細美武士、ELLEGARDENとMONOEYESの制作に挑んだ濃密な1年 アニメソングの影響からLAレコーディング秘話まで
ELLEGARDENが新曲「カーマイン」を8月10日に、MONOEYESがニューアルバム『Running Through the Fire』を9月3日にリリースした。前者はTVアニメ『ONE PIECE』オープニング主題歌として書き下ろされた、ELLEGARDEN初のアニメタイアップ曲。対して後者は結成10周年を迎えたMONOEYESにとって約5年ぶりとなるフルアルバムだ。ほぼ同時期に2バンドの制作を行うことは、両バンドのフロントマンである細美武士(Vo/Gt)にとっても初めてだったという。そんな、ELLEGARDENの新章を飾る「カーマイン」、MONOEYESの集大成でありつつも新鮮な制作スタイルが取られた『Running Through the Fire』について、細美にインタビュー。ハードスケジュールの中でも一切妥協のない在り方や、少年時代にアニメソングから受け取ったもの、プロデューサーであるマイク・グリーンとの共同作業などについて、詳細に語ってもらった。(編集部)
ELLEGARDENとMONOEYES――2軸の制作に至った背景
――ELLEGARDENの新曲「カーマイン」に続いてMONOEYESのアルバム『Running Through the Fire』も完成しましたが、どちらも聴かせていただいて、全身全霊で制作されたことが伝わってきました。
細美武士(以下、細美):よかった。ついこの間マスタリングが終わったばかりなんで、たぶん、初めて聴いてもらったうちの一人じゃないかな。
――じゃあ、でき上がったばかりということですか?
細美:そうですね。1週間経っていないんじゃないかな(取材日は8月上旬)。
――2024年の夏に『The Unforgettables E.P.』の取材をした際に、「2025年にはアルバムをリリースしたい」って、細美さんはじめメンバーの皆さんはおっしゃっていて。そのあたりから、アルバムに向けて走り続けていたわけですよね。
細美:そうですね……最初はMONOEYESのアルバムのことだけを考えていればよかったんだけど、ELLEGARDENの『ONE PIECE』のタイアップの話が(2024年の)秋に飛び込んできて、制作が2軸になったので。それは初めての経験でしたね。
――これまでは、それぞれのバンドで時期をセパレートして活動をしてきたという。
細美:もちろん完全には分けられないんですけどね。できるだけ“the HIATUSの年”、“MONOEYESの年”、“ELLEGARDENの年”っていうふうにしてきたつもりです。だから2つのバンドの制作を同時期にするのは初めてでしたね。
――今までのスタイルを覆してでも『ONE PIECE』のタイアップはやりたいことであったと。
細美:そういうことです。
――実際やってみていかがでしたか?
細美:ええっとねえ……まず、2025年の1月、2月のスケジュールは空けてあって、そこでMONOEYESのアルバム曲を書いて、作詞もある程度完成させてから、春にロサンゼルスに飛んでレコーディングしようと思っていたんですよね。でも、2024年の11月末に『ONE PIECE』の話が来て。その締め切りが(MONOEYESのアルバムよりも)先だったんですよ。じゃあ先に『ONE PIECE』の曲を書き上げて、MONOEYESのアルバム曲の制作に入っていこうと思ったんですけど。『ONE PIECE』の曲を書き上げるのに、いつまでかかったのかな……わりとMONOEYESのアルバム制作に使おうと思っていた時期を、まるまる「カーマイン」の制作に使い切ってしまって。なのでMONOEYESのアルバム曲は、ELLEGARDENのヨーロッパツアー(日本・台湾・ヨーロッパを回った『FEEDER x ELLEGARDEN Sonic Bridges Tour 2025』)をやっている間にバスの中で制作したりしていました。
――それって今年の5月ですよね。めちゃくちゃ最近じゃないですか。
細美:そうですそうです。
――しかもバスの中で!?
細美:ロンドンのホテルとかでもやってました。去年から作っていたものがほとんどだったのでできたんだと思いますけど、自分でもどうやってやったんだろうなとは思います。「カーマイン」もMONOEYESのアルバム曲も、どっちも手は抜きたくないし、「これでいいか」っていうのは性格的にできないし。一つのことしかできないので、『ONE PIECE』の曲が完成するまでは、MONOEYESのアルバム曲に手をつけられなくて。ただ、いつもはギターとかベースとかドラムも、ある程度作り込んでからレコーディングするんですけど、今回のMONOEYESはマイク(プロデューサーのマイク・グリーン)のプロデュースなので、コードとメロディぐらいの段階でロサンゼルスに持っていって、そこからマイクと一緒に作っていった感じです。
ELLEGARDEN、初のアニメタイアップから得た刺激の数々
――せっかくなので時系列に準じてお話を伺っていきたいんですけど。「カーマイン」に時間がかかったのは、ELLEGARDENのネクストフェーズの第一歩を表現するっていう意味で熟考したのか、それとも『ONE PIECE』のタイアップというハードルがあったのか。いろんな理由があると思うんですが。振り返ってみていかがでしょうか?
