「河村隆一というエベレスト級の存在が僕にとっての歌だった」 INORAN、『ニライカナイ』再録盤で目指したもの

“歌い直す”からこそできること


――では、今回の歌のレコーディングにはどう向き合っていきましたか。

INORAN:当時、この曲とこの歌詞で何を伝えたかったかということを全部覚えているわけではないんですけど、なんとなく覚えてる情景や情感はあって。そういうことを思い出しながら、歌詞に収まりきっていないシチュエーションや感情を考えて歌うと、言葉やメロディ、曲がさらにふくよかになるような感覚がありました。たとえば「いつまでも見つめていたい」という歌詞で、「いつまでも“ずっと”見つめていたい」のか、「いつまでも“そばで”見つめていたい」のかを考えたり。さらに「1番と2番ではどう違うのかな?」とか。より深く想像することで発音の仕方が変わったり、歌の強弱が変わったりするのはすごく面白かったです。

――自分が書いたものの行間を読む感覚ですか。

INORAN:そうそう。一度作ったものを歌い直すという作業だからこそできることですよね。「ここで作ったな」とはっきり覚えている曲もあるし、今はないものもたくさんある。ないものに対しては歌えないから、じゃあ何を歌ったらいいのかを考えたりしました。

――もちろん音の細かい部分でも違うんですが、個人的にはバラードでのINORANさんの歌や声の印象が、再録で変わったポイントだと思いました。当時は訴えかけるようなイメージだったところが、包み込むようなイメージになっていたり、歌の温度感がいちばん違うなと。

INORAN:やっぱり、相手に届けるということに対しての自分の思考が変わったからね。何があろうと僕はここにいて、君の存在を感じるんだということを届けたい。届けたいことがあるから届けるんだというーーあらためて歌にはそういう気持ちが大事なんだということが、たぶんオリジナルの時よりはわかるようになった。それは、本当に経験が生んでくれた感情や意識だと思います。音の旅をずっと続けたいという部分は変わらないけど、見ている景色がまったく違う。見えている景色と、見たいと思う景色、見ようとしている景色の大きさが全然違うかな。

――特に印象が変わったのが「存在のカケラ」で。アレンジ自体が変わっている点もありますが、同じ歌詞でも、それこそ歌で描いている景色が違うというか。

INORAN:『ニライカナイ』のオリジナルは沖縄でのある1日を表現していて、そのなかでも「存在のカケラ」は夕暮れを描いているんです。つまり、夜がきて一日が終わっていくところなんですけど、その情感はたしかに今と全然違いますよね。たぶん夕日の見方も違うし、感じ方も違う。同時に変わらないところもあるという今の自分の感じ方を、うまく落とし込めたかなと思います。

――当時の〈これから何処へ向かおう〉というフレーズには、少し迷いのような感覚とかはありましたか。

INORAN:いや、それはなかったですよ。当時も今も、喜びや期待のワクワク感を持った〈これから何処へ向かおう〉ですね。夕日は沈んでいくけど、また次の日には太陽が現れるわけで、「じゃあ明日は何をしよう?」という気持ちにもなれる。だから、決して悲しいことや切ないものの象徴ではないというのは以前から思っていたことです。当時の歌の表現では、ポジティブな感じがちょっと伝わらなかったのかもしれない(笑)。

――いやいや。リリース当時に聴いた自分の感覚が影響したのかもしれないです。

INORAN:年齢を重ねてきて死生観も変わったし、当時は終わりがないと思っていたものにも終わりが必ずあることがわかってきて。だからこそどう生きていこうか、という気持ちなので、ポジティブさも当時とは違ってきますよね。まだまだまだやりたいことがたくさん……たぶんやり尽くせないくらいたくさんある。いろんなところに行ってみたいし、たくさんの人といろんな話をしたいから、もう進んでいくしかない。一緒に先に進みたい。それだけですね。ここは全然変わらない部分です。

