ryo(supercell)、『初音ミクシンフォニー』の“ボカロ愛”に感謝 「妥協せずチャレンジを続けているのが素晴らしい」
初音ミクなどのバーチャルシンガーの楽曲をフルオーケストラで演奏する『初音ミクシンフォニー』。10周年イヤーを迎える2025年は、2月の札幌公演を皮切りに、大阪・東京・横浜・神戸と5都市をまわるコンサートを開催中だ。
リアルサウンドでは、7月に行われた『初音ミクシンフォニー2025』東京公演に登壇したryo(supercell)にインタビュー。10年という歴史の中においてコンスタントに演奏されている「メルト」、10周年を記念した「もう一度聴きたい楽曲」のアンケートで1位に輝いた「ODDS&ENDS」など、彼の楽曲は『初音ミクシンフォニー』になくてはならない存在となっている。
ルーツミュージックのひとつにクラシック音楽を持ち、ボカロP/コンポーザーとして様々な名曲を生んできたryo(supercell)に、『初音ミクシンフォニー』ならではの面白さについて語ってもらった。(編集部)
真逆のものがストロングスタイルでぶつかり合うーーその妙が面白い
ryo:最初に音楽にハマったきっかけが、大好きだった『ドラゴンクエスト3』からだったんです。ピアノの曲を練習するようになって、その延長線上で『ドラクエ』1~3の楽曲をオーケストラで演奏したCDを買ってもらって。それがめちゃめちゃよくて、エモいのが、その楽譜のまま今も演奏され続けているんです。自分が子どもの頃から譜面もアレンジも変わらない状態で、ずっと愛され続けている。そんなオーケストラへの原体験があって、大人になってからは打ち込みでオーケストラを再現するために改めてクラシック、オーケストラものを聴くようになりました。制作音源がどんどん進化していくなかで、例えばホルンだけの音源で4~5万円したりするんです。そうなると、それを購入するなら元を取れるだけの知識を得なければと(笑)。だから、「今回はホルンだけを聴きに行こう」というふうに、自分が欲しい音源が出るたびにオーケストラコンサートに行く、というのが習慣になっていたんですよね。パイプオルガンを聴くためにミューザ川崎シンフォニーホールに行ったのもよく憶えています。プロの演奏を体感したあとに、家に帰ってパイプオルガンのソフトシンセを起動して、試行錯誤しながら造詣を深めていく。曲がどうこうというより、「この音源をどう使うのか」という発想で観に行っていました。
ーーソフト音源が出るたびにオーケストラに対する知識も深まって、いよいよ15周年でコンサートを、という形になったんですね。
ryo:そうですね。例えばsupercellの楽曲だったらそんなにオーケストラには向いていないんですが、プロデュースをしていたEGOISTの楽曲はわりとクラシカルなもので、「普通、ポップスだったらそこまでやらないよ」というくらい、ほとんどフルオーケストラのような編成で作っていたので、それをコンサートで再現してみたい、という思いがありました。
ーーコンサートは大反響で、後半には畳み掛けるように「ブラック★ロックシューター」「初めての恋が終わる時」「メルト」など、シーンを追いかけてきたファンの誰もが知るバーチャルシンガー楽曲が披露されました。supercellの楽曲以上に「オーケストラとマッチングがいい」とは言い難い部分もあると思いますが、いかがでしたか。
ryo:そもそもオーケストラの奏者というのは、幼い頃から研鑽を積んで、みんなが外でかけっことか遊んでるときに練習を重ねて、音楽に人生を捧げてきた方々の集団ですよね。「ボカロP」は全く違って、そもそもそんなに本気で音楽を演奏することに取り組んできたわけじゃない人の方が多いと思うんです。楽曲制作もパソコンで、マウスでポチポチとパズルゲームのようにやってきた。もちろんそれが面白さにつながってもいると思いますが、「水と油」というくらい正反対なんですよね。ですから、本当に「演奏してくださっている」という感覚で、感謝しかないんです。マインドにおいても技術的な部分においても、真逆のものがストロングスタイルでぶつかり合うーーその妙が面白いなと思います。
ーーまさに『初音ミクシンフォニー』の面白さを語っていただいたと思います。
ryo:本当に面白いコンサートですよね。10年前、始まった当初は、まずどういう層のお客さんが来るのか、ということが気になったんです。オーケストラコンサートが初めてだという人も多いでしょうし、マナーもわからないなかで、それを楽しみに来るお客さんが一番偉いと思っていて。それが10年続いて、一般のクラシックコンサートとはまた違う楽しみ方がしっかり定着していて、チケットも毎回売り切れていて、これは本当にすごいことだと思います。オーケストラの皆さんが素晴らしいのは当然として、お客さんが作ってきたコンサートだなと。
ーーまさにユーザーが作り上げてきたバーチャルシンガー楽曲というシーンと重なるところですね。
ryo:そうですね。「VOCALOID」が登場した当初は、「ボカロP」と同じジャンルで「聴き専」というものがあったんですよ。楽曲を作る人と聴く人がまったく同じ立ち位置で、楽曲の数がまだ少なかったこともあって、「聴き専」の人は全曲知っているような状態で。コミックマーケットと一緒で、みんなが参加者だし、作り手が偉いわけではない。そういうシーンがここまで発展するというのは驚きですし、まったく違うジャンルのオーケストラというものをよく巻き込んだなと、感服してしまいます。それでいて、妥協せずにチャレンジを続けているのが素晴らしいなと。
ーー確かに、お客さんは「みんなが好きなあの曲」を毎回演奏しても満足すると思いますが、常に新曲・新アレンジが披露されています。
ryo:自分の曲もそうですが、セットリストを並べてみると本当に難しい曲ばかりですからね(笑)。でも、10年続けて来たなかで違和感もまったくなくなっていたことが、またスゴいなと思います。そのなかで感じるのは、指揮者の栗田博文さんをはじめとして、演奏者の方々がただ譜面を見て演奏しているのではなくて、もう一歩先、楽曲のメッセージまで汲んで演奏してくださっているということです。