kurayamisakaが体現する“美しい矛盾” 時代を超えゆく屈指の1stフルアルバムを5人の視点から語る

 国内インディ/オルタナシーンにおいて、今最も注目度の高いバンド kurayamisaka。1990年代〜2000年代のオルタナティブなギターロックをルーツに持ちつつ、別れや青春の情景を描いたメロディラインが非常に美しく、結成直後にリリースされた1st EP『kimi wo omotte iru』(2022年)は幅広いリスナーの耳を捉えて話題となった。せだいやyubioriといったメンバーが共通しているバンドをはじめ、ギターサウンド中心のインディロックシーンの底上げを担いながら、2025年には『FUJI ROCK FESTIVAL '25』への出演も果たした。

 そんなkurayamisakaが満を持して1stフルアルバム『kurayamisaka yori ai wo komete』を9月10日にリリース。終わりや悲しみを滲ませた物語性溢れるソングライティング、刹那を切り取ったような美しいメロディラインにはさらなる磨きがかかり、ついに彼らは2020年代を代表する傑作アルバムを作り上げたと言っていい。あらゆるコンテンツがファストに消費されていく時代に、kurayamisakaが未来に残したい鮮烈な輝きとは何か。音作りからバンドとして体現したいことまで、清水正太郎(Gt)、内藤さち(Vo/Gt)、堀田庸輔(Dr)、フクダリュウジ(Gt)、阿左美倫平(Ba)の5人に話を聞いた。(信太卓実)

5人それぞれが持ち寄った初期衝動

――本当に素晴らしい1stアルバムです。国内外の様々なオルタナ系バンドのリファレンスが思い当たりつつ、まず何よりも豊かなメロディに胸打たれる作品でもあって。ご自身たちとしてはkurayamisakaをどんなバンドだと捉えていますか。

清水正太郎(以下、清水):当たり前ですけど、メンバーみんなバンドが好きなので、自分が思う「こうしたら絶対かっこいいよね」というものを持ち寄って楽曲にしているバンドだと思いますね。今の少年少女たちが僕らの音楽を聴いて「これは新しいものだ」と思ったなら「僕らは全然新しいことをしていないから、どんどん他のバンドも探ってくれたら嬉しい」って思うし、逆に「この感じ、聴いたことある」と思ったなら「その感じを現代なりに解釈して新しく打ち出したサウンドです」とも思っていて。矛盾しているんですけど、そういう聴かれ方をされていたら嬉しいです。

フクダリュウジ(以下、フクダ):個人的な話になっちゃうんですけど、どこまで他のバンドよりも大きい音を出すかを突き詰めているところがあって。それと(内藤)さちさんの素敵なボーカルとのバランスをどこまで取るか、際々を攻められるかをやっているバンドだと思っています。

――内藤さんの歌をしっかり聴かせることは、kurayamisakaの創作の根底にありますよね。それでいてボーカルが絶妙に演奏の中に溶け込んでいて、歌い上げすぎない塩梅が全体の平熱感をキープしていて。そこはどう感じていますか。

内藤さち(以下、内藤):おっしゃる通りで、私としては歌い上げすぎないようにというのは今作でもかなり意識しています。もともと清水くんの意向で「淡々と歌ってほしい」という希望があったので、その延長でもあるんですけど、私たちの音楽はたくさんの人の日常にあってほしいものなので、なるべくさっぱり聴けるようにして、あまり一つのニュアンスに縛られたくないなって。

清水:大きな軸としてはあまり気にしていないですけど、「演奏ではこれだけ音を出したいけど、一番聴かせたいのはやっぱり歌だし、そういうバランスをどうやって取っていくのか」というのはエンジニアとか、関わってくれているチームとも話し合ってますね。

フクダ:その点では、ある意味細かいことは意識はせず、初期衝動でやれているバンドでもあるのかなって今思いました。これも個人的な話になってしまいますが、kurayamisakaは僕にとって正規メンバーになった初めてのバンドなので、1st EP(『kimi wo omotte iru』)の時はどうするのがいいか迷いながらやってましたけど、それ以降の活動を通して、「次はこうしたい」というのをレコーディングで出せるようになってきて。かつ、「このパートはあのバンドっぽいよね」というところも多いと思うんですけど、かっこいいと思ってるバンドからの影響を自分のプレイに落とし込んで「これがかっこいい!」と思って鳴らせている。「とにかく好きな音を出したい」という気持ちが初期衝動に繋がったのかなと思いますね。