――なるほど。

INORAN:でも、オリジナルとどこが違うか、客観的にみんなが何かいろいろ考えてくれると、俺としてはうれしいです。ただ、LUNA SEAで『MOTHER』と『STYLE』をリメイクして、今回『ニライカナイ』を作ってみて感じたのは、比べられるものではないのかなって。比べて聴いてもらう楽しさもあるけど、いい意味でそこを超えられたかなと思っています。

料理本、刀鍛冶、YouTubeチャンネル……尽きない“冒険心”の源泉

――「まだまだやりたいことがたくさんある」と仰るとおり、去年は料理本『INORAN KITCHEN』(主婦の友社)を発売したり、今年はYouTubeチャンネルを始めたり、「INORAN QUEST」という企画で刀鍛冶や藍染めに挑戦したり、音楽以外にもさまざまなことに挑戦されてますよね。

INORAN:出会ったものを大切にするということが、今後の活動のなかで大事な軸になると思っていて。いろいろやればやるほど強く感じるので、以前よりそこを大切にしているかもしれない。

――挑戦すること自体というより、新しい人との出会いがモチベーションなんですか。

INORAN:そうですね。全然、戦略めいたものではないです。昔はイメージみたいなものを大切にすべきだと思っていた時期があったし、自分で消化できないことに手を出すのはナンセンスだと思っていたけど。今はいろいろな話が自分のところにくるので、そういうものを素直に受け入れたらどんな自分が映し出せるんだろうっていう冒険心です。成功でも失敗でも、やったぶんだけ何か得るものがあるので。

――「まさかINORANさんが!」みたいなリアクションも面白がれていると。

INORA:そう思ってくれたらうれしいです。でも、当然ながら音楽があるからできることですよ。コンスタントに作品を作れているから、ほかにもいろいろやっていいんじゃないかなと。

――興味が尽きないのがすごいなと思います。

INORAN:最終的に、なんでも自分の経験値にしたいんですよ。刀鍛冶に挑戦したって刀が作れるわけじゃないけど、ものを作っている人や伝統に触れると心からリスペクトできる。じゃあ、「そこから自分の音楽人生のなかに活かせるものは何だろう?」って、いろんな人に会えば会うほどそういう気づきがあるんですよね。昔からそうなんですけど、同じジャンルの人の話を聞くよりも、違う世界に生きている人たちを見たほうが自分に置き換えた時に勉強になると思うタイプで。

――各ジャンルのプロの考え方から学ぶものってありますよね。

INORAN:そうそう。それこそテレビ番組の『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK総合)を観て、みんな自分に重ねたり、自分の仕事に置き換えるでしょ? 同じように、僕もいろいろ挑戦して、音楽に落とし込んでいきたいんです。

――少し方向性が違いますが、8月に開催された『DEZERT Presents SUMMER PARTY ZOO 2025』に「SONIC DIVE」というセッションバンドで参加されていて。普段交わらないアーティストの方々との共演が新鮮でしたし、まさかINORANさんがPANTERAを弾いているところを見れるなんて!と驚きました。

INORAN:本当だよね(笑)。昔だったら「PANTERAはちょっとイメージじゃないよ」と言っていたかもしれないけど、やってみたら、こうして共通の話題が生まれたりするじゃないですか。今は、どんな海に飛び込んでも泳げる自信があるから。まずは飛び込んでみる、入ってみる。その積み重ねが大事なんだろうなと思います。

――INORANさんご自身が挑戦を楽しんでいるのが伝わってきます。

INORAN:何事も楽しまないと損だよね。そのマインドを持つか持たないかで、やっぱり人生の豊かさが違うと思うから。

――INORANさんの挑戦を通して、新しい出会いを得た人も多いんじゃないかなと。

INORAN:そうしていきたいですよね。せっかく音楽をやっているんだったら、人を苦しめるようなものは書きたくもないし、ポジティブな連鎖を生んでいきたい。

――そして、9月からツアーがスタートします。『ニライカナイ』を中心にしたセットリストになりそうですか?

INORAN:基本的に当時のセットリストを再現しようとは思っていますけど、今のバンドでどうなるか、リハーサルしてみて考えようと思っています。最近の曲を入れるのか、再現するのか、どっちに転んだとしても満足できるライブにしたい。今のメンバーで『ニライカナイ』の曲をやるのも楽しみだし、みんないろんなものを持ち寄って集まってくれるライブだと思うんですよ。当時(ライブに)来ていて、最近は来ていなかった方もいるだろうから、ぜひそれぞれの想いで楽しんでくれたらいいなと思います。タイムリープというか、時間を行き来するようなライブになるんじゃないかな。そこで僕もライブという海のなかに飛びこんで、どうやって泳ぐか……今は一方的に歌っている状態なので、実際にみんなから跳ね返ってきたと時にどう思うか。またそこで歌も曲も成長を始めるかもしれない。

――ツアーファイナルの前に『LUNATIC FEST. 2025』があり、スケジュール的には大変そうですが……。

INORAN:全然大丈夫ですよ。ライブ4連チャンとかやったこともあるし(笑)。切り替えるのは歌とギターのフレーズと機材だけで、ステージで感じるものは一緒なので。問題ないというより、むしろそのほうが楽しいです。

■リリース情報
『ニライカナイ -Rerecorded-』
発売中
配信リンク:https://king-records.lnk.to/Niraikanai_Re

【通常盤】
品番:KICS-4228
価格:¥3,520(税込)
仕様:CD only
先着購入特典:チケットファイル

【KING e-SHOP限定盤 -LP SIZE DIGIPAK仕様-】
品番:NKZC-60/61
価格:¥18,700(税込)
仕様:CD + Blu-ray + 写真集(-LP SIZE デジパック仕様-)+オリジナルTシャツ(サイズM/L/XL)
POS:4988003-656812

<CD 収録内容>
01. Determine
02. Unstoppable
03. Diffused reflection
04. Walk along
05. Cloudiness
06. 時の色
07. Anything
08. I miss you
09. Discus
10. 存在のカケラ

<Blu-ray 収録内容(予定)>
・「Determine」MV
・Making of「ニライカナイ -Rerecorded-」

<初回封入特典:購入者限定イベント抽選参加券>
・イベント開催日程
2025年11月22日(土)
・会場
当選者のみにお知らせいたします。
・イベント内容
トーク&握手会
※詳細は下記をご確認ください。
https://www.kingrecords.co.jp/cs/t/t16428/

■公演情報
『INORAN TOUR Determine 2025』

9月27日(土) 渋谷CLUB QUATTRO
OPEN 16:15 / START 17:00

10月03日(金) 福岡DRUM Be-1
OPEN 18:00 / START 18:30

10月05日(日) 広島SECOND CRUTCH
OPEN 16:30 / START 17:00

10月11日(土) 梅田CLUB QUATTRO
OPEN 16:15 / START 17:00

10月12日(日) 神戸VARIT.
OPEN 16:30 / START 17:00

10月18日(土) 仙台darwin
OPEN 16:30 / START 17:00

10月25日(土) 水戸LIGHT HOUSE
OPEN 16:30 / START 17:00

10月26日(日) 柏PALOOZA
OPEN 16:15 / START 17:00

11月01日(土) 名古屋CLUB QUATTRO
OPEN 16:15 / START 17:00

11月02日(日) LIVE ROXY 静岡
OPEN 16:30 / START 17:00

11月15日(土) 渋谷CLUB QUATTRO
OPEN 16:15 / START 17:00

<チケット料金>
通常チケット:スタンディング ¥8,000(税込)

各プレイガイドにて発売中
・イープラス https://eplus.jp/inrn2025/
・ローソンチケット https://l-tike.com/inrn2025/
・チケットぴあ https://w.pia.jp/t/inrn2025/

公式サイト:https://inoran.org/
レーベルサイト:https://www.kingrecords.co.jp/cs/t/t16340/
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCDioAIpaCeOyjcnfkMmUERA
X(旧Twitter):https://x.com/INORAN_OFFICIAL
Instagram:https://www.instagram.com/inoran_official/

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