朝ドラ『ばけばけ』主題歌は既存の流れを変えた? 『ブギウギ』で表れた前兆も、ハンバート ハンバート抜擢の理由
さて、ではなぜ今回ハンバート ハンバートが大抜擢されたのだろうか。『ばけばけ』は、『耳なし芳一』や『雪女』といった日本の民話を世に広めた作家・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)と、彼の妻・小泉セツをモデルとしたフィクションだ。そして、制作統括の橋爪國臣は主題歌の制作にあたって、「トキとヘブンの二人のありのままの空気感を飾らずに歌にしてくれる方にお願いしたいと思っていました」「良成さんと遊穂さんが同じように歌っていても、重なるようで重ならない、それはトキとヘブンの関係のようだなと感じています」(※1)とコメントを寄せていた。音楽家同士であり“夫婦”というふたりの関係性が作品のストーリーと重なり、日常を切り取ったようなハンバート ハンバートの楽曲の世界観があってこそ、白羽の矢が立ったのだろう。それに、『ばけばけ』は流れを変えた『ブギウギ』と同じく、NHK大阪放送局制作という共通点もあるのだ。
ハンバート ハンバートが手掛ける主題歌「笑ったり転んだり」は、放送に先駆けて8月26日放送の『うたコン』(NHK総合)にて初披露された。楽曲がドラマ放送前に解禁されることもまた異例である。
「笑ったり転んだり」は、夫婦の物語であるドラマのオープニングによく似合う。佐野が〈毎日難儀なことばかり〉と歌い出しを務め、佐藤が〈泣き疲れ〉と続けると、再び佐野が〈眠るだけ〉と付け加える。このふたりは同じような感情を抱えながら生きていることが、交互に繰り広げられるボーカルによって表現されているのだ。楽曲タイトルは「笑ったり転んだり」だが、歌詞の大半を占めているのは、どちらかといえば「転んだり」のほうだろう。穏やかでノスタルジックな曲調が“日常”の風景を想像させながら、サビでは〈何があるのかどこに行くのか/わからぬまま家を出て/帰る場所などとうに忘れた〉とふたりのハーモニーが響き、〈君とふたり歩くだけ〉と着地する。この先も何があるかわからない毎日だけれど、君が隣にいれば前を向け、“笑ったり”もできる――。そんなふうに、互いの存在が支えになることが歌われているのだ。
これまでの流れに大きな変化を与えた、『ばけばけ』の主題歌。ハンバート ハンバートによる「笑ったり転んだり」は、ドラマ初回放送週の10月1日に配信リリースも控えている。まずは9月29日の初回放送での“答え合わせ”を楽しみに待ちたい。
※1:https://www.nhk.jp/p/bakebake/ts/662ZX5J3WG/blog/bl/p7xRqmNdbW/bp/pZzK8X1qoy/