「“そんなことをやっていいんだ”と思わせるのが面白い」(堀田)

――確かにそういう純粋なエネルギーは通底していますよね。これは1人ずつにお聞きしたいのですが、そういった衝動性や好きなプレイスタイルを特に発揮できたと思う楽曲をアルバムから選ぶとしたら、それぞれどれになりますか。

堀田庸輔(以下、堀田):僕が憧れていたMUSEみたいなドラムのアプローチを実演する形でやっているのが「sunday driver」と「jitensha」なんです。スプラッシュシンバルを使うところがそれぞれあるんですけど、1回やってみたかったもので……MUSEの何の曲を参考にしたのか、知りたいですか!?

――はい、お願いします(笑)。

堀田:ありがとうございます、「Plug in Baby」です! 1番も2番も2回し目にスプラッシュシンバルが入るので、それを真似して入れたいなと。でもシンコペーションするように裏(拍)で入るので、歌詞の譜割りの邪魔にならないかの懸念がやっぱりあるんですよね。だけど全楽器のアンサンブルを聴いてどこに隙間があるかを考えた時に、特に「sunday driver」にはしっくりくる隙間があったんです。スプラッシュシンバルを入れても歌を邪魔しないなと思ったので、「Plug in Baby」みたいにバックビートに寄り添った、やりたかった演奏ができたぞって思います。

堀田庸輔(Dr)

――どうしてそういう演奏をしたかったんでしょうか?

堀田:僕は金物を展開の切れ目としてじゃなくて、あくまでバックビートの一部として使っているんですよ。普通のシンバルなのに、裏(拍)で食い気味に入れてパーカッション的な役割で使うとか。kurayamisakaってなんでこんなところにこんな音を入れるんだろう? って話題になってくれたら嬉しいし、「そんなことをやっていいんだ」と思わせるのが面白いのかなと思いますね。「ここまで歌を聴かせる曲でも、楽器はこんなに暴れていいんだ」というのは楽しめるポイントだと思いますし、それがモチベーションになってほしいですね、楽器をもっと練習しようって(笑)。

――歌を聴かせるギターロックでありながらも、リズム面での面白さも妥協しないということですよね。

堀田:そうですね。

「こんなに素晴らしい曲が埋もれているのはもったいない」(阿左美)

――阿左美さんはいかがですか?

阿左美倫平(以下、阿左美):僕は「ハイウェイ」を挙げようかなと思います。この曲だけ作詞・作曲が内藤さちなんですけど、もともと内藤と清水が学生の時にやっていたバンドの曲で。kurayamisakaでやろうという話は最初なかったんですけど、最初に聴いた時から「こんなに素晴らしい曲が埋もれているのはもったいない」と思っていたんです。捉え方によっては恋人の話に聞こえるかもしれないけど、僕は友達と過ごしてる時の曲なのかなと思っていたから、きっとシンプルにいい曲だと思ってくれる人が世の中にたくさんいるだろうなって。僕が勇気を振り絞って「やりましょう!」と言って、セレクトしました。

内藤:作ってから7~8年経ってるんですけど、まさかこの曲をもう一度歌う時が来るとは……という気持ちでした。阿左美くんから「大事な話があります」と言われて。

阿左美:「バンド辞めるのか」みたいな(笑)。

内藤:そう(笑)。そしたら「ハイウェイ」をやろうという話だったんですけど、正直最初は想像もできなくて。でも、あまりにも阿左美くんが真剣に言うので、やってみようかという気持ちになりました。時間が経つとこんな仕上がりになるんだなって、すごく意外だけど嬉しかったです。

