神はサイコロを振らない、アルバム『心海』で描いた喜怒哀楽 新たに自覚した“人に幸せを届ける”使命を語る

神サイ、新たな使命を語る

 神はサイコロを振らないが、2ndアルバム『心海』をリリースする。

 前作『事象の地平線』からおよそ1年半ぶりとなる本作は、『ラストマン−全盲の捜査官−』(TBS系)の挿入歌「修羅の巷」や、Rin音とコラボレーションした「六畳の電波塔」、シンガーソングライター・asmiをゲストに迎えた「朝靄に溶ける」などの既発曲に、アルバムのために書き下ろした新録曲を加えた全13曲入り。サウンドプロデューサーのYaffleを迎えてネオソウルな音像を目指した「スピリタス・レイク」、澄みきった青空が目の前に浮かんできそうな、清々しいサマーソング「Popcorn 'n' Magic!」など、これまでの神サイにはなかったようなアレンジにも挑戦した意欲作に仕上がっている。

 ボーカル・柳田周作の表現力はもちろん、ソングライティングもバンドの演奏力も飛躍的に進化した彼らに、アルバムの制作エピソードなどじっくりと語ってもらった。(黒田隆憲)

人間の足りない部分が逆に武器になると思っているし、そこを見せたかった

神はサイコロを振らない 柳田周作(写真=西村満)
柳田周作

――まずはアルバムタイトルの由来から教えてもらえますか?

柳田周作(以下、柳田):僕は曲を作る時にいつも、自分の心の奥深くまで潜り込んでいくような感覚があって。今回は、これまでの作品と比べてもとてもパーソナルなことを歌っているものが多いので、ものすごく深いところまで潜り込んでいくような感覚だったんです。

――それで、深い海を指す「深海」にかけて『心海』というタイトルになったと。

柳田:それともうひとつ、これは偶然なのですが、アルバム13曲のうちの、最後の1曲(「告白」)を除く12曲で3曲ずつ“喜怒哀楽”を歌っているんです。というのも、まず今作のジャケットがデザイナーさんから上がってきた時に、通常盤と初回限定盤の「A」と「B」、それから完全数量限定Goods盤という色違いの4形態があって、僕にはそれが“喜怒哀楽”それぞれの色に見えたんです。で、これまで作ってきた楽曲を並べてみたら、「ひょっとしたら全部(“喜怒哀楽”に)当てはめていけるかも」と気づいて。

 たとえば、アルバムの冒頭「Into the deep (Instrumental)」というインスト曲から「カラー・リリィの恋文」までは“喜び”を表しているし、「Division」から「修羅の巷」にかけては“怒り”というか、昨今の社会に対して問題提起をしている曲たちで。さらに「僕にあって君にないもの」から「朝靄に溶ける」までは“悲しみ”のようなものがテーマになっているし、「Popcorn 'n' Magic!」から「夜間飛行」までは“楽しさ”というふうに、きれいにまとまっているなと。そういう意味でも、“心の海”というタイトルが合うんじゃないかと思ったわけです。

――では今回、収録曲のうち新録曲を中心にお聞きしていきます。まず「Into the deep (Instrumental)」は、どのように作っていったのでしょうか。

柳田:この曲は、もともと続く2曲目の「What’s a Pop?」の一部だったんです。作りながら、次のホールツアーをどんな景色でスタートしようかを妄想していた時に、最初は僕がひとりステージでピアノを弾いていて、そこにベースが入ってきて……というイメージが頭に浮かんできたんですね。で、次の曲「What’s a Pop?」でバンドが一斉に入り、飛び跳ねるような展開にしたいなと。

――なるほど、ライブを想定した構成になっていたのですね。「What’s a Pop?」の歌詞に、〈ドレミで紡いだ音階の/狭間の奥を知ってみたい/触れてみたい〉というフレーズがあります。これは、鍵盤楽器で鳴らすことのできる12音階の、狭間に存在する“曖昧さ”みたいなものを表現したいということなのかなと。

柳田:おっしゃる通りです。結局、今って、メロディもコード進行も(世に)出尽くしているじゃないですか。そんななかで、どうやって聴く人の心を掴めるのかを考えた時、人の心が揺れ動くような瞬間、琴線に触れる瞬間を見つけることが大切なのかなと。“ドレミの狹間”というのは、“歌心”みたいなニュアンスなのかもしれないと思ったんです。

 僕らは、別に完璧な演奏や完璧なボーカルを目指しているわけではなくて。人間の足りない部分みたいなものが、逆に武器になると思っているし、そこを見せたいと思っているからこそ、神サイは等身大でいられると思っていて。ありのままの僕らに、お客さんも共鳴してくれているのだと感じていますね。

――「Division」は、Nintendo Switchの新作アクションRPG『FREDERICA(フレデリカ)』の主題歌として書き下ろされた曲です。

柳田:ゲームのあらすじと、登場キャラクターなどの資料をいただいて、その世界観を踏まえたうえで曲を書き始めました。争いによって言葉を失ってしまった人たちが住む、とある王国を舞台に繰り広げられるファンタジーの話ではあるものの、現実社会でも言葉が人を救うこともあれば、人を殺めてしまうこともある。特にSNSの世界は、毎日のように誰かが誰かを攻撃したり、傷つけ合ったりしているじゃないですか。シンプルに「みんな、どうしちゃったんだよ?」って思うことが多いんですよね。自分も含め、みんながもっと言葉に責任を持ってほしいという思いを、この曲には込めています。

神はサイコロを振らない - 「Division」【Official Music Video】(Nintendo Switch完全新作アクションRPG『FREDERICA(フレデリカ)』主題歌)

――「僕にあって君にないもの」は、どのようにして生まれた曲ですか?

