irienchyが「飛行船」に託した覚悟と“らしさ”を貫く第一歩 メジャーデビューの想い、結成5年の歩みを語る
Official髭男dism・楢﨑誠の紹介で出会った運命のバンドメンバー
——颯さんと響平さんはMOSHIMOの頃からともに活動してきて、裕馬さんと響平さんは専門学校時代の先輩・後輩です。そして、颯さんと諒孟さんはOfficial髭男dismのベーシストの楢﨑誠さんの紹介で知り合ったんですよね。
宮原:はい、ヒゲダンと同じ事務所にいた時期があって。僕もベーシストだったので、頼れる兄貴みたいな存在のならちゃんにはいろいろと相談に乗ってもらってたんです。自分がすごく思い悩んでいた時に作った曲を聴いてもらったら、「もっと書いてみない? 俺がいいギタリストを紹介するよ」と言ってくれて。
諒孟:楢﨑は大学の後輩で、地元の島根では一緒にバンドを組んだこともあるんです。やがて別々の道へ進む中でヒゲダンは先にもう活躍していたから、僕が上京するタイミングで何気なく彼と話をしたんですけど、そのおかげで颯くんに出会えました。「メンバーってすぐに見つかるものなんかな?」「ちょうど今、いい人がいますよ!」と偶然が重なったという。
——本当によかったですね、そこで出会えたことが。
宮原:ならちゃんに感謝です!
諒孟:そうだね。こうして5年以上もバンドが続いているし。
宮原:やっぱりirienchyって、周りの人たちに恵まれてるなと思います。僕らは基本的に楽しくやってこられた感覚が強いから。
——結成直後のコロナ禍をはじめ、5年間で様々な経験をされたと思いますけど、バンドに自信が持てるようになったのはいつですか?
井口:有観客公演が戻ってきた頃ですかね。ライブの本数が増える中で、バンドのカラーを掴めていった気がします。
本多:2023年のゴールデンウィークくらいに規制がほぼなくなって、ようやくバンドが本格始動したというか。自分たちのライブのモデルケースが出来上がっていきました。
諒孟:僕は去年とかかな。ライブでの硬さが取れてきたんです。誤解を恐れずに言うなら、割と適当にやっても大丈夫。その日の気分でアドリブを入れるのが問題ない感じになってきたので。
宮原:ライブを通してのレベルアップはもちろんあるんですけど、「Message」ができた時点でいいバンドになると思ってました。メンバーに対する心配はなくて、むしろ自分が不安だったんです。もともとフロントマンじゃなかったから、僕だけが素人みたいで。特に結成当初はどうにかしなきゃと必死でしたね。
——今は自分たちの魅力も客観的に見えている感じがしますけど、irienchyってどんなバンドだと思います?
諒孟:元気なバンドですかね(笑)。
井口:それでいて、弱虫だったりもします。でも、だからこそ生まれるエネルギーを音楽にできるバンドなんじゃない?
本多:ああ、そうかも!
宮原:最初はメンバーのことを強い人間だと思ってたけど、4人とも結構弱い部分があるよね。
諒孟:ナイーブさも活かしつつ、ライブではお客さんを笑顔にできるのが特徴です。
宮原:irienchyのお客さんって、普段そんなにライブハウスに行ってない人も多かったりするんです。いろいろな人が馴染みやすい、不思議な温かみを持っているバンドかな。
——ビクターさんがirienchyのどこを買ってくれたのかも気になるところですね。
全員:(爆笑)。
宮原:まさかの質問ですね。(スタッフに視線を送りながら)ライブにはよく来てくださっていて、ステージでのパフォーマンスがよかったんだと思います。
スタッフ:演奏がしっかりしているのと、その中で歌がちゃんと聞こえること。いわゆるポップミュージックを形にできるバンドなので、もっと上手く伝わっていけば、リスナーが増える可能性をすごく感じました。
irienchyが描く“人生” 新曲「飛行船」に込めた想い
——新曲の「飛行船」は、メジャーデビューを踏まえて作ったんですか?
宮原:諒孟さんがふわっと作ってくれたオケは2〜3年くらい前にあったんですけど、今回の話が決まってから本格的に書き始めました。
諒孟:スタジオで何度か合わせているうちに、颯くんがメロディを思いついて、歌詞も同時にできていった感じです。
井口:リズムに関しても、演奏しながら形になっていったというか。
本多:あーでもないこーでもない言い合って、バンドらしく作りましたね。
——この曲は人生を飛行船に喩えた曲になっていますよね。
宮原:似てると思ったんです。強い風が吹いたら流されてしまう感じ、どこに辿り着くのか想像できない雰囲気が。僕らはそうやってバンドを続けてきた。でも、まだまだ飛び続けていたいっていう曲です。
——〈どういう訳やら僕らの飛び乗った舟ズボッと沈んで/もう一回まぁいっかって立ち上がるんだ〉と生き様を歌う、irienchyのライブ定番曲「ドリームキラー」を思い出したりもしました。
宮原:特に意識したわけではないんですけど、なんだろうな……バンドをやってると時にしんどい場面が訪れたりとか、メンバーとはもう家族よりも濃い関係性と言えるから、気持ちが落ちてるとお互いにわかっちゃうものなんですね。それでも同じ船に乗って、てっぺんを目指して頑張っていく。沈む時も一緒。僕の中にある『ONE PIECE』みたいなイメージが、「飛行船」にも「ドリームキラー」にも表れているのかもしれないです。
——上手くいかない経験があっても、諦めはしなかったこと、インディーズでの5年の歩みが伝わってくる曲です。メジャーデビュー作とはいえ、浮ついたムードはなくて。
宮原:実際、浮ついてはいないですからね。
諒孟:地に足ついてます! またスタート地点に立っただけ。
——弱さをめいっぱい曝け出した上で、なんとかして強さに変えていこうとする姿勢もirienchyらしい。
井口:「ドリームキラー」に通じるところはありますね。「スーパーヒーロー」もそうか。今までの曲に散りばめられていた要素が垣間見えるのが感慨深いなと。
本多:ずっと聴いてきてくれた方には、これまでの僕らが「飛行船」から伝わるんじゃないかなと思います。
諒孟:迷いや不安を軸に希望を切り開く感じが自分たちっぽい。「黙って俺らについて来い!」みたいな、すごくタフな世界観ではないんです。
宮原:過去の曲で言えば「メイビー」や「ソルジャー」もそうで、僕は結局いつも不安なんだなと思いました。最終的にポジティブなメッセージを歌っているんですけど、それはきっと怖い気持ちを消したいから。完成したあと、恥ずかしいくらいに自分の内面が露になりますね(笑)。