細美:その両方ですね。今まで何かの作品に対して音楽を当てたことがなかったので、模索するのに時間がかかりましたね。もともと『ONE PIECE』は大好きだったので、視聴者の皆さんや、アニメや漫画を制作している尾田(栄一郎)先生をはじめとした皆さんに「ELLEGARDENでよかった」「こういう曲が欲しかったんだ」と思ってもらいたくて。なおかつ、今クライマックスに向けて走り出しているELLEGARDENの幕開けの曲になるから、その全部を100点で満たすには、どこから取り掛かったらいいんだろうなって。単純に作品に音を当てるだけだったら、もしかしたら作品に寄り添うだけでよかったのかもしれないけれど。『ONE PIECE』の今回のクールの物語と、キャリアの最終盤に差し掛かる俺たちが重なっている部分を描かなきゃいけなかったというか。
――なるほど。
細美:テーマ自体は早めに見つかったんですけどね。ざっくり言うと“強い覚悟”みたいなもの。目標に向かって突き進むために、自分が何かを差し出す覚悟みたいな。今回『ONE PIECE』のバーソロミュー・くまとジュエリー・ボニーの2人の主人公と、今の自分たちのバンド活動の、共通するテーマがそこで描けるかなと思いました。ただ、その覚悟を強く感じられる楽曲ってどういうものなんだ? っていうのを音に変えていく作業が……俺は理路整然と「だったらマイナーキーがいいな」とか、「こういうコード進行がいい」とか、そういうことを考えて曲を作れるタイプじゃないので。手当たり次第に作曲して、こういうテーマと歌詞がはまる曲が出てくるのをひたすら待つ、みたいな作業だったんですけど。なかなか納得いくものができなくて、「カーマイン」ができたのが結局60曲目ぐらいですね。それで1月下旬にデモを録って提出して、フル尺が録り終わったのが4月でした。
――「カーマイン」という曲名もですけど、色や風景、季節を感じさせるワードも多くて。とても映像的な印象を受けたんですね。そのあたりはどういうところから発想していったんでしょうか?
細美:『ONE PIECE』って、夏の抜けるような青空とか明るい色が並んでいるイメージも強いと思うんですけど、もう一つの冷酷な世界観というか、何かを犠牲にしないと何かが手に入らないような、そういう部分がしっかり描かれているところがすごい好きで。特に今回のクールは戦闘シーンが多いし、明るかった平和が赤一色に塗りつぶされていく感じがある。だから、濃い赤一色で世界が塗りつぶされていく戦場の色、みたいなイメージで作詞してました。
俺が子どもだった頃のアニメの主題歌って、今みたいにバンドがタイアップをやるようになる前で、ほとんどがそのアニメのオリジナル曲だったんですよね。『(聖戦士)ダンバイン』『(重戦機)エルガイム』『(機動戦士)ガンダム』とか。そういう主題歌の歌詞って今と比べて、あまり子ども向けを意識して書かれていなかったように思うんです。『ダンバイン』のエンディングの「みえるだろうバイストン・ウェル」の、〈あなたが編んだ レェスをすかし/のぞいた景色は/ひどく自由な 大人の世界〉っていう歌詞は特に好きです。『ザブングルグラフィティ』のイメージソングの「Coming Hey you!」に〈唇の汗 お前が舐めて/夢なんて/ガソリンで燃やしちまって〉って歌詞があったり、『銀河鉄道999』主題歌の〈そうさ君は 気づいてしまった/やすらぎよりも 素晴らしいものに〉〈あの人の目が うなずいていたよ/別れも愛の ひとつだと〉(ゴダイゴ「銀河鉄道999」)みたいに、かなり芯食ったメッセージがしっかりとアニメソングに入っていて。それが子どもだった俺にとっては、難解どころか、最も求めていたものだったような記憶があるんです。今でも、ポップソングの中にあるふわっとした優しい歌詞よりも、幼少期に出会ったアニメソングに書かれていた真実のほうに、心惹かれてしまうところがあります。あの頃のアニメソングに受けた影響や感動は、いまだにミュージシャンとしてのモチベーションになっているので、だから自分もそういう曲を書きたいと思いました。
――「カーマイン」は、子どもが聴くことも想定して書いたんですね。
