L'Arc-en-Cielの根底にある“美”の正体 識者3名がモンスターバンドの魅力を語り尽くす

4人それぞれの才能と研鑽が形作るL'Arc-en-Cielの“今”

ーー演奏陣に関してはどんな進化を感じましたか?

大前:各々のソロ活動で得たものがバンドにフィードバックされている感じがします。たとえばヴォーカリストとして長くソロ活動をされているtetsuyaさんがコーラスを歌うと、まるでツイン ヴォーカルかと思えるほど音に厚みが出ます。kenさんのギターは滑らかで、ピックが弦にあたっていることも感じさせない、まるで空気と溶け合っているようなタッチでありトーンですよね。yukihiroさんもストイックで緻密なプレイの中にもエモーショナルさが宿っていますし、もちろんhydeさんの歌声の表現力の高さは言うまでもありません。L'Arc-en-Cielは職人として技術を磨いてきた4人が集まったスターチームだと思うので、バンドとしてもますます熟練してきているなと思いました。

後藤:改めて一人ひとりの音の記名性が高いと感じましたね。kenさんが一音響かせただけで「ラルクの曲が始まった!」と思いますし、もちろんyukihiroさんのスネアの音でも、tetsuyaさんの歌うようなベースも同じです。特に今回は、それぞれの音が聴き取りやすくてバランスが整っていた印象がありました。大規模なライヴを数多くやってきて、さらに近年ツアーを回った影響もあるのか、音響面でもより高みに達してきたのかなと。東京ドームは音楽ライヴに向かないと言われる中で、ただ重低音の迫力やバキバキの音圧で押すのではなく、フレーズを際立たせることでL'Arc-en-Cielの音楽ができあがっている。音の突き詰め方やこだわりを強く感じました。

東條:L'Arc-en-Cielはロックバンドなんだけど、音圧じゃなくて一人ひとりがプレイヤーとして押してくるんですよね。特に今回は、何か大きな舞台装置を作るわけでもなく、4人にスポットを当てていますよね。だからこそ、4人それぞれが花となって押し寄せてくる、という光景がすごく映えるライヴだなと思いました。

大前:全部が旋律になっている、4人のアンサンブルが素晴らしいんですよね。リズム隊と歌、じゃなくて、L'Arc-en-Cielの音楽は、4人の音が複雑に重なり合って織りなしていく美なんです。その元々あった美しさを、よりスキルの高まった4人が十全に味わわせてくれたライヴだったと思います。単純に渋くなったとか、ラフな演奏がかっこいいとかではなくて、L'Arc-en-Cielの曲の特性をより生かす空気感だったなと。

東條:ソロのフィードバックという部分でいうと、L'Arc-en-Cielとして4人で集まったときに、全員がL'Arc-en-Cielに対する愛情を持っているから、バンドのために自分の全てを尽くして実力を発揮できるんじゃないかなと思います。

ーーhydeさんのヴォーカルに関してはどうでしたか?

後藤:ずっと進化し続けていますよね。昔は繊細さが強かった印象ですが、ソロでシャウトなどの側面を鍛えたり、さまざまな歌い方を取り入れて、そのすべてがL'Arc-en-Cielでも生きていると思います。ただ、出力の仕方がソロとはやっぱり違うので、繊細な調整をされている気がしますね。東京ドームに関していえば、激しい曲から綺麗な曲まで、あれだけのセットリストを2日間歌い切ったこと自体がすごいと思います。

大前:私はすごく歌い方が丁寧になっている気がしています。一音一音というのも雑な言い方になってしまうくらい、一つの音符を4つくらいに分けて声色を変えて表現している印象を受けるんですよね。たとえば、一曲の中で1回目に出てくる“あなた”と2回目の“あなた”ではニュアンスが全く違っていて、主人公の感情の変化を想像させてくれる。その表現力は微細なテクニックに裏打ちされているので、スキルを絶え間なく磨き続けていたのだなと感じます。また、年齢を重ねても原曲のキーで歌い続けていて、曲の素晴らしさも表現し続けてくれていますよね。

 ソロとの比較で言えば、私はソロのHYDEとL'Arc-en-Cielのhydeがだんだん地続きになってきている印象を受けています。もちろんソロでしか出さないグロウルやデスヴォイスはありますが、それも全部彼のグラデーションの中で、はっきりした線引きはなくなってきているのかなと。多分曲ごとに一番いい歌い方を丁寧に研究して歌った結果なのかなと思っています。ステージでのスタイルも、昔はL'Arc-en-Ciel用の武装みたいなものがありましたが、今はもっとカジュアルですよね。L'Arc-en-Cielならではの妖艶さはもちろん出されていますが、「どっちのステージでも俺だしな」という感じなのかなと考えたりします。

後藤:確かに、昔はL'Arc-en-Cielのときはコーンロウでメイクもばっちりしていて、ソロとは方向性が違った気がしますが、最近はそれがシームレスになっている感じはありますね。

東條:ソロでグロウルを出しているときも、L'Arc-en-Cielで「あなた」を歌っているときも、とにかく丁寧ですよね。どこまで吐息を入れるのか、どこまでがなるのかといったことまで制御しているように見えます。おそらく彼の中で、勢いやテンションで歌っていた時代は終わっていて、一曲一曲をどれだけ美しく表現できるのか。ヴォーカリストとしてはその域にいるんだと思います。

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