Billboard JAPANチャートが向き合う“ヒット”の定義 「ずっとタイミングを狙っていた」――新ルール導入と今年の傾向
HANAのデビュー、サカナクション「怪獣」……2025年上半期チャートの傾向
――TikTokなどの短尺動画のデータを指標として組み込む予定はありますか?
礒﨑:以前はTikTokからほかの指標に対して影響を与えることがあったのですが、以前ほどストリーミングへの影響は大きくない気がするんです。地上波で「TikTokで流行っています」と取り上げられる楽曲が、フックがある歌詞の入っているアイドルソングで。それがヒットするというのがTikTokの勝ちパターンとして定着している。なので、TikTokを(チャート指標に)入れてしまうと、勝ちパターンをもって「ヒットである」とされる楽曲が増えてしまう。それはヒットチャートとしてはなんか違うな、と思うんです。
――とはいえ、TikTokのバズから火がつく楽曲は多いですよね。
礒﨑:一般ユーザーの方々とも意見交換をさせていただくんですけど、「みなさんがTikTokで動画を作る理由は何ですか?」と聞くと、「流行ってる曲を選んで使いたいからです」と答えるんです。つまり、自分のなかにある「動画を作りたい」というクリエイターの感覚ではなく、流行ってる曲を選んで何かをするという二次創作の感覚なんですよね。ボカロ(ボーカロイド)とは少し異なるんです。「楽曲が好き」とか「アーティストが好き」ということで動画を作っているのではなく、流行ってる楽曲を選んで動画を作っているのがTikTokの使い方として普通であるならば、ヒットチャートの指標として取り入れるよりも、別軸で短尺動画ランキングを作ったほうが正しいんじゃないかと思うようになりました。
――2025年上半期チャート(※2)では、Mrs. GREEN APPLEの楽曲が5曲ランクインしましたね。
礒﨑:現状のユーザーの動向や、世間のミセスの浸透ぶりから考えても、それは普通のことだろうと思います。ミセスがそうなる可能性は、去年の上半期のチャートの段階ですでに伏線として見えていたので、その結果として今こうあることが正しいのかなと思いました。過去にもAdoの楽曲が複数ずらっと並ぶようなことがあったわけですし。しかも、ミセスはほかのところでもポイントを高く取っているので、「そうだよな」という結論でしたね。ただ、HANAのデビューであったり、XGの快進撃だったりというような、新しいガールズグループの潮流とその再定義、CUTIE STREETのようなアソビシステムのアイドルたちの動きが、ヒットチャートのほうにもう少し見えてくるようになったらいいのになと思います。
――そういう点も加味してのリカレントルールなんですね。
礒﨑:今回ルールを変えていくことによって、もう少し動きが出るようにはなるだろうなと思います。ただし、できれば1位から20位ぐらいまでを見るのではなく、ランキングの全部を見ていただきたいなと思っています。もっと面白い楽曲がいっぱいあるし、ほかのジャンルでの急上昇もいっぱいあるので、ぜひご覧いただきたいですね。
――2025年上半期チャートには、2024年の上半期1位にして年間1位のCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」も10位に入っています。
礒﨑:今年度は、新しい楽曲がチャートに長く残留できないという傾向があります。ストリーミングではリリースされてから順位が上昇していても、数週間で落ちてしまうパターンが多くて、逆に前から聴かれているものが長く残っていることがあるんです。Creepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」は、去年12月から今年1月にかけてずっと上位にいたので、上半期のチャートで上位に食い込むだろうと思っていました。
――ほかに印象的な楽曲はありましたか?
礒﨑:サカナクションの「怪獣」は大躍進でしたよね。サカナクションの以前の楽曲もどんどん順位が上がってきました。アニメタイアップはもちろんのこと、山口(一郎)さんがYouTubeで「怪獣」についてさまざまに語っていたことも大きかったんだと思います。
――アーティストと楽曲、そして動画が結びつくことの重要性を、これまで礒﨑さんは話してきましたね。
礒﨑:楽曲のファンダムを増やしたいなら、アーティストが楽曲を語ればいい。だから、山口さんが曲を語っていらしたのは、すごく正しいと思います。「アーティストはもっと自分のいろんな楽曲を語る場がほしかったんだな」って、山口さんの動画を見ていて思いました。
――そしてBillboard JAPANでは、今年9月から書籍業界初のウィークリー総合チャート「JAPAN BOOK HOT100」も開始されます。図書館の動きも把握するそうで、驚きました。
礒﨑:「図書館でこの本が借りられた」という情報で、本の回転率がわかるんですよ。ならば、サブスク枠に入れられるなと思っていました。音楽を聴きながら本を読む方々は、きっと多いだろうと思っていて、音楽と本は、実は親和性の高いエンターテインメントなのではないかと思っています。その点でも、Billboard JAPANのなかにブックチャートが存在して、ミセスや米津玄師を聴いている人たちが、「こういう本もあるんだ!」と本へ興味を持ってもらいたいです。本を読んでる人たちにも、「最近の音楽はこういう感じなのか」「聴いてみたらすごくよかった!」というような体験を作れたらいいなと思ってます。音楽業界の3倍、4倍と言われるマーケットの大きさも面白いですよね。こっちの書店で売れている本と、あっちの書店で売れている本は、実際にはどちらがたくさん読まれているのか、知りたくないですか? それができたら本望です。そうしたら、今「面白い」とされているもの以外にも、面白い漫画や書籍に出会えるチャンスが増えるはずだと思います。
※1:https://x.com/MotokiOhmoriMGA/status/1929437137767903659
※2:https://www.billboard-japan.com/special/detail/4854