細美:もちろん。自分みたいに、大人になってミュージシャンになって、インスピレーションが枯渇したときに、子どもの頃に聴いた『ONE PIECE』の曲のこの部分がずっと頭に残っているんだよな、みたいに思ってもらえたら、未来の誰かの背中を押せたりする可能性もあるので。しっかり書き込んでおきたいと思っていました。
――細美さんのロックのルーツにフォーカスすることはあったんですが、遡ればアニメやアニメソングが精神性や世界観に影響を与えているところも結構あるという。
細美:結構あるっていうか、わりと大きいです。歌詞を書いていて、どうしてもチープなものしか出てこないときとかに、遥かに高いレベルのものに1回触れて、このレベルのものを作らなきゃダメなんだって自分に言い聞かせたくなる瞬間があります。そういうときはよくTHE BLUE HEARTSとかを聴くんですけど、それでも足りないときは今言ったようなアニメソングをひと通り聴いてます。
――ただ、これまでの『ONE PIECE』の主題歌って、ストーリーのキラキラした側面を音像化したものが多かったと思うんです。なので、今回の「カーマイン」を尾田栄一郎さんやアニメ制作サイドがどう受け取ったのかも気になったんですが、どういうリアクションでしたか?
細美:レーベルからの又聞きですけど、すごく喜んでくれたそうです。尾田さんとは一度だけメッセージのやり取りをさせていただいて。内容については個人的なことなので触れないですが、曲を気に入ってくれていたようなので、想像ですけどたぶんELLEGARDENに発注した時点で欲しかったのはこういうものだったんじゃないのかなと思います。「意外だった」と思われた印象はなかったです。
――ELLEGARDENの新章の幕開けを告げる楽曲という意味合いではいかがでしょうか。極端な話、これからは日本語詞が多くなることを示唆しているわけではないですよね。
細美:そもそも『ONE PIECE』からのオーダーが、「日本語詞でアップテンポなもの」っていうことだったので。最初から日本語縛りでELLEGARDENの曲を書いたことがなかったんで、そこも新しいチャレンジだったんですよね。いつもは英語で仮詞を書いて、日本語に変えられそうなものを頑張って変えるっていうやり方をしてるので。それは生みの苦しみにつながったけれど、得るものも多かったです。最初から日本語で書くと、当たり前ですけど日本語のリズム感にすごくはまった曲ができるんだなって思いました。ただ、海外のファンには英語のほうが意味が伝わりやすいので、今まで通りどっちもやっていくと思います。
――そして、次作が出る時期も、きっと未定ですよね。
細美:そうですね。まだこの曲しかないので。これを書くのに60曲用意しなけゃいけなかったっていうことは、あと10曲プラスするためには600曲ぐらい作らなきゃいけないので。1曲作るのに半年近くかかったっていうことは、10曲作るには普通に考えたら5年はかかる。そんなことになったら大変だなと思いつつ、かかっちゃうならしょうがないかなという感じです。
――「カーマイン」がリリースされる情報が出る前に、MV撮影のエキストラ募集のニュースが出ていて。何かしら新作が出るんだろうなとは期待していましたが、ライブ形式で撮ったんでしょうか?
細美:そうですね。(MVの)監督が「エキストラを入れて、ライブシーンを撮影したい」ということで。じゃあ普段ライブに来ている人たちのほうがリアルな絵が撮れるんじゃないんですか? っていうことで、募集させてもらった形です。
――『ONE PIECE』という映像作品の主題歌を、自分たち発信のMVではライブ形式にするというのも二面性が見られていいと思ったんですが。このあたりの方向性というのは?
細美:それは監督の要望ですね。MVは、半分以上は監督の作品なので、そこに関して俺が語り切ることはできないですけど。ただ、撮られる側としては、4人とも演技がまったくできないんですよね(笑)。だから「カメラの前で熱量を持って演奏してくれ」って言われても基本的に無理なんですよ。家で練習しているような表情しかできないので。今回は、実際に普段ライブに来てくれているような人たちが目の前で盛り上がってるときにしかならない表情になったと思う。撮影もやりやすかったし、俺たちの中では一番かっこいい姿が撮れたのかなと思います。