shallm、音楽は世界を変える革命の手段――初のツアー『一揆』ファイナル、弾ける衝動のすべて

 shallmにとっての音楽とは、世界を変えるための革命の手段である。

 いきなり大仰な書き出しになってしまうようだが、それがshallm初となるツアー『shallm 1st LIVE TOUR 2025 一揆』のファイナル、8月11日の東京・SHIBUYA CLUB QUATTRO公演を観たあとの率直な感想だ。

 自身初のツアーとなる今回は、7月5日の北海道・SPiCE、7月19日の大阪・梅田Shangri-Laと巡り、この日が千秋楽。前回のワンマンライブのタイトルは『決起集会』、本ツアーには『一揆』というタイトルを冠していることからも、shallmが、ファンとの集いの場であるライブをどんな空間にしたいのかが伝わってくる。それは、みんなで立ち上がり、行動を起こすということ。かつて普通の人生を歩んでいたボーカル・liaが、音楽との出会いに突き動かされ、その道に身を投じたように、自らの音楽が誰かの世界を変えるきっかけになるために、彼女は歌うのだ。

 その覚悟と決意を、あらためてパフォーマンスで示した今回のライブ。鈴木栄奈(Key)をはじめ、バンドメンバーがスタンバイするなか、liaが愛用する白いギターを手にし、アグレッシブなロックチューン「G2G」で威勢よく始まりを告げる。ブロンドの髪の毛を編んで束ねたヘアアレンジと黒いヘッドドレスの組み合わせは優雅で愛らしいが、歌声はパワフルでエネルギッシュ。続く「アイ・ラブ・ジェー・ケー・キス・デート」でも熱気はキープされ、ライブの定番曲「stardust」では「もっとこいよ、東京!」と煽って、会場からクラップや歓声を引き出す。

 MCで「北海道、大阪からたくさんの熱をもらいまして。今日はファイナルの東京ということで、その熱をドッカ―ンと大爆発させてQUATTROを揺らしましょう!」と決起の言葉を投げかけると、ここからは聴かせる楽曲を続けて披露。「私の大切な人に向けて書いた歌」だというバラード「花便り」の切なくエモーショナルに色づいたボーカル、シャッフル系の軽快なリズムに滑るような歌声が舞い踊った「ハイドレンジアブルー」、別離と再会の願いを描いた「ヘミニス」ですべてを包み込むような歌唱アプローチ――そのどれもが心を震わせるものだった。

 初めてのツアーをまわるなかで、ライブはその場限りのものであることをあらためて実感したというlia。「ここにいる全員が演者だし、主役だし――台本なんてない、本当に自由なんだということを感じたツアーでした」と語ると、音の余白を活かしたグルーヴと艶やかさを強めた歌声でシックに聴かせた「白魔」、一際距離の近さを感じさせる優しい歌い口とサビでのハイトーンの対比がドラマチックに響いたミディアムバラード「短夜の星」と続けていく。そこから、推進力のあるピアノロック「if 1/2」ですれ違う愛の感傷を表現すると、夏のツアー特別バージョンとして蝉の声や風鈴の音のSEを導入に置いた「閃光バード」を届けた。サビではミラーボールが揺れる光を会場に注ぎ、切ない夏の情景が浮かび上がる。一曲一曲に多彩なドラマが詰め込まれているのもまた、shallmの音楽の魅力だ。

 続いて披露されたのは、現在放送中のTVドラマ『恋愛禁止』(読売テレビ/日本テレビ系)のオープニング曲となる新曲「虚飾のキス」。liaは「人には言えない心の傷や過去があっても、それも含めて本当の意味で愛してほしい、と思うジレンマを描きました」と語ると、強く響く持ち前のハイトーンボイスで複雑な想いをエモーショナルに描き出していく。間髪入れずアッパーな「境界戦」で不条理な世界に宣戦布告すると、今度はTVアニメ『阿波連さんははかれない season2』(TOKYO MX/MBSほか)のエンディングテーマ「トワイライト」へ。作品の世界観に合わせて、青春の最中にいる“私”と“君”の「ずっとこの時間が続いてほしい」という気持ちが描かれた同曲。オルガン系のあたたかな音色がリードするなか、liaの太く優しい歌声が会場いっぱいに響き渡る。

 liaの「後半戦、まだまだ盛り上がっていきましょう!」との声に続いて歌われたのは、shallmのメジャーデビュー曲「センチメンタル☆ラッキーガール」。聴いているだけで心が浮き立つポップソングだが、ライブではファンの大合唱も合わさって、楽しさが倍増。liaも終始笑顔で歌いながら、最後は「最高!ありがとう!」と感情を爆発させる。そこから立て続けに「まっさかさマジック!」へと繋げ、その場にいる全員で熱狂の渦へとまっさかさまにダイブしていく。さらにliaのボカロ音楽のルーツを感じさせる狂乱のロックチューン「脳内ディストーション」に突入。荒々しさを増した歌声が会場のボルテージをさらに引き上げていく。一見するとFPSをモチーフにした歌詞だが、〈ノイズがずっと鬱陶しい日々を/エイム合わせて撃ち抜くの〉というフレーズは、日常に退屈や鬱屈を抱えているすべての人々が共感できる言葉であり、そんな日常を撃ち抜く弾丸が、shallmの音楽なのだ。

 熱量の高いナンバーの連発に息を切らせながらも、「ファイナルって感じですね」と会場の盛り上がりを喜ぶlia。彼女は『一揆』というツアータイトルに込めた想いについて、話を始めた。もともとは『世界を救うツアー』という仮タイトルだった本ツアー。「音楽で人を救う、世界を変えるって、『できない』と言う人もいると思うんですよ。でも、私は世界を変えるほんのちょっとのきっかけくらいにはなれるんじゃないかなと思っていて。音楽やライブを通して、ちょっとでも『明日を頑張ろう』っていうプラスの感情や衝動が起こせたら。そう思った人たちが集まって決起集会を開いて仲間が増えていけば、結果的に一揆が起きて、少しずつ世界が変わっていくんじゃないかと、本気で思っています」。そのまっすぐな想いこそが、shallmが誰かに向けて音楽を届ける意味であり、衝動なのだ。

 「私がたくさんの人からもらった衝動を、今度は誰かに渡せるように。衝動の連鎖がこれから続いていくことを願って」「最後、見たことのない景色を見せてください!」と告げて届けたのは、1stフルアルバム『charme』のリード曲「暴動」。アジテーションするかのように挑発的な歌声とバンドの演奏が革命前夜の熱狂を生み出し、QUATTROの観衆を蜂起させる。音楽の力を信じる人々の純真な気持ちが合わさって大きなエネルギーとなり、見たことのない感動を呼び起こし、ライブ本編は幕を閉じた。

関連記事