AA=『#7』ロングインタビュー 上田剛士が語る自分にしかできない音楽、BUCK-TICKカバーへの思い

 去る1月25日、東京・渋谷WWWXにて行なわれたAA=の今年最初のライブは『LIVE THE NEXT』と銘打たれ、その名のとおり“次”に向けてのヒントを示すものとなっていた。具体的に言えば、タイトルが明かされぬまま先行披露された新曲(のちにそれが「THE BOMB」であることが判明)もその1つだが、それ以上にステージの両脇に掲げられたフラッグに描かれていた“ALL ARE UNITED”という言葉が印象に残っていた。実際、公演終演後に上田剛士と面会した際にもその言葉についての話になり、彼自身もそれが次なるアルバムと関連性のあるものだと認めていたのだが、団結を示すこの言葉は、さまざまな要素の結合により成立しているAA=の音楽自体にも似つかわしいものだと言える。

 そして、4月23日に発売された待望の新作『#7』には、この言葉がそのまま表題に掲げられた楽曲も収められている。そして3月下旬のある日、このアルバムの全貌を掴むべく、上田にたっぷりと話を聞いた。約1時間の会話を通じて、筆者は、頭の中にあったさまざまな印象や予測が1つに繋がっていくかのような感覚を味わうことになったのだった。(増田勇一)

『#7』はA面/B面で切り替わるLPのような構成に

――『#7』に収録されている全14曲を試聴させていただきました。先日のライブと同様に「BLUE & YELLOW」で幕を開け、今作に向けてのヒントだと言われていた言葉がそのまま冠された「ALL ARE UNITED」で締め括られるという流れも含め、さまざまな楽曲が詰まっていますが、8曲目の「CRY BOY」が終わったところで物語が1つ終わるかのような感触があります。その意味では、本作はEP2枚組のような印象でもあるんですが。

上田剛士(以下、上田):それはよかった(笑)。自分としてもまさにそんな感覚です。LPのA面とB面が切り替わるような感じというか、そこで盤をひっくり返すような流れにしようとしたいと思ったところがあるんです。

――実際、その「CRY BOY」のようなシングル曲や、ほかのアーティストへの提供楽曲といったものも散りばめられていて、それらを1つに繋ぎ合わせているかのような印象もあります。そうした設計図的なものを描いた上でのアルバム制作だったんでしょうか?

上田:いや、そういった計画的なところは特になく、今現在の自分のノリ的に作りたいと思ったものを作っていき、それを並べていったらこうなった、という感じですね。自分としては、やりたいことが結構わかりやすかったですし。たとえば「BLUE & YELLOW」を入れるなら1曲目、「ALL ARE UNITED」は最後に相応しいだろうとか、その程度の考えはありましたけどね。これまでもあらかじめ設計図を用意しながら作ってきたわけではなくて、むしろ作っていくうちにそれが見えてくる。基本的には毎回そんな感じですね。

――作りたいものが明確だったからこそ、伝わりやすい作品にもなっているように思います。音楽的には振れ幅が大きくてコントラストの強いものになっていますけど、そこに載せられているのは、まさに今現在の主張というか。

上田:そうですね。AA=の場合、そこについてはずっと変わってないんです。ただ今回は、そういうことをあまりダークになり過ぎない感じでできたかな、というのはあります。あと、音楽的な意味でなんとなく自分の中でイメージしていたのが、1990年代の後半から2000年代頭ぐらいにかけての時代のサウンド感で。

――いわば「グランジ以降、ニューメタル流行直前まで」みたいな時期でしょうか?

上田:ええ。それがニューメタルと呼ばれるようになる以前というか。自分にとっては新しいものをどんどん吸収しながら音楽を作っていた時期でもあって、あの時代の感触というかワクワク感のようなものを、今一度追ってみたいというモードになってきてたんです。当時の自分が新しいと思っていたもの、どんどん吸収しようとしていたものに、あらためて今になって接してみてもワクワクさせられるようなところがあって。それで、またやってみたい気分になってきたというところがありますね。

――90年代半ば頃といえば、上田さん自身も新しいもの、ほかにはないものを編み出そうという意欲が強まっていた時期だろうと思います。

上田:そういう時代でしたよね。音楽的にもそうだし、いろんなハードが進化していた時期でもある。本来のメインストリーム的なものがなくて、みんなが「俺のほうが面白いぜ!」という感じで音楽を作っていた時代で。フェス文化みたいなものが定着している昨今にあっては、どちらかというとみんなで同じことをやろうとする傾向が強まっているように思うんですけど、当時は「こっちのほうが!」というやつばっかりだった気がするんです。そういった時代ならではのワクワク感があったというか。音楽を通じて自分にやれることというのは、この先ももうそんなに変わらないはず。でも、やってきていることは多分ずっと続いていくものだと思うし、自分にしかできないものはやっぱりこういうサウンドの音楽だな、と感じたんです。それが自分らしいメッセージを伝えられる一番わかりやすい形なのかもしれないな、と。

楽曲に託したリアルな叫び、音楽にしか成し得ない“救い”

AA= - 『#7』(Official Trailer)

――各収録曲についても聞かせてください。まず「BLUE & YELLOW」については、ライブでの新しいオープニング曲にすることを想定して作られたものなんでしょうか?

