朝ドラ『ばけばけ』主題歌は既存の流れを変えた? 『ブギウギ』で表れた前兆も、ハンバート ハンバート抜擢の理由
9月29日より、連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合)の放送がスタートする。その主題歌をハンバート ハンバートが担当することが先日発表された。
ハンバート ハンバートは、佐野遊穂と佐藤良成からなる“夫婦デュオ”である。1998年に結成し、2001年に1stアルバム『for hundreds of children』を発表後、2003年にアルバム『焚日』でメジャーデビュー。2005年に発表した楽曲「おなじ話」が各地のラジオ局でパワープレイとなったのをきっかけに、活動を広げていった。これまでに12枚のアルバムをリリースしており、ニチレイのアセロラドリンクのCMソング「アセロラ体操のうた」をはじめ、2014年にリリースした楽曲「ぼくのお日さま」からインスピレーションを受けて制作された同名映画『ぼくのお日さま』(2024年)では主題歌と劇伴を担当するなど、幅広く活動している。
楽曲は、フォークやカントリーをルーツとし、佐野と佐藤の両方がメインボーカルを務める。佐野の凛とした歌声を最大限に引き立てるアコースティックのピュアなサウンド、ふたりのコーラスワークが美しく、肩肘張らずに聴ける印象がある。一方で、歌詞をよく見るとハッとするようなことが歌われていることも少なくない。たとえば、先述した「ぼくのお日さま」は、うまく言葉を司ることのできない苦しみを歌った楽曲だ。代表曲の「おなじ話」もまた、ふたりの掛け合いがほのぼのとした印象をもたらしつつも、最終的には〈さようなら〉と別れの場面が描かれる。日常において人が抱える悲しみ、脆さ、惨めさを、素朴なメロディに乗せて優しく包み込むように歌う。楽曲のなかに親しみやすさと味わい深さが共存しているのも、ハンバート ハンバートの魅力だと思う。
そんな彼らが朝ドラの主題歌を担当すると発表された時、彼らの楽曲にフォーカスが当たる嬉しさを抱いたと同時に、少々驚いた。というのも、朝ドラの主題歌といえば、現在放送中の『あんぱん』のRADWIMPS、前作『おむすび』のB'z、前々作『虎に翼』の米津玄師をにも顕著だが、過去にも山下達郎、桑田佳祐、小田和正、松任谷由実、スピッツ、福山雅治、Mr.Children、宇多田ヒカルといったビッグネームが名を連ねてきたからだ。その視点に立ってみると、ここ20年、30年ほどは“ビッグネームアーティスト”が主題歌を担当することが通例のパターンとして存在したと言ってもいいだろう。
少し違う視点で見れば、ともに沖縄が舞台となった『ちゅらさん』(2001年前期)のKiroroや『純と愛』(2012年後期)のHY、島根を舞台にした『だんだん』(2008年後期)の竹内まりやといったように、その作品で描かれる土地の出身アーティストが起用されることもあった。しかし、今回の『ばけばけ』の舞台は島根の松江であり、佐野と佐藤はどちらも関東出身なので、その点でも異なる。
パターン化とも言える流れが少し変わったのは、2023年度後期に放送された『ブギウギ』だろう。主題歌「ハッピー☆ブギ」は、ヒロインの趣里とEGO-WRAPPIN'・中納良恵とさかいゆうの3人。この異例とも言える起用は、これまである種パターン化されていた流れに一石を投じたこともあり、当時も話題となった。