な感じで執着している信念があって、それを抱えているから生きられているのかなって思います。
――それこそが、Leinaさんが音楽をやる理由の深い部分なのだと明かしてもらった気がしました。世間からすればメジャーデビューは華やかなゴールみたいに見えるかもしれないけど、Leinaさんにとっては、生まれた環境がどうであれ自分次第で這い上がれるんだ、幸せになれるんだ、ということを自分のためにも証明してあげているまだ道中なのだろうなと。
Leina:絶対にそう。まだまだここからですね。やっとスタートに立てる。昔からずっと「0」って言ってきたんですけど、今やっと「1」になれたかな、くらいの感覚です。
――自分のリアルを綴りつつも、最後の〈深い海の/底まで/共に落ちよう〉には、音楽で寄り添いたいというLeinaさんが常々言っているリスナーに対する目線が書かれているじゃないですか。「One Week」では〈誰かの涙をかき集めた君に僕はなりたい/ただ一人で泣かぬ夜を共に作ろう〉と歌っていて、「One Week」と「Blue age」の核になっているテーマはどちらも「Leinaはなぜ音楽をやるのか」と「Leinaは聴き手に対してどうありたいのか」で共通していると思うんです。「Blue age」はひたすら自分のことを深く書いた曲である一方で、「One Week」は自分の内側と、「medicine」で発揮したようなSNSでの広がりも見えるポップ性、そして誰かへの人生のメッセージ、この3点が見事なバランスで組み上げられた曲になっていると思うんですけど。
Leina:前のインタビューのときに矢島さんからお言葉をもらったじゃないですか。「Leinaにとっての海が、ファンにとってのLeinaになればいいんじゃない」って。それで曲を作ったんですよ。
――メジャーデビューの作品では「夜中の海で、月が海面に映っていて、静か」といった情景を楽曲に落とし込みたいとおっしゃっていて。Leinaさんにとって海とは、「落ち込んだときに行く場所」「自分と対話するときに行く場所」「広い海を見たときに、自分の悩みがちっぽけに感じることがある」「海はただそこにいて、無理に励まそうとしてこない」「海は優しく感じるし、頼りたくなる」と語ってくれて、「それはまさにみんなにとってのLeinaさんの音楽では?」という話をしたんですよね。
Leina:矢島さんの言葉をもらって作ったんですよ。だから相当感謝しています。順番でいうと、「Blue age」より「One Week」を先に書きました。デビュー1発目でバズ曲とかにいくのは違うよなと思っていて、スタッフにも「Leinaの核を書いたほうがいいんじゃない?」って言われていたし、でも絶対に聴いてもらいたいから……変に意気込んじゃって、「何を書けばいいの?」ってなって。「One Week」は、「締切まであと1週間だよ。そこで曲が上がってないとやばいよ」という忠告が来ていたとき、本当に「One Week(=1週間)」で、しかも土曜日に書き始めたんですよ。だからちょうど自分が曲を書けなかった葛藤も楽曲には入っています(「One Week」は〈好きだったギターは埃を被って向き合う怖さから逃げてる/Saturday〉から始まる)。自分もジェットコースターみたいに、「今日最高だな」「自分は天才だな」と思う日もあれば、「マジで自分ってダメだな」みたいに思う憂鬱な日もあるから。人生には、いいときもあれば悪いときもある、というふうに波がある中で、Leinaの音楽で一緒に泣いたりできたらいいなと思って。でもこれはドライブとかでも聴けるように明るい曲調にしたくて、さっき言ってくださったように、自分ができるポップスの中で、内に秘めた自分が大切にしていることや日々抱えているものを書きたかったし、寄り添いたかったんですよね。〈一人で泣かぬ夜を共に作ろう〉っていうのは自分が聴き手に込めている想いでもあって、大切な曲になりました。
――〈諦めないで/幸せになる事〉というフレーズは、この曲のキーであり、今日の話を聞くとLeinaさんの核でもありますよね。
Leina:「Blue age」でも言っていることですけど、家族・家庭は、生まれながらにして逆らえない環境であって、人間が最初に経験する1つの小さな社会だと思っていて。そこの社会が安定してなかった場合、無防備に傷付くことが増えたり、生きにくさがあったりして、生きることに対しての希望を失ってしまうことがあると思う。そういう環境で生きた人が、最初からハッピーに希望に満ち溢れるっていうのは、すごく難しいことだと思っていて。一種のハンデだとも思っているから。でもそういう環境で生まれたとしても、もしくは今人生において悪いタイミングにいたとしても、幸せになることへの希望や、未来に対する期待は捨てないでほしい。だから今は一緒に泣こうよって。どうにもできない、どうにもならない苦しさや環境は存在するけど、そこに対して一緒に踏ん張るから、未来に対する希望や期待は捨ててほしくない、という自分なりの励ましでもある楽曲です。「One Week」は遊び心を持って歌ってはいるんですけど、〈諦めないで/幸せになる事〉が自分の伝えたい核のところですね。
――メジャーデビューで、たくさんの新しい人たちに自己紹介するタイミングで、ここまで自分のことをさらけ出して歌うのは、かなり勇気のいる選択だったと思うんです。詳細な情報を与えて、強烈なイメージを形成することにもなるじゃないですか。個人的なことを歌ったほうがリスナーと深く繋がれて「ポップス」になるという考え方もあるし、その真逆で、みんなが見たことのある景色や経験したことのある感情を書いたほうが「ポップス」になるという考え方もある中で、Leinaさんは思いっきり前者を選んだのだなと思いました。
Leina:本当に。楽曲によってその方向を変えてはいるんですけど、前者に振り切った曲を表題曲としてやらせてもらえるのはこの環境のおかげですね。チームに信頼してもらえているし、本質を見てくれているなと感じます。「Blue age」と「One Week」以外の2曲(「Moment」「恋に落ちるのは簡単で」)は共感的な方向なので、いいバランスのEPにはできたかなとも思います。……でもすごく勇気のいる選択ではありましたね。「本当に大丈夫? うち、絶対に売れたいよ。本当にいいのね?」みたいな(笑)。アーティストは生モノだと思っていて。特にシンガーソングライターは、その人がリアルに出会ったり感じたりしたものを描いていくから、自分も14歳のときと今とでは音楽性も書けるものも違うし。だからできることとしては、リアルを描いていくしかないのかなと思います。自分がこんなに苦労したことにも意味があったって、今はどこかで思えているんですよ。憎むほど劣悪な環境だったとしても、このお仕事をしている限り、よかったって思えるんです。こういう過去がある人が書く音楽や歌う歌は絶対に届くものがあると思っているし、自分はそこにプライドを持ってやっているから。のちほど見てもらいたいんですけど、「Blue age」はMVも自分の過去をリアルに描いた内容にしました。
――今、一緒に見てもいいですか? (オフライン映像を見て)めちゃくちゃリアルを並べたということですよね?
Leina:そうです、めちゃくちゃリアルを並べました。家族が見たらどう思うかなって、ずっとワクワクしているんですけど。うちはしょっちゅう弟に「何でもできるよ」「何でも叶うよ」って言っているんですけど、Leinaみたいに夢があるかって言ったら、弟たちはそうじゃないから。Leinaよりも幼いときに色々なことを経験しているから、きっともっと複雑に感じているし。今はとにかく、幸せになってほしい、自立して好きなことをしてほしい、腐らずに生きてほしいって思いますね。