9月1日に響いた“生きて会えた喜び”ーーマリンブルーデージーが『Lucky Strike!!』で鳴らした青春と命の煌めき

 長崎県佐世保市出身の3人組ガールズバンド・マリンブルーデージー(以下、マリブル)が、9月1日に東京・下北沢のライブハウス・MOSAiCが主催するイベント『Lucky Strike!!』に出演した。

 ギター&ボーカルの海音、ベースの嶺香、ドラムのすずきの3人からなるマリブルは、2022年5月に結成。その翌年には16歳で自主制作した2曲のMVを公開し、2024年の12月には1stアルバム『この日々をお守りに』をリリース。2025年2月には、アルバムを携えた九州6県を廻るツアーを開催し、ファイナルである地元のライブハウス・佐世保GARNETでの初ワンマンは完売。同年3月には東名神ツアーも行い、海音が16歳最後の夜にSNSで公言した「東京でのライブ」「アルバム発表」「地元ソールドアウト」という「17歳で叶える3つの夢」のすべてを達成。今年4月には海音と嶺香が上京し、すずきは福岡で新生活をスタート。つまり、この日は3人が離れ離れになってから、初めてのライブとなっていた。

 マリブルの楽曲は、ソングライティングを手掛ける海音のドキュメントである。夏休みが終わり、新学期が始まる9月1日。1年間の中で、18歳以下の子どもの自死がもっとも多い日のライブで、マリブルは海音の不登校の経験を綴った「青春」から始めた。

海音(Gt/Vo)
嶺香(Ba)

 インタールードとして、1stアルバムにも収録されていたインストの「Diary」が流された。チャイムが鳴り、教室を出ていくクラスメイトの足音に続き、吹奏楽部の練習が始まるが、人間関係の崩壊を表すかのように花瓶が割れる音が耳を裂くーー。ここで、海音が「今日から学校や仕事が始まった人、多いと思います。今日を迎えることが苦しかった人、いると思います。私もその中のひとりです。今日は皆さんに、生きて会えてよかったです」と挨拶。「青春」では無理矢理にでも登校させようとする先生の手を振り払うように〈やめて!〉と叫び、学校よりも命が大事だという切実なメッセージを届けると、嶺香とすずきという“友達”との絆を描いた「ずっっっと!」では観客からクラップが湧き上がり、「Wow Wow」というふたりのコーラスに合わせてシンガロンングも発生。さらに、すずきによる「あなたはだんだん〈らったった〉と叫びたくなる〜」という催眠術のような言葉に導かれ、「らったった」でも再び手拍子を打ちながらの大合唱が実現し、フロアは明るく楽しいムードに包まれていった。

すずき(Dr)

 そして、すずきの「なんで止まるの?」から、海音の「ドラムが入れませんでした」というリアルな言い合いを繰り広げた「いいあい」の後のMCでは、「私たちは今年の3月まで長崎の高校生バンドとして活動していたんですけど、今年の春から私とベースの嶺香さんが上京しまして」と現状を報告。嶺香が「やっと慣れてきたところです」と語ると、海音は都内の路線の複雑さに苦労し、この日も乗り換えを間違えたことを明かして観客を笑わせた。

 そして、地元テレビ局の長崎文化放送からYouTube特別番組『ノーモア・ナガサキ 80 YEARS from 194508091102』のテーマソングの依頼を受けた心境を吐露していく。「初めて原爆に向き合うことができました。東京にいると触れる機会もないし、触れる暇なんて作れないような日常ですけど、私なりにいっぱい考えて書きました」と語り、7月23日に配信リリースされた新曲「1945」を披露。楽曲制作にあたり、メンバーも一緒に語り部から被爆体験を聞き、平和公園に足を運んだせいもあったかもしれないが、それぞれの音に平和であることの大切さやこの経験を伝え継いでいくんだという意思が込められているように感じ、戦争の痛みや悲しみが切実に胸に響いた。

 一転して、メンバーへの感謝を込めた「See’n’you」では再び観客の手が上がり、クラップが送られ、そのクラップとバンドのキメに合わせて照明も点滅。ライブスタッフも含めた一体感を生み出すと、ライブの最後に相応しい〈またね〜〉というフレーズを響かせて本編を明るく締めくくった。

 観客のアンコールに応えて即座にステージに戻ってきた海音は、「私は15歳の頃から曲を書いていて、今、18歳になって。長崎の頃から夢見ていた東京の舞台で歌えていることがとても嬉しいです」と感謝を伝えると、「一番自殺する人が多いと言われている日に、こうやって集まれていることがすごく幸せだなと噛み締めていました。最近、悩んだり、塞ぎ込んでしまうことも多かったんですが、今日から少し明るく生きていける気がします」と真っ直ぐに前を向いて柔らかな笑顔を見せた。そして、「最後に、死んじゃいたいと思った時に作った、すごく大事な命の曲を歌って終わろうと思います」という言葉から、命を壊れやすい砂時計に例えた「藍にしずく」へ。〈泣かないで〉というフレーズに観客の拳が力強く掲げられる中で、海音は〈大事に笑って生きて〉とシャウトし、ライブはエンディングを迎えた。

 振り返ってみても、やはり9月1日という日にちを意識した、意義のあるセトリになっていたと思う。15歳で不登校が本格化し、楽曲制作を始め、18歳で上京してひとり暮らしを始めた海音は、これからどんな日々を送り、どんな曲を作るのか。今は次の新曲——ドキュメントのような物語の続きを心待ちにしている。

■セットリスト
イベント『Lucky Strike!!』
東京・下北沢 MOSAiC

<マリンブルーデージー>
M01.青春
M02.ずっっっと!
M03.らったった
M04.いいあい
M05.1945
M06.See’n’you
EN.藍にしずく

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