乃木坂46、“神宮の夏”はなぜこんなにも特別なのか――10年の歴史に刻んだグループの誇り、未来への約束
初期メンバーの1期生や2期生が卒業した2023年、乃木坂46が新たなスタートを切ったことは記憶に新しい。その年の夏、3期生から5期生までの全メンバーが一丸となって臨んだ『真夏の全国ツアー2023』では「ここに立てていない子(メンバー)もいるんですけど、全員で乃木坂46。歴史をつないできてくださった先輩方にも感謝しつつ、皆さんと一緒に新たな歴史を紡いでいきたいです」(※1)という決意とともに、先輩から受け継いだ伝統を心に抱えながら乃木坂46の新しい形を見事に提示。明治神宮野球場最終公演(2023年8月28日)の最後の最後に、キャプテンの梅澤美波が堂々と発した「私たちが乃木坂46です!」という言葉は多くのファンに心に刻まれたことだろう。
続く、2024年夏の『真夏の全国ツアー2024』は「メンバー全員がプリンセス」というテーマを掲げ、一人ひとりが主役としてステージに立つ。この年は大阪・京セラドーム大阪、愛知・バンテリンドームナゴヤのドーム会場に加え、恒例の神宮公演という大規模会場でのツアーとなったが、前年のツアーで得た手応えをもとに彼女たちらしい堂々としたパフォーマンスで観客を魅了。と同時に、「私たちはもっともっと強くならないといけない」という現状に甘んじることない力強い言葉も耳にすることができた(※2)。
そして迎えた、2025年の夏。一昨年、昨年までの3〜5期生に、今年加入した6期生を含む計38名(6期生の小津玲奈は学業のため本ツアーを欠席)で臨んだのが7都市16公演におよぶ『真夏の全国ツアー2025』だ。今回のツアーのテーマは「メンバー全員がヒロイン」。昨年のツアーと趣旨は重なるものの、今年から6期生が加わったことでまた新たな見せ方や見え方があるはず……筆者はそう確信して、ツアーの最終地点となる神宮4DAYS公演に足を運んだ。
ここ2年は台風の接近がありながらも、公演中は雨に見舞われることなく開催された乃木坂46の神宮公演だったが、今年は初日の9月4日のみ“雨の神宮”を久しぶりに体験。とはいえ、かつてのような豪雨というわけではなく、ライブ中に小雨が降るといった程度で、体力を大きく奪われるようなものではなかった。この日は3期生加入9周年というタイミングと重なり、アンコールでは「三番目の風」が披露されるサプライズも用意。続く5日のDAY2公演は台風15号の接近が懸念されたが、開演間近には夕焼けが顔を見せるなど好天に恵まれる。さらに、6日のDAY3公演はここ数年の“乃木坂46の神宮”らしい晴天のもと実施され、当日誕生日を迎えた3期生・吉田綾乃クリスティーを祝福する場面もあった。天候はもちろん、会場で感じる温度感や日替わりのセットリスト、その日ならではのトピックなどもあり、3公演ともまったく違った印象を受けた。
そして、ついに迎えた9月7日のツアー千秋楽。「メンバー全員がヒロイン」というテーマのもと、頭に小さな王冠を乗せたメンバーがステージに登場すると、ライブは本ツアーの座長・賀喜遥香をセンターに迎えた「君に叱られた」から勢いよくスタートする。最初から38名が一丸となって届けるステージは、王冠をモチーフにした豪華な宮殿風ステージセットの効果もあってか実に華やかなものだ。
以降も遠藤さくらセンターの「ジコチューで行こう!」、川﨑桜センターの「裸足でSummer」、一ノ瀬美空センターの「ガールズルール」と最新シングル『Same numbers』のフロントメンバーが次々に中心に立ち、歴代の夏ソングを今の乃木坂46らしい形で披露。センターでまばゆい輝きを見せる彼女たちに引っ張られるように、6期生を含むほかのメンバーたちも満面の笑みで元気いっぱいのステージを繰り広げていく。今年5月に開催された『乃木坂46 13th YEAR BIRTHDAY LIVE』(※3)では初々しさやぎこちなさが随所から伝わってきた6期生も、初めて先輩メンバーと一緒になって約2カ月におよぶツアーを積み重ねてきた結果か、その表情や動きから自信がしっかり伝わり、乃木坂46の一員としての自覚がしっかり備わったのだろうと実感させられた。
続くブロックでは「ネーブルオレンジ」をはじめ、今年リリースされた楽曲を中心に展開。神宮中に響き渡る井上和&中西アルノの堂々とした歌声は、聴き手に安心感を与えてくれると同時に、彼女たちをはじめとする5期生が今やグループを牽引する重要なポジションであることを再認識できた。かと思えば、瀬戸口心月をセンターに据えた6期生楽曲「なぜ 僕たちは走るのか?」ではフレッシュさの中に熱い闘志のようなものも垣間見え、彼女たちの今後の活躍がより楽しみに。
日替わりで披露されるユニット曲「ってかさ」(前日の公演では「君と猫」を披露)では、林瑠奈や小川彩、川﨑によるリズミカルなラップと遠藤、賀喜、弓木奈於の心地よい歌声が見事な対比を生み出し、観る者を夢中にさせる。そして、39thアンダーメンバーによる「不道徳な夏」では強い爆発力を持つ楽曲の魅力も相まって、センターの金川紗耶を中心とした前のめりなパフォーマンスで、会場を熱狂の渦に巻き込んだ。この1曲だけで、10月に予定されている『39thSGアンダーライブ』への期待が高まったファンも、きっと多かったことだろう。