mekakushe × 望月麻衣 星詠み占い対談 音楽家と作家に共通する言葉へのこだわり

 言葉を大切にしている人と話がしたい、というmekakusheのひらめきから生まれた対談企画である。詞先で曲を書く彼女の音楽はまず言葉ありき。美しい詩から音が生まれ、楽曲という宇宙が形成されていくのだ。きっと分野は違えど、何か通ずるものがあると期待したのではないだろうか。

 第一回は作家・望月麻衣との対談である。小説『京都寺町三条のホームズ』や『満月珈琲店の星詠み』といった人気シリーズの著者であり、mekakusheのファンの中にも彼女の作品に親しんでいる人は多いのではないだろうか。mekakusheが愛読しているという『満月珈琲店の星詠み』は、満月の夜に現れる不思議な珈琲店を舞台とした作品。日本だけでもシリーズ累計50万部を超えるセールスを記録し、その人気ぶりは国内に止まらず、現在26カ国で翻訳されている。米国「Publishers Weekly」誌が選ぶ「Best Books2024」にも選出されるなど、国境を越えて愛される作品だ。

 今回の対談では『満月珈琲店の星詠み』に因んで、mekakusheの星を詠んでもらった。作家と音楽家のゆったりとした掛け合いを楽しんでほしい。(黒田隆太朗)

mekakusheは「思いがけず表に出てしまう人」

ーー“言葉”にフォーカスした対談企画第一弾です。mekakusheさんは『満月珈琲店の星詠み』を愛読しているそうですね。

mekakushe:そうなんです。そもそも、いつも家でひとりで曲を作っているので、他のクリエイターさんとお話ししたいなと思いまして。それで歌詞を書く方や短歌を作る方、小説を書く方など、言葉を大切にしている方と対談できたらいいなと思いました。そんな時に読んでいたのが『満月珈琲店の星詠み』です。いろんな人のご尽力のおかげで実現した対談ですが、何よりも望月先生が快諾して下さったと聞いて、とても嬉しかったです。

望月麻衣(以下、望月):光栄です。丁寧なお手紙までありがとうございます、何回も読み返しました。mekakusheさんのお声は凄く透明感があって、「ずっとエメラルド」も素敵です。宇宙という言葉がよく使われているところも好きです。

mekakushe - ずっとエメラルド Official Music Video

mekakushe:実は『満月珈琲店の星詠み』は元々akogare recordsのスタッフさんがファンで、彼女が勧めてくれたんですよ。

望月:なんと、そうだったんですね、嬉しいです! ありがとうございます。

mekakushe:私は星空とか宇宙をよく曲のタイトルや歌詞に書くんですけど、占いも好きで行ってみたり、毎月喫茶店を巡る企画もしていて。『満月珈琲店の星詠み』には私が好きなものが全部詰め込まれているから、絶対好きだと思うと言われて読んでみたらものすごく面白くて。あんまり読んだことのないタイプの小説だったんですけど、すぐ自分にフィットしてさらさらと読んでしまいました。

ーーどんなところに惹かれましたか?

mekakushe:全体を通して登場人物がたくさん出てくるんです。いま第6巻まで出ているのですが、私が数えた限り、45人くらいいまして。

望月:ええ、そんなに! 著者も数えたことないのに(笑)。

mekakushe:はい(笑)。しかも、その登場人物がそれぞれに関係性があって。

望月:そうなんです。実はちょっとつながっているんですよ。

mekakushe:それがすごく心地いいです。全巻を通して一体感がありますし、私も登場人物のひとりになれたようなあたたかさを感じました。もふもふの三毛猫マスターが、訪れた人の悩みや葛藤を聞いて星詠みで導いてくれるというお話なんですけど、そこで(悩みが)完璧に解決するわけではないんですよね。でもなんとなく背中を押されたり、少しだけ前向きになった自分で物語が終わる。きっと読んだ人は皆さん同じ気持ちでいると思うんですけど、ポジティブになって本を読み終われるというのがこの小説の持っている力だと思います。

望月:ありがとうございます。

mekakushe

ーー作中では満月珈琲店を営む猫のマスターが、訪れたお客さんの出生図(ネイタルチャート)を見ながら、星詠みの占いで人生のヒントを与えてくれるのが印象的です。実は今回事前にmekakusheさんから生年月日を伺って、望月先生がホロスコープを用意してくれました。

望月:はい、mekakusheさんの星を詠ませていただきました。私は見習いなので、一応私の先生にも確認してきたんです。先生からの一言は「思いがけず表に出てしまう人」という感じでした。

mekakushe:(笑)。

望月:「社会的な成功を気にしつつ、そこではない未来を軸に置いてそうです。これからどんどんステージを上っていかれそうです」というのが先生からのメッセージです。

mekakushe:それは心当たりがあります......!

