神はサイコロを振らない、大衆性と芸術性の融合 “ショー”として魅せるライブ――『Lovey Dovey City』
今年4月にシングル「Lovey Dovey」をリリースした神はサイコロを振らないによる『Hall Tour 2025 “Lovey Dovey City”』の東京公演が、9月4日と5日に東京・Kanadevia Halll(旧TOKYO DOME CITY HALL)にて開催された。
2025年は神サイにとって、結成10周年/デビュー5周年のダブルアニバーサリー。2月の初日本武道館ワンマン公演『Special Live for Double Anniversary Year 2025 “神倭凡庸命 -カムヤマトボンヨウノミコト-” at 日本武道館』や、自身の過去曲をリプロデュースして4週連続リリースするプロジェクト「Reproduce 2025」など、さまざまなことに挑戦してきた彼らだが、今回のホールツアーはセットリストやアレンジ、舞台美術などに趣向を凝らし、バンドが内包する“エンターテインメント性”をあらためて示す場となった。
なお、以下ネタバレを含むため、避けたい方はご注意いただきたい。
筆者が観たのは東京公演の2日目。ステージに設置されていたのは、「Lovey Dovey」のMVを彷彿とさせるアメリカンダイナー風のセットだった。アンプや機材すら置かず、光と映像そしてサウンドのみで作り上げた武道館公演のシンプルなステージと対照的に、今回は徹底的に“ショー”を意識した演出である。
暗闇のなか、ダイナーのネオンが点灯し、車のエンジン音とともにヘッドライトが近づいてくる。ドアの開閉音がしてステージに現れたメンバー4人は、そのまま「Lovey Dovey」を披露。まさに「Lovey Dovey」のMVを“光”と“音”で再現してみせる心ニクいオープニングだ。
恒例のタオル回しでオーディエンスとの一体感を高めた「1on1」、セクションごとに景色が目まぐるしく変わっていく「揺らめいて候」と序盤から飛ばしていく4人。MCを挟み、前述の「Reproduce 2025」で取り上げた4曲、「Smoke」「煌々と輝く」「秋明菊」、そして「アーティスト」をたたみかける。変拍子を用いた黒川亮介(Dr)によるトリッキーなリズム、吉田喜一(Gt)と桐木岳貢(Ba)のタッピングプレイがポストロックからの影響を感じさせる「煌々と輝く」や、後半のカオティックな音像がシューゲイズ的なアプローチの「秋明菊」、サポートメンバーのDevin Kinoshita(Key)が加わり披露した「アーティスト」など、神サイのルーツを窺わせる初期曲が、今の4人ならではの成熟したサウンドへとアップデートされていたのが印象的だった。
掛け合いコーラスを全員でシンガロングした「タイムファクター」、柳田周作(Vo/Gt)と吉田がラップを披露した「六畳の電波塔」と、人気曲を立て続けにつなげたあと、会場は一転して静寂に包まれる。暗闇のなか、気づけば虫の声と星空が広がり、夏の終わりを先取りしたような空気に変わっていく。やがてランタンを手にした柳田が現れ、ベンチ横のスタンドにそれを掛けると、Kinoshitaのピアノをバックに「目蓋」を歌い始めた。そこへ、そっと寄り添うように音を重ねるメンバーたち。やがて天の川がダイナー上空に浮かび上がり、その幻想的な光景に、客席からは思わずため息が漏れた。
「この4人と出会えてよかったです」――そう柳田が言って、吉田とともにアコギを抱えて披露したのは「スケッチ」。昨年11月に行われたビルボードライブツアーで、Devin Kinoshitaと新たなアレンジを試したことがきっかけとなって生まれ、武道館ワンマン公演で初披露したこの曲は、神サイが持つ“ポップセンス”と“オルタナ精神”が融合した、今の4人の集大成とも言える傑作だ。〈こんなステージで唄う夢見て/どれほど僕ら歩いてきただろう/離れずに肩を寄せ合って/これから先もずっと笑っていよう〉と歌う歌詞は、柳田からメンバーへのメッセージであると同時に、バンドからファンへのラブレターでもあるのだろう。
さらに「What's a Pop?」「巡る巡る」とポップチューンを披露すると、再びステージが暗転。ライトセイバーを持った柳田がメンバー全員を斬り倒し、警察に追われるという謎の展開に。マイケル・ジャクソンばりのダンサブルなトラックに乗せ、下ネタ全開の歌詞を歌う「ちょっとだけかゆい」は、神サイのコメディ路線を象徴する楽曲だ。さらに、柳田がSexy Zone(現timelesz)に楽曲提供した「桃色の絶対領域」をセルフカバー。ラテン風味のシャッフルビートを黒川が繰り出すと、客席からは自然発生的にハンドクラップが鳴り響いた。
ライブ終盤は、Kinoshitaとともに“ビルボードライブ仕様”にリアレンジした「告白」「夜間飛行」「Baby Baby」「LOVE」の4曲を続けて披露。この日のライブに幕を下ろした。
以前のインタビューで柳田は、「いつかサザンオールスターズのような存在になりたい」と話してくれたことがあった。「ロックで突き抜ける場面もあれば、バラードやユーモアもあるスタイルは、それらすべてに説得力がないと成立しない難しい形ですが、そこに挑みたい」と。
楽曲の世界へと誘う舞台美術や照明、そして「スケッチ」のような名曲から「ちょっとだけかゆい」のようなコミカルな楽曲まで演奏する幅広い音楽性。今回神サイが目指したパフォーマンスは、先輩アーティストたちが体現してきた“大衆性と芸術性の融合”にも重なる。この夜の東京公演は、その高みへ向かう挑戦の確かな一歩だった。彼らの次なるステージに期待せずにはいられない。