櫻坂46、四期生ドキュメンタリーで描かれた“咲こうとする意志” 「静寂の暴力」への挑戦を見て
そうした中でも特に印象的だったのが、佐藤と稲熊ひなの姿だ。佐藤は中学時代に芸能活動の経験があり、今回のオーディションでは合格者の中でも完成度の高い存在として注目されていた。だが、ドキュメンタリーの中では指摘を受けており、そこでは表現者としてのジレンマと向き合う覚悟がにじんでいた。合宿で課題となった「静寂の暴力」は、振付をこなすだけでは成立しない、楽曲に対して自分自身が持つ情感や空気感までをも含んだ表現が求められるものだ。講師陣からの指摘は佐藤自身の内面が試されているようだった。それでも彼女は、指摘に対して過剰に動揺することなく、冷静に言葉を受け止めていた。「もっとできるはずだ」と思われているからこその期待であることを、しっかりと理解しているようにも見えた。
他のメンバーとは異なるスタートラインの高さに立たされた佐藤だが、彼女の挑戦は単なる“完成度の高さ”では測れない。むしろ、現時点で持っている経験値を、いかに櫻坂46という空間に最適化させるか。その過程における葛藤と更新こそが、彼女のドキュメンタリーで描かれた主軸と言える。
一方の稲熊は、まったく異なる立場にいる。愛知県出身で、のんびりとした口調と柔らかい雰囲気が印象的な彼女は、これが初めての本格的なダンス経験となる。ドキュメンタリーのEpisode 01では、合宿初日の振付レッスンからすでに苦戦する様子が映し出されていた。動き方がわからない、自分のどこが間違っているのかもわからない。それでも周囲に追いつこうと、必死にノートを取り、身体を動かし続けていた。感情を抑えることができずにレッスン中に泣き出してしまう場面もあるが、それは逃げではなく、自分の限界と向き合おうとする誠実さの証でもあるはずだ。
9人が自分たちで決めて掲げたスローガン「団結・圧倒・咲き続ける」は、それぞれの過去や得手不得手を超えて、グループとしてどう在るかを示す言葉だ。誰か一人の輝きではなく、バラバラな個性が重なっていくこと。その中に、今の櫻坂46が求める強さがある。
櫻坂46というグループは、初期衝動や迷い、不完全さを否定せずに物語として見せてきた。その系譜のなかで、四期生もまた、「完成された輝き」ではなく「咲こうとする意志」にこそ価値を見出していく存在なのかもしれない。四期生初ステージとなる『First Showcase』では、彼女たちがこのドキュメンタリーで見せた模索の先にある姿が試されるだろう。