望月:これがmekakusheさんのホロスコープです。

mekakushe:ありがとうございます......と言ってもこれだけ見てもわからないですね。

ーーパッと見ると円形の図みたいですね。詳しくお話を聞く前に、改めて『満月珈琲店の星詠み』にも度々登場する「ネイタルチャート」がどういったものなのかを教えていただけますか。

望月:生まれた時の星空を描いたものなんです。出生時間がどうしても分からない場合は仮に「正午」としてもそんなに大きく違わないと言われてるんですけど、実は数分違うだけでも月が動いていたりするので、なるべく生まれた時間まで正確に分かるのが好ましいです。

ーーなるほど、それで生年月日が必要なんですね。

望月:mekakusheさんの場合は太陽の星座が獅子座です。太陽の星座というのは、皆さんも知っている12星座のことですね。ただ、これって実は「表看板」なんです。人って「社会に見せる顔」と「素の自分」があるじゃないですか。獅子座のイメージは「スター性があって、ロマンチストでムードメーカー。あとは自分が行くと決めないと動かないけど、動いた時には力強く自分が信じる方向に行く」という、良くも悪くもちょっと幼い性質を持っているんです。一方、mekakusheさんは月の星座が蟹座なんですよ。

望月麻衣

 これは獅子座とはほとんど間逆の性質を持っています。それがmekakusheさんの心、素の自分を表しています。蟹座は感受性や共感力が高く、想像力が豊か。また、時にすごく不安になったり、カニの甲羅のように好きな人のことはがっちり守るけど、なかなか心を開けない。でも開くとめちゃくちゃ好きになったり、信頼している家族や仲間と深く繋がっていたいという内面を持っているイメージです。なので表では芸能的な活動している中で、ふと心は「今どうしてこんなことしているんだろう?」と思っちゃいがちな人なんですけど、是非この「月」をないがしろにしないでください。大事なのは何よりも月、心です。お家時間を大切にして、ちゃんと五感を満たしてあげるとか、お気に入りの入浴剤を入れてゆっくりお風呂に入るとか、そういう時間を大切にしてあげて下さい。今年の6月に木星が蟹座に入ったから、今は蟹座が12年に1度の幸運期と呼ばれていまして。来年の夏ぐらいまでは蟹座、そして次は獅子座に入るので、mekakusheさんは今年来年と運気がすごくいいです。

mekakushe:!!!

ーーすごい巡り合わせですね。ちなみに今のお話の中で、何か思い当たることはありましたか?

makakushe:「思いがけず前に出てしまう」と言われましたが、私は本当は人前に出るのが好きじゃなくて。

望月:月の星座が蟹座ですもんね。お家大好き。

makakushe:(笑)。この職業にはたぶん適正があって、自分よりももっと向いている人がいるんじゃないかとたまに思います。でも、たぶん心のどこかで表現したい気持ちがあって、仕方なく出るしかない、みたいなことだと思うんですけど。私は生活をすごく大切にしていて、どこかで音楽だけでは満たされないと気づいたんですよね。

望月:そうでしたか。

makakushe:はい。元々は嫌いな自分を変えるために活動を始めたんですけど、どこまで行っても満たされないんだろうと思って、音楽だけで幸せか不幸かを決めるのはすごく危ないなと思いました。その時に占いに行ったり、観葉植物を育ててみたり、そういう小さな生活の些細な部分に目を向けたらすごく生きやすくなって。そこはすごく当たっていると思います。

ーーホロスコープにあるアセンダントというのはなんですか?

望月:アセンダントというのは持って生まれた性質のことです。人によっては「前世から持ってきたもの」、というような言われ方をします。前世でやりつくしたから今は自然とできる、RPGで言うと初期設定の武器みたいな感じです。

mekakushe:素質のようなものですね。

望月:mekakusheさんは「アセンダント」が乙女座です。乙女座は人のサポートができる星なので、今は自然と人のサポートができる。だからもし本当に前世というものがあったとしたら、そこでは縁の下の力持ちみたいなことをずっとやってきて、それで今世では表に出ようと思ったのかもしれないという、そういう読み方もするんです。

mekakushe:面白い。

望月:アセンダントは1ハウスの起点でもあります。1ハウスというのは「自分自身」を表すんですけど、つまりそれも乙女座になります。そして火星という勢いの星が入っているから、行動力があって、「やりたい」と思ったらすぐに行動に移せる人という感じがします。木星はラッキースターと呼ばれていて、それが3ハウスという創作のハウスにあり、そして射手座なんですよね。射手座は遠い世界を表すので、クリエイティブなことをお家でしっかりやることによって広い世界に打ち出していけます。そして土星は試練の星と呼ばれています。それが魚座で6ハウスにあるんですけど、6ハウスは仕事のハウスなので、よくも悪くも働きすぎに注意という感じです。がんばりすぎるのもいいんだけど、ちゃんと休息を取ること。あと、魚座はいわゆる創造とかイマジネーションの星なので、他者のことをすごく考えるんだけど、考えすぎて妄想で苦しくなったりしちゃいます。

mekakushe:うん、わかります。

望月:心当たりがありましたか?(笑) そういう時には「それを考えさせているのはこの星なんだ」と思えばいいんです。私は、占星術は占いに振り回されるものじゃなくて、「使う」ものだと思っています。星の配置とか、たとえば土星が変な角度を取ったからこういう考えが暴走をするんだとか、星を知っているとそうやって折り合いをつけられるんですよね。いわば天気予報と一緒で、これから雨が降ると思ったら家に入るとか傘をさして出るとか対策できるじゃないですか。そのぐらいの距離感で付き合って、自分のメンタルがアレな時には星のせいにします(笑)。上のほうに大きい太陽とか金星とか水星があるので、社会に思いがけずに表に出てしまう人というのはここに出ているんだと思います。これまでの話をまとめると、アセンダントが乙女座、月が蟹座であることから見るに、人当たりがよくて、でもしっかりと自分を前に出していける人。そして前に出ることに怖さが出てくる時はあるけど、自分の理想のために努力を怠らないという鑑定結果が出ました。

mekakushe:ありがとうございます。『満月珈琲店の星詠み』はまさに今話していただいたような占いで紐解かれていくお話なんです。だから作品の中には必ず自分と似ている人がいて、その人の気持ちが苦しいほど分かる。特に6巻かな、嫉妬や妬みを抱えている主人公がいて、それは人間の隠しきれない感情なので痛いほど分かります。

望月:誰もが持っているものですよね。

mekakushe:『満月珈琲店の星詠み』にはファンタジックなシーンが多いと思うんですけど、一人ひとりの悩みがすごくリアルで、ファンタジーとリアルのバランスが絶妙なんです。私も曲を作る時には「宇宙と生活」を軸にしているんですけど、生活の小さなときめきを書いている一方で、それだけを曲にするのは恥ずかしいから、少し馴染ませるために宇宙という突飛なモチーフを使っているんだと自分では思っていて。ファンタジーと生活感のバランスというのは、私の作品にも共通してる部分なのかなと思います。

ーー望月さんが占いを好きになったのにはきっかけがあるんですか?

望月:「ケータイ小説」全盛期にいろいろな小説投稿サイトが生まれ、各サイトがそれぞれ小説賞を主催していたんです。同期のクリエイター仲間たちがそれを受賞しどんどんデビューしていく中、私ひとりだけがデビューできなくて。そういう時期が5年間近く続いたんですよね。いつも最終選考までは行くんです。そこまで行かなければ諦めもつくんですけど、なまじ残っちゃうから悔しくて。こんなにあと1歩のところで落ちるなんて運が悪いんじゃないかと思って、いろんな開運情報を調べていく中で出会ったのが占星術でした。その中に、星に合わせて動きを変えると良いですよと言っている方がいて、たとえば今は獅子座ですよね。獅子座はカーニバルみたいなところがあるから、太陽が獅子座に入っている時は自己表現をいっぱいする。そして次に乙女座の時期に入ったら縁の下の力持ちになることを考えて家の整理整頓をする。もう少し詳しく言うと、月は2日半で星座を移動していくので、月の位置に合わせて行動を変えるんです。なので大きな一カ月の行動を変えるのと、2日半の行動を変えることをやってみました。あとは新月のタイミングでウェブに新作を出し、満月のタイミングで完結させるとか、そういうことをやっていったらみるみる運が良くなって。デビューもできて星ってすごいかもしれない! と思って勉強を始めたのが2013年くらいです。

ーーなるほど。

望月:それでいつか占星術をモチーフにした作品を書いてみたいと思って、そこから3年くらい経った頃に他の出版社さんで占星術の小説を書こうと思ったんですけど、全然書けなかったんです。勉強が足りないんだと思い、その時は他の作品を書き上げたんですけど。まだまだだなぁと思っている中で、桜田千尋先生のイラストがTwitter(当時)で流れてきたのを見て、うわー素敵!! この人が表紙を描いてくれたら私は頑張れる! と思ったんですよ。それで桜田先生が大阪のコミティアに出展し、自分で作ったイラスト集を販売するというのを聞いて会いに行きました。イラスト集以外にもステッカーやポストカードなどいろいろと売っておられたので、石油王みたいに「全部ください!」って(笑)。

mekakushe:(笑)。

望月:そこでいつか桜田先生とお仕事をご一緒するのが夢です、と伝えて名刺交換をさせていただいてたわけなんですけど。その後文藝春秋さんと新作の打ち合わせをした時にその経緯を伝えまして、文藝春秋さんからオファーしたところオッケーをいただきました。桜田先生も、「よくある同人でコラボするようなノリなのかと思っていたら、天下の文藝春秋を引き連れてきたからひっくり返りました」と後でおっしゃってました(笑)。

ーーあと一歩のところで落ち続けても書くことを止めなかったのは、何か望月さんの中に確固たる自信があったからですか?

望月:やっぱり中途半端に最終選考まで残るから諦めきれなかったというのと、本当に苦しくてやめようかなと思った時に、ネット上でひどい言葉を言われることがあって。匿名で「また落ちましたねw」みたいなメッセージが来るから、それが怒りになって止められるか! ってなりました。なのでアンチのおかげで頑張れたみたいな(笑)。

mekakushe:かっこいい。

望月:怒りというのはエネルギーになるんだなあと思いましたね。

ーーmekakusheさんは悔しさをバネにしたような経験はありますか?

mekakushe:私は望月さんとは違ってーー。

望月:気がつくと前に出ちゃう?

mekakushe:いやいや(笑)。最初はやっぱり望んで前に出たと思うんですけど。一番の挫折というか、すごく苦しかったのは名義を変更した辺りだと思っています。私は十何年か活動しているんですけど、最初は本名でやっていて、途中からmekakusheという名前になったんです(2018年まで「ヒロネちゃん」名義で活動)。本名でやってた頃はやっぱりそれが自分の全てだったから、そこから別の名前をつけて活動し直すのは今考えても葛藤していたんじゃないかなと思います。

望月:何故変えたんでしょうか?

mekakushe:思うように活動が進まなくなっちゃって。届けたいところに届いてないというか、行き詰まってしまった感覚がありました。それでmekakusheという匿名性の高い、ユニットなのかバンドなのか、女性なのか男性なのかわからないような名前にしたら、また音楽をフラットに聴いてもらえるんじゃないかと思ったんです。

望月:なるほど。

mekakushe:それが7年前、23歳の頃ですかね。それでmekakusheに変えたんですけど、当時のファンが根こそぎなくなっちゃったりして、正直その選択が正しかったかどうか、最近までわからなくて悩んでいました。今はそれも間違いなかったと思えるようになったんですけど、当時は辛かったです。

望月:私も最初は本名でやっていました。でも、どうにもうまくいかなくて。これもまた占いみたいな話なんですけど、画数が良くなかったんですよね。「また落ちましたね」と言われるのも、当時投稿サイトではランキング上位だったからで、変に注目をされてしまう。本名で嫌なことを言われるのって結構きついなというのがありました。私の母が元々私に「麻衣」ってつけたかったんだけど、近しい人が「麻衣」とつけちゃったからつけられなくなって、それで第二候補の名前にしたという話を聞いていたので。じゃあ私のペンネームを麻衣にしたらどうだろうと思って望月麻衣で数えてみたら、最高の画数だったんですよ。もうこの際本名は隠そう、やっぱり剥き出しは辛いと思って望月麻衣に変えたんです。

mekakushe:似てるかもしれない。

望月:昔の人は本名を隠すとかありましたよね。自分を守るじゃないですけど、やっぱりそういうのって意味があったのかなって思いました。

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