ミニマムジーク、愛すべき等身大の姿から繰り出す音楽の可能性 TETORAを招いた全国ツアー東京公演

 メンバーはリリース時のインタビューで『標本』について、「とにかくいろいろな扉を開けてみたい」という気持ちで様々な曲調にチャレンジしたこと、「今はバンドにとってそういうフェーズなんじゃないか」という感覚を語っていた(※1)。その発言から読み取れたのは、まだ若いバンドならではの無邪気さと、一歩引いた視点を持つ慎重さ。この日のMCは山之内が、いいライブをすることは「当たり前だけど当たり前じゃない」と実感したと明かしていたが、多感で吸収力に富んだ時期にある彼らにとって、今回のツアーは、きっとかけがえのない経験になったのだろう。

 そして彼らは“強いミニマムジーク”でありたいと願いながら、同時に「自分を助けるために書いた曲が多いけど、曲に自分を重ね合わせて“救われた”と思ってくれる人がいるんだったら、やりがいがあるなと思います」と優しさを滲ませながら、リアルタイムで鳴らす音楽に全ての感情を込めていく。インストセクションによる助走を経て、「SEE THE LIGHT」へ突入すると、3人は激しく点滅する照明の下で、「僕らの音楽を誰かの光に!」という想いとともに楽器を掻き鳴らした。そしてすぐさまギターリフを鳴らし、「どうかしてる?」へ繋げると、「俺らの方が記憶に残るライブをしたら、『ムロフェス』のトリは俺らにやらせてください!」とTETORAに勝負を吹っ掛ける。インタビューでは穏やかな印象だった彼らだが、3ピースのアンサンブルが勢いに乗っている今では大胆不敵な発言が目立つ。続く「早く終えて」では、TETORAの"二番煎じ"にまつわるMCを受けて、山之内が「そうだよ、唯一無二になりたかった。なれないんだよ、クソが」と吐き捨てたかと思いきや、直後、「見捨てないでくれ!」と叫んだ。彼らの楽曲には失恋や断ち切れない想いを描いた曲も多いが、感情がピークに達した時、我儘で情けない言葉が溢れてしまうようだ。そんなミニマムジークの愛すべきキャラクターが現れた瞬間だった。

 ライブ終盤では「疲れた!」と充実の笑顔を見せた3人。ラストのMCでは山之内が「ツアーをまわって、俺らがやりたいこと、やれないこと、やりたくないけどやらなきゃいけないこと、やってきたけど別にやらなくてもよかったことがたくさん見えました」と、だからこそ「これからのミニマムジークの音楽、行き先にワクワクしている」と語った。そして「早く次のことがしたいって気持ちでいっぱいなので、これからもどうか隣にいてください」という言葉を添えて、「銀世界」を披露。上越の雪景色を思わせる雄大なサウンドスケープの中、愛した相手から忘れられることを〈嫌だ嫌だ〉と拒むボーカルが、泣き出しそうな歌声によって届けられた。愛すべき等身大の姿とともに、ミニマムジークの音楽の可能性を改めて感じさせたライブだった。

※1:https://realsound.jp/2025/03/post-1974092.html

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