櫻坂46が証明したネクストレベルへの到達 “最高地点”を刻み、究極のエンタメを届けた京セラ公演を振り返る
4月下旬から約4カ月にわたって行われてきた櫻坂46の全国ツアー『5th TOUR 2025 “Addiction”』が8月24日、京セラドーム大阪にて閉幕した。愛知、福岡、広島でのアリーナ公演に、東京ドーム3DAYSと京セラドーム大阪2DAYSを加えたグループ史上最大規模と呼んでも過言ではないこのツアーは、計11公演で約26万人動員という大盛況ぶりを見せるなど、結成5周年を目前にその人気の加熱ぶりが窺える結果となった。
本稿では、ツアーファイナルの京セラドーム大阪公演DAY2を軸に、今回の櫻坂46のライブがエンターテインメントとしていかに優れていたか、そして常に限界突破しながら過去を塗り替え続ける櫻坂46という稀有な存在について解説していきたい。
『5th TOUR 2025 “Addiction”』京セラドーム大阪公演 すべての写真を見る
今回の『5th TOUR 2025 “Addiction”』はタイトルからもわかるように、4月に発売された2ndアルバム『Addiction』を携えたツアーということになるが、アリーナ公演ブロックでは、直前にリリースされた11thシングル『UDAGAWA GENERATION』のMVで示したサーカス小屋を彷彿とさせる世界観が打ち出されていた。ドーム公演ブロックではこの演出を踏襲しつつ、ドームという規模感の大きな会場に見合ったステージセットや演出へとスケールアップ。摩天楼を彷彿とさせる映像&照明に加え、ステージ前方から吹き上がる噴水などゴージャスさを伴うオープニング演出は、ここから始まるショーがどれだけ壮大なものかを予兆させるに十分なものだった。
そこから、ジャジーなBGMに乗せてそれぞれがピンクやグリーンのパンツスタイルの衣装を着用したメンバーが登場すると、藤吉夏鈴チーム&山﨑天チームの二手に分かれて華麗なダンスを披露。ストイックさやクールさの印象が強い櫻坂46だが、こうしたエンターテイナーとしての余裕を感じさせる見せ方も過去の経験の積み重ねがあってこそ。ダンスパートのエンディングでは、藤吉&山﨑がペアダンスを見せながら笑みを浮かべる。この“陽”の雰囲気も、メンバー間の関係性の良さや活動の充実ぶりが直結した今だからこそ魅せられるものだろう。こんなグループに成長したのか……前身グループ時代から活動を追ってきた筆者にとっては、このオープニング演出の時点で胸に迫るものがあった。
このショーの幕開け演出に続いて、ライブは「Addiction」から本格的にスタートする。二期生、三期生が勢揃いし、息の合ったダンスと力強い歌声で京セラドーム大阪に集まったBuddies(櫻坂46のファンネーム)を一気にヒートアップさせると、その後は「半信半疑」「Start over!」とお馴染みの楽曲で空気を一変。従来の櫻坂46らしい空気感を纏いながら、ストイックなステージが展開されていく。特に「Start over!」では、藤吉が感情の赴くままにパフォーマンスする姿に圧倒的なオーラを感じずにはいられなかった。彼女はこの日、「偶然の答え」でもセンターに立ったが、それぞれの曲で異なる表情や空気を放出するその佇まいは、まるで女優のようにも見えたが、それも近年のドラマや映画などでの演技経験で得たものが良い形で反映された結果なのだろう。
3曲終えると、曲間をシームレスで繋ぐようなビートに乗せて短いMCに突入するのだが、2時間半以上におよぶライブ本編中にMCが用意されたのはこのパートのみ。アイドルグループのライブにおいて、各メンバーのキャラクターを楽しむ上でMCパートは欠かせない要素のひとつとなっているが、それを極力減らしてパフォーマンスや演出のみでグループやメンバー個々の色をしっかり打ち出そうとする姿勢は、実に櫻坂46らしい思い切りぶりだ。
荘厳なサウンドが印象的な「嵐の前、世界の終わり」からは、櫻坂46が持つダークな側面が強調された楽曲が続く。メインステージやアリーナ中央のサブステージ、そのふたつを結びつつサブステージから左右に延びた花道を目一杯使うほか、サブステージがアリーナ後方まで移動するムービング形式になっていたり、アリーナ外周を移動する2台の大型トロッコを使用したりと、メンバーは数万人のオーディエンスをさまざまな形で楽しませ続ける。
また、曲によってはメンバー以外の演者も加わってステージを大いに盛り上げてくれた。その第1弾が「流れ弾」であり、曲後半の〈Wait a sec.〉を合図に長尺のブレイクパートに突入すると、ステージにはパルクールなどアクロバティックなパフォーマンスを見せる男性ダンサーたちが加わる。メンバーとともにキレキレなダンスを披露したり、田村保乃が拳銃を打つとステージ後方の高い位置からダンサーが落ちてきたりと、見応えのある演出で「流れ弾」の世界観を見事に拡張してみせた(もうひとつの「メンバー以外の演者が加わったパフォーマンス」については、本稿後半で触れる)。
その一方で、「マンホールの蓋の上」では楽曲冒頭に森田ひかるによる演出パートを用意。雨上がりの雑踏を歩く森田に、通りがかった車から跳ねた水たまりの水がかかると、カッとなった彼女がゴミ箱を蹴り上げ「チッ」と舌打ちをする。その流れから「マンホールの蓋の上」のパワフルなビートへと繋がっていくのだが、このシアトリカルな演出も実に櫻坂46らしい。
また、「自業自得」では冒頭に田村&守屋麗奈のダンスパートが用意されるのだが、その背後に赤い電話ボックスが設置されていることに気付く。すると、スクリーンに山下瞳月の姿が映し出され、街中で何者かに追われているような様子で電話ボックスに入り込むと、「もうこの街にはお前の居場所はない。そうなったのも、お前自身のせいだ」といった内容を電話の向こうの相手が話し始める。そして映像が途切れると、ステージ上の電話ボックスから山下が登場し、ソロダンスを披露してから「自業自得」へと突入する……映像演出の時点で次の曲が何か予測はできたものの、曲間もライブに必要な時間として、さまざまな趣向が凝らされたシームレスな構成はライブへの没入感を高める上で非常に効果的なものだった。
スリリングな前半パートがひと段落すると、クラシカルなSEをバックに幻想的な照明と噴水の演出で一度クールダウンすることになるのだが、衣装替えした二期生による「紋白蝶が確か飛んでた」からライブの雰囲気が一変。期別曲が並ぶこのパートでは、グループのアイドル性や陽の部分にスポットを当て、会場の観客と密なコミュニケーションを取りながらライブは進行していく。「ドローン旋回中」ではトロッコに乗ったメンバーと一緒に、Buddiesが頭上でタオルを回す光景は圧巻の一言。続いて登場した三期生は、京セラドーム大阪公演でライブ初披露となった小田倉麗奈センター曲「恋愛無双」や、この時期にぴったりの「夏の近道」で彼女たちにしか作れない空気を会場中に充満させていく。