阿左美:もともと鍵盤が入っていたんですけど、軸は一緒のままちゃんとkurayamisakaらしく解釈し直して、新しくアレンジできたのはよかったですね。

――ベースラインは原曲に忠実なんですか。

阿左美:弾けるところは(笑)。原曲のベースはあまり自分が弾かないようなラインだったので面白くて。もともと僕はNUMBER GIRLで言うところの「直線的なベースライン」を志して弾いてたんですけど、もっと歌や曲調に寄り添って演奏してみたいなと思ったのが「ハイウェイ」だったので、そこにチャレンジした部分もありますね。

阿左美倫平(Ba)

――〈いちばん美しい景色、見せてよ〉の直後にメロディアスな間奏が入ってきますが、その景色を歌詞で言語化するんじゃなくて、演奏で表現しているように聴こえるのがすごく美しいなと思いました。聴き手の感情とリンクして、脳内にそれぞれの思い出深い情景が浮かぶようになっているというか。

阿左美:メンバーそれぞれ美しい景色を思い浮かべながら演奏しているのかなって思いますし、聴いてる人にとっての美しい景色が演奏によって引き出されるのは素晴らしいことだと思いますね。それが表現できていたらいいなと思います。

「自分が好きなバンドを知ってほしい」(フクダ)

――では、フクダさんはいかがですか。

フクダ:僕は「weather lore」ですね。フレーズ面で結構好き勝手やれたんですけど、あまり清水からストップがかからなかった曲でした(笑)。

――その“好き勝手”というのは?

フクダ:サビのフレーズは自分でしっかり考えつつ、結構好きなバンドのギターフレーズにたくさん影響を受けている曲です。どんなバンドからの影響かは皆さんに想像しながら楽しんでもらいたいんですけど、例えばsyrup16gとか。あとは清水がやっているバンドの“せだい”からも、もちろんそのままじゃないんですけど、ニュアンスとして影響を受けていたりします。

 そういった影響をフレーズに出していくことで、何より、自分が好きなバンドをみんなに知ってほしい気持ちがあるんですよね。自分が好きなバンドを掘っていったら、さらにそのバンドが好きなバンドを知るっていう楽しさがあるじゃないですか。

フクダリュウジ(Gt)

――フクダさん自身、そうやって音楽を知っていった経験が多かったということですよね?

フクダ:そうですね。僕が一番好きなバンドがThe Novembersなんですけど、そこから知った音楽はすごくたくさんあって。Rideとかジザメリ(The Jesus and Mary Chain)、The Flaming Lipsあたりはそうですし、あとはMEAT EATERSに繋がったりとか。いろいろ聴いてみたら「この曲のこういうところに反映されてるんだな」という発見や嬉しさがあるし、そういうことをリスナーの皆さんにも体験してほしいなと思っています。

「夏の美しい景色を見るたびに悲しくなる」(内藤)

――内藤さんはいかがですか。

内藤:自分のこだわりが表現できたという意味だと「nameless」ですね。先ほど歌い上げの話もしてくださいましたけど、これは歌い上げすぎるとクサすぎるかなというのもありつつ、今までのkurayamisakaっぽく淡々と歌いすぎても山がない感じになってしまいそうで、どうしようか悩んだ曲でした。特に〈青い空に目が眩んだ〉とか、どう仕上げたらいいのかすごく難しくて。

――その歌詞はアンニュイでいいですよね。晴れ渡った青空って、眩しすぎて時に残酷なものに見えることがあって。それが表現されたリリックだと思ったんですけど、どういう感情で歌いましたか。

内藤:おっしゃったように、私も「青い空って逆に悲しくない?」と思っていて。曲全体で夏の話をしているんですけど、私は夏がすごく好きなので、夏の美しい景色を見るたびに悲しくなるというか。その切ない感じが出せたらいいなと思って歌いました。

内藤さち(Vo/Gt)

――“夏が好きだけど切ない”というのは?

内藤:夏に素敵な思い出がありすぎるんです。個人的な話ですけど。でも夏は必ず終わっちゃうじゃないですか。それを繰り返すたびに悲しくなるからかな。すごく楽しくて、綺麗だからこそ、終わりが来るのが寂しいーーそういう切ない気持ちの歌なのかなって思います。

関連記事