5月21、22日に行われた『MUSIC AWARDS JAPAN 2025』（以下『MAJ』）授賞式に合わせ、開催地の京都では16日から22日にかけて「MUSIC AWARDS JAPAN アワードウィーク」が行われた。ライブイベントはもちろん、シンポジウムやパーティなどさまざまな関連イベントが同時多発的に併催。世界中から多数の音楽業界関係者が集結した。

　本稿ではこのうち、18日から21日までの4日間にわたって行われたコライティングキャンプ『CEIPA x TOYOTA GROUP "MUSIC WAY PROJECT" Global Co-writing Camp -SONG BRIDGE 2025-』（以下『SONG BRIDGE 2025』）についてレポートする。また記事後半には、本イベントに参加した第65回グラミー賞受賞アーティストであり、プロデューサー・作曲家、宅見将典へのインタビューも掲載。ぜひ併せてチェックしてほしい。

『MAJ』アワードウィークに行われた国内外クリエイター参加のコライト合宿

　本題に入る前に、まず本イベントの大枠についての説明をしておくべきだろう。「MUSIC AWARDS JAPAN アワードウィーク」で催された本イベントは、『MAJ』を主催するCEIPA（一般社団法人カルチャー アンド エンタテインメント産業振興会）とTOYOTA GROUPが推進する『MUSIC WAY PROJECT』の理念を発信すべく行われたもの。『MUSIC WAY PROJECT』とは、日本の音楽の未来を担う若者たちが国境を越えてつながり、進んでいくための“道”を示すプロジェクトだ。つまり「日本の音楽が世界をドライブする」という思想である。

　同プロジェクトの内容は、「人づくり」「場づくり」の2つに大別される。前者は人材を育む枠組みのことで、具体的にはセミナーやワークショップなどが含まれる。後者はライブ会場の新設・運営やライブイベントの開催などを指し、2025年秋に開業予定のアリーナ会場「TOYOTA ARENA TOKYO」などもその一例だ。

　本稿の主題である『SONG BRIDGE 2025』は前者の「人づくり」施策のひとつで、世界各国からアーティストやクリエイター、プロデューサーが集結し、合宿形式で楽曲のコライト（共同制作）を行うというもの。参加者には前述した宅見のほか、SKY-HI（BMSG）、☆Taku Takahashi（m-flo）、乃紫、ベニー・シングス、ヒロイズム、ESME MORI、Lil'Yukichiといった著名なクリエイター／アーティストをはじめ、気鋭の若手も多数名を連ねている。

　コライトは日本ではまだそこまで一般的ではないものの、海外ではスタンダードな制作スタイルとして定着している。本キャンプは、世界的に標準となっている制作手法を日本人クリエイターが体験するための機会でもあり、海外クリエイターとのコラボレーションを経験できる機会でもある。グローバルな人材を育成するためのモデルケースを目指すものとも言えそうだ。

　もちろん海外からの参加者にもメリットはある。海外のクリエイターたちにとって日本人クリエイターとのコライトはあまり経験がない可能性が高く、新鮮な刺激を得られることが期待できる。また、会場に選ばれた場所がいずれも純日本的な文化の匂いに満ちた建物ばかりであることも特記すべき事項だろう。本キャンプでは本山興正寺、平安神宮、大西常商店、京都芸術大学の4カ所に各日最大7部屋の臨時スタジオが設けられ、それぞれに複数名の参加クリエイターが振り分けられるレギュレーションが採られた。海外人気の高い古都・京都のトラディショナルなムードを存分に味わえる環境で、思う存分創作に励むことができる。

　参加クリエイターたちは朝10時に各自が振り分けられたスタジオへ集合し、その日1日をともに過ごす仲間たちと顔を合わせ、風流な庭の風景を眺めながら作曲作業を開始する。ほんのりとイグサが香る畳敷きの部屋に3、4名ほどが陣取り、PC前に座ってDAWのオペレーションやシーケンサーの打ち込みを担う者、ギターや鍵盤を奏でつつイマジネーションを膨らませる者、タブレットやラップトップで素材を作る者、ハミングしながらメロディや歌詞を作る者など、それぞれのやり方でセッションにコミット。

　各日の終了時間は最長で19時まで。運営の都合で17時までという日もあったが、その日のうちに最低1曲はある程度のところまで仕上げなければならない。いずれのチームも1日限りの組み合わせとなっているためで、つまり本キャンプに2日間参加する者は計2チームで、4日間とも参加する者は計4チームで制作を行うことになる。もちろん1日のみ参加という者もいる。

　また例外はあるものの、基本的に全チームにクリエイターだけでなくアーティストが1組配置されるのが本キャンプのユニークなポイントだ。各チームには「そのアーティストの楽曲を制作する」という”お題“が与えられており、彼／彼女が歌うための楽曲を力を合わせて作りあげていく。できあがった楽曲はのちに正式な音源作品として世界リリースされる予定で、確約はないがトヨタグループのタイアップ楽曲としてグローバルでの活用も同時に検討されていくようだ。

　めったに体験できない特殊なロケーションも相まって、参加者たちは一様にクリエイティビティを刺激されていた様子。とくに平安神宮会場に至っては、一般の参拝客が立ち入ることのできない貴賓室がスタジオとして使われたこともあり、外国人クリエイターが狂喜乱舞していたのはもちろん、日本人クリエイターたちもその貴重な機会を心から楽しんでいるようだった。

　キャンプ3日目（20日）の夜には、リスニングパーティも開かれた。各自のスケジュールの都合もあり全員参加とはいかなかったものの、その時点までにできあがったデモ音源を参加者同士で聴き合うというものだ。会は「別チームの楽曲を聴いて嫉妬するほど感動した」などの熱いコメントが飛び交うほどの大盛り上がり。参加者たちからは異口同音に「来てよかった」との喜びの声が聞かれた。シンガーソングライターの乃紫に至っては、もともと3日目の午後は不参加予定だったにもかかわらず、本キャンプのあまりの楽しさから「リスニングパーティまで残りたい！」と、急遽夜まで滞在を延ばしたのだとか。