柳田:この曲は、アルバム制作時期より少し前にアイデアの種が生まれていました。今年3月ぐらいから作り始めていたのかな? 骨子となっているのはアコギのフレーズで、そこから亀田誠治さんとスタジオに入って、肉づけをしていきました。アレンジは、シンプルに音数をなるべく少なくして。たとえば、ドラムもこういう曲だとサビの1拍目にクラッシュシンバルを入れたくなるところではありますが、そこをぐっとこらえて、キック、スネア、ハイハットのみでフレーズを組み立てています。おかげで、なんとも言えないもどかしさというか、焦らしプレイというか(笑)、ミディアムでじっくり盛り上がっていく男の色気が漂う楽曲に仕上がりましたね。ちなみに、ギターのアーミングは、まさに“ドレミの狹間”を表そうと思って、行ったアプローチです。

――デッドな音像やひねりの効いたコード進行は、Radioheadやジョン・レノンの初期ソロを彷彿とさせます。

柳田:サビ前に「ガコ!」っていう歪んだギターのカッティングが入るのですが、あれはまさにRadioheadの「Creep」を参考にしました。これまで僕は、バッキングのギターを思いっきり歪ませることってあまりなかったんですけど、この曲や「修羅の巷」ではディストーションを思いっきりかけてグランジロックっぽいサウンドを目指しています。

 アンプでの音作りも相当時間をかけましたね。いつも家ではスクワイアのテレキャスターにマーシャルのモデリングを通して音作りをしているのですが、それをいざスタジオで再現しようとすると、なかなかうまくいかずに苦労しました。

神はサイコロを振らない - 「修羅の巷」【Official Music Video】
(TBS系 日曜劇場『ラストマンー全盲の捜査官ー』挿入歌)

――いい音になりすぎちゃうというか。

柳田:そうなんです。絶妙な“ペラペラ感”を再現するのはかなり難しかったですね(笑)。エンジニアさんに、自宅のデモ音源を送って参考にしてもらうなどしました。

――歌詞は、一筋縄ではいかない関係性をテーマにしていますね。

柳田:恋人同士の関係性としても捉えることができると思うし、家族や友人との関係性にも当てはめられると思うんですよ。個人的には、俺がキタニタツヤに対して抱く感情にも似たところがあるなと(笑)。

――キタニさんに対して抱く感情というと?

柳田:ソロで活動している彼は、バンドでやっている僕たちに対して、憧れのような気持ちを持っているらしくて。でも、僕からすると彼のスタンスのほうが自由で小回りも利くし、羨ましいと思う部分もあるんです。

 先日、『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2023 in EZO』に出演して、彼と同じステージに立ったんですけど、「キタニには負けたくない!」という気持ちで演奏していたら、彼が袖でニコニコしながら観てくれていて。終演後、「めちゃくちゃよかったよ」と声をかけてくれたんですよね。しかも、普段は冷静沈着なキタニが、僕たちのあとに出たライブでは「神サイに感化されて熱くなりすぎた」と言っていて(笑)。そうやってお互い、自分にないものに憧れながら切磋琢磨している関係性はすごくいいなと。この曲を聴きながら、そんなことをふと思っていました。

桐木岳貢(以下、桐木):僕はこの曲を聴くと、プライベートでよく会う友人のことを思い出します。彼とは仕事の内容もまったく違うんですけど、「上り詰めてやる!」という気持ちで頑張っている姿に刺激を受けることが多いんですよね。まさに、この曲のタイトルが象徴する関係性というか。話すといつも自分の知らない、いろいろな話を聞かせてもらってすごく新鮮だし、「自分も頑張らなきゃ」と思わせてくれるんですよね。

黒川亮介(以下、黒川):僕はこの曲、バンドメンバーとの関係性にも当てはめらるんじゃないかと思いました。〈共鳴し合って〉というフレーズもそう。たまにはぶつかり合うこともあるけど、ライブでステージに立つと「お客さんに楽曲を届けたい」という思いで一致団結できるし。もちろん運命を共有している感覚はありますし、ライブで演奏するのがすごく楽しみなんですよね。

吉田喜一(以下、吉田):そうか……僕は完全に恋愛の曲だと思ってました(笑)。何年も付き合っている彼女に向けるようなメッセージなのかなとずっと思っていたので、みんなの話を聞いて、今、眼から鱗ですね。「ライバル関係としても当てはまるんや」って。本当に、いろんな解釈ができる曲やなとあらためて思いました。

神はサイコロを振らない 吉田喜一(写真=西村満)
吉田喜一

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる