Mrs. GREEN APPLE、Ado、LE SSERAFIM、EXILE、中島健人、ハンバート ハンバート……注目新譜6作をレビュー
New Releases In Focus
毎週発表される新譜の中から注目作品をレビューしていく連載「New Releases In Focus」。今回はMrs. GREEN APPLE「GOOD DAY」、Ado「風と私の物語」、LE SSERAFIM「the NOISE (Contains a Samples of 夜に駆ける)」、EXILE「Smile」、中島健人「IDOLIC」、ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」の6作品をピックアップした。(編集部)
Mrs. GREEN APPLE「GOOD DAY」
「クスシキ」「天国」「breakfast」「Carrying Happiness」「夏の影」に続く、6カ月連続配信リリースの最後となる新曲「GOOD DAY」(キリンビールの新ブランド「キリングッドエール」CMソング)は、爽やかな風を想起させるサウンドメイク、大らかな解放感をたたえたメロディが印象的な楽曲。70年代のモータウンを感じさせるテイストも反映され、古き良き音楽を現代的なポップソングへと昇華したナンバーに仕上がっている。〈不安定な情勢も/時代と生きれば園?〉というラインもそうだが、現在の世界を真っ直ぐに見つめつつ、ポップミュージックだけが持ち得る刹那的な楽しさにあえてフォーカスした歌詞も興味深い。大森元貴(Vo/Gt)の「この楽曲以前と以降で僕の作家としての想いが変わった、そんな楽曲です」(※1)というコメントも気になるが、その意味するところは来年以降、明らかになるはずだ。(森)
Ado「風と私の物語」
映画『沈黙の艦隊 北極海大海戦』の主題歌となる新曲「風と私の物語」。宮本浩次が作詞作曲を手がけた、エモーショナルで壮大なミディアムバラードだ。〈風と空と雲と街と私〉という冒頭のフレーズ――少しずつ音階が上がっていく――によって聴く者をグッと掴み、目に映る日常を描きながら、〈届けあなたに私の愛と、そう歌よ〉という大サビへとつながるこの曲は、全編に濃密な“宮本節”が流れているのだが、Adoはそのすべてを素直に受け入れ、一つひとつの旋律と言葉を丁寧に紡ぐことで見事に“Adoの歌”へと結びつけている。楽曲を通した2人のコミュニケーション。それこそが「風と私の物語」の醍醐味なのだと思う。生楽器の音色を活かし、大らかなダイナミズムを表現したまふまふのアレンジも要注目だ。(森)
LE SSERAFIM「the NOISE(Contains a Samples of 夜に駆ける)」
10月12日、13日に行われる『ZOZOFES』における、LE SSERAFIMとYOASOBIの共演を記念する新曲。実際にはYOASOBIの「夜に駆ける」を発展させたコラボで、BPMをかなり落とし、甘く柔らかなソウル/R&B風に換骨奪胎。歌い出しや歌詞の一部は原曲どおりikuraが歌うが、それ以外は新しく書き下ろした内容をLE SSERAFIMのメンバーが歌っている。大ヒットから5年経った今、すでに定着している楽曲のイメージを塗り替えていく作業は、作者であるAyase本人にとってもかなり刺激的だったのでは。かつて〈忘れてしまいたくて閉じ込めた〉と歌った日々も、今は〈光を照らしてくれたから〉と過去形で振り返ることができる。歌詞の違いに一番グッときた。(石井)
EXILE「Smile」
じつに4年5カ月ぶり、通算52枚目のシングル『Get-go!』に収められた「Smile」は、EXILE ATSUSHIが作詞を担当している。楽曲全体に流れるテーマは、曲名通り、笑顔の大切さ。すぐ近くにいる大切な人、愛する人に笑顔を見せてあげよう。そこで生まれる温かなムードは少しずつ広がっていき、いつの日かきっと、自由で色鮮やかな世界が訪れる――。こういうピュアな思いをストレートに届けられるのもEXILEの魅力であり、このグループが四半世紀近くもエンタメシーンの第一線で活躍している理由でもあるのだろう。ライブでのシンガロングが想像できる、心地よくて大らかなメロディもこの曲のポイント。11月から始まる約3年ぶりのドームツアーでも、メンバーと観客をつなぐ役割を果たしそうだ。(森)
中島健人「IDOLIC」
昨年ソロデビューした中島健人の2ndシングル。本人コメントに「ノンタイアップです。この楽曲は中島健人という人生の主題歌だからです」(※2)との文言があるように、アイドルとして生きてきた彼が、さらなる〈Top Star〉へ進化、〈偶像を超える ver2.0〉になっていく、そんな宣言の一曲だ。もちろん作詞は中島本人。グループ在籍時代から大切にしていたワード〈Sexy〉もふんだんに散りばめられている。作曲担当はMONJOEで、アッパーなダンスミュージックとして始まるトラックが、カオスな鍵盤やノイズを呑み込みながら、2番に入ると一気にジャジーになっていく。スピードに乗り押し切っていくタイプの曲だが、奥行きがちゃんとあるのがポイント。(石井)
ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合)主題歌となる新曲。なんと歩みの遅い曲かとまず驚いた。実際のBPMも、歌声から漂うまったりムードも、マンドリンやウクレレなどの響きも、この時代のスピードみたいなものを完全に無視している。とはいえ、生活の悲喜こもごもを丸呑みしながら〈日に日に世界が悪くなる〉予感や〈野垂れ死ぬかもしれないね〉といった未来図まで描く歌詞は、はっきりと現代に通じるもの。時流やタイパに追われているだけでは、変わらない人間の営みを描くこともできないのだと深く納得してしまう。そして何より、この曲、何度聴いてもまったく飽きない。息の長い夫婦デュオとして活動するハンバート ハンバートの本領がここに。(石井)
※1:https://realsound.jp/2025/09/post-2167475.html
※2:https://www.oricon.co.jp/news/2409363/full/