上田:この曲自体は3年前からあって、ライブでもやってきてたんです。しかも自分のワンマンではなく、イベントとかの時にだけ。だからイベントを観に来てくれているファンの中には、何度も聴いてきたという人も多いはず。タイトルはまさにウクライナの国旗の色で、実際あの戦争が起きた時にすぐ作った曲なんです。だからこの『#7』というアルバムの中ではちょっと異質というか、このアルバムをイメージして作った曲では全然ないんだけど、逆にこれを入れるとしたらこのタイミングしかないだろうな、と。

――作った時から今まで、時間が流れているのに状況が変わっていないのが辛いですよね。

上田:そうなんですよね。今、さらに複雑な感じに変わりつつありますからね。

――その後の世の中の変化というのも、当然ほかの楽曲の歌詞に反映されているはずですよね。そういう意味でどこかドキュメンタリー的でもあるように思います。そして2曲目に入っているのが「WAKE UP NOW(DROP THAT SxxT)」です。

上田:これは正直、特に深い意味があるわけではないイケイケの曲というか(笑)、「さあ、始めようぜ!」みたいな感じの曲でしかないです。その意味で言うと、これが『#7』の1曲目ともいえますね。「BLUE & YELLOW」はむしろゼロ曲目みたいな立ち位置なので。

――そこから「KURUU SONG」へと移っていきます。まず何よりこのタイトルがすごい。

上田:ほかに言葉が思い浮かばなくて(笑)。

――“crazy”とか“insane”みたいな英単語を使ってしまうとニュアンスが違ってきてしまうかもしれませんね。

上田:そうしてしまうとカッコよくなってしまうかな、と。その意味でも日本語のほうがいいんじゃないかと思いましたね。ここでの“KURUU”というのは、社会的な動きに対する危機感、今の世の中で起きている恐ろしい出来事の数々とも無関係ではないし、同時にライブにおいてサウンドに熱狂するという意味も含まれています。

――危機感に慣れて感覚が麻痺してしまうのも怖いことですよね。そして次に「FIGHT & PRIDE」がくる。この曲が出た当初は、アニメ『餓狼伝: The Way of the Lone Wolf』(Netflix)のオープニング主題歌ということで、当然のように格闘シーンを思い浮かべながら聴いていましたが、〈1センチも譲らない領土〉なんて言葉も出てきますし、格闘よりも戦争を連想してしまいます。

上田:この曲を作った時点で、そのテーマを完全に入れ込んでますね。この曲自体は『餓狼伝』のテーマではあるんだけど、それと同時に、その時に起きていたこととも反映されていて。たとえばこの歌詞には〈黒帯〉という言葉が出てきますけど、自分の中ではプーチン(ロシア大統領)をイメージして言っているし。

AA= - FIGHT & PRIDE(Official Music Video)

――格闘技に伴う表現のようでいて、〈黒帯〉が黒幕を指しているわけですね?

上田:ええ。それに、彼が柔道の黒帯を所持しているというのもあるんです。名誉黒帯みたいなことなのかもしれないけど。そういうことも含めて、アニメの物語に沿ったものでありつつ、闘うことの虚しさというのがここでの一番のテーマになってます。

――そして、そこから一転して「CLOUDED MIRROR」へ。本当にキャッチーで気持ちのいい曲ですが、やはり〈狂っている〉、〈マトモじゃねえ〉という歌詞になっている。

上田:これはTAKA(TAKAYOSHI SHIRAKAWA/Vo)が歌う部分と自分の部分、2つの物語を1つにしている感じで。最終的にこの曲で言いたいこととしては、TAKAのパートで歌われていることが一番重要だなと思ってますね。

――〈ここに音楽がある/これがサウンドだ/いつも俺たちの味方だ〉という意味合いの英詞で終わります。音楽は常に味方だ、というのは上田さん自身の考えとも一致しているんでしょうか?

上田:少なくとも自分にとってはそうだったし、これからも変わらないと思います。ずっとそれが人生の中心だったし、それが音楽の持つ役割として大きな部分でもあると思う。音楽にしか伝えられないものがある気がするので。ほかのアートとも違うし、それこそ実際にライブをやっている時に引き起こされるアクションというのも音楽ならではだと思う。それが救いになっていることが、実はたくさんあるんじゃないか、と。音楽は力のあるものだし、それによって何かができるはずだけど、そうじゃないからこそ“救い”になっている部分も確実にあると思いますね。

――確かに美術作品や映画にしても、それを通じて伝えたり、何かを考えさせたりということはできたとしても、その場で人を束ねて動かすことができるのは音楽だけかもしれませんね。“音楽にしかない力”というものがあるように思います。そして次が「FLY」です。試聴しながら各曲の印象をメモしていたんですが、僕は“束の間の躁状態”と書いていました。良くも悪くも憂さ晴らしというか、嫌なことを忘れてちょっと騒いでも許されるよ、という曲なのかなと感じました。

上田:そうですね。言葉については、この曲の持ってる世界観、音の持ってる世界観から選びました。

――つまり“飛べる曲”だな、と?

上田:うん。なんかもう、それしか出てこない感じでした(笑)。最初のシンセのフレーズを経てバンドの演奏が入ってくる瞬間から、まさに飛んでる感じがするというか。

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