L'Arc-en-Cielの根底にある“美”の正体 識者3名がモンスターバンドの魅力を語り尽くす
ファンとの深い信頼関係が伝わるセットリスト
ーーセットリストに関してはどう思いましたか?
後藤:hydeさんご自身が「歌いたい曲だけを歌う」とおっしゃっていたとおり、hydeさんの作りたいL'Arc-en-Cielの世界観の一つを存分に味わえたライヴでしたね。見どころは本当に山ほどあって選びきれませんが……。
大前:私は、今までの周年ライヴなら「これが一曲聴けたらラッキー」という立ち位置の、ダークで幻想的なコアな曲がたくさん入っていたことに、他のメンバーの楽曲に対する愛と信頼を感じました。
東條:私は、hydeさんが思う、今の自分が歌って、今のメンバーが演奏して、一番かっこよく見えるセットリストという視点なのかなと思いました。つまりhydeさんの“L'Arc-en-Ciel愛”です。「今、ラルクがこの曲を演奏したらめっちゃかっこいいじゃん」とか、「ダーク系の曲をやる今の俺たちも、こんなに輝いてるんだよ」っていう姿を見せたかったんじゃないかなと思います。
ーー特に印象的だった楽曲をあげるとしたら?
後藤:色々ありますが、個人的には「EVERLASTING」から「forbidden lover」の流れがすごく心に残っています。L'Arc-en-Cielは映画のような物語が思い浮かぶ曲が多いのですが、この辺りの曲では特にhydeさんが何かを演じているようなオーラが出ていて、映像や照明、衣装も含めて異次元でしたね。
大前:「いばらの涙」も本当にすごかった。元々楽曲の構成としてもすごくドラマチックで完成されているんですが、そこにメンバーの表現力とテクニックで生み出すバンドとしてのグルーヴが加わると、ここまですごい曲になるんだなと驚きましたね。ほかにも「真実と幻想と」からも彼らの幻想的な美学みたいなものが感じられましたし、そのあと「ALONE EN LA VIDA」に繋がっていくところはMCも含めてhydeさんの人生観がはっきり出ていて、この場所で伝えたいメッセージだったのかなと思いました。誕生日のお祝いではあるけど、生まれてくるということは死ぬということと表裏一体で。その旅の途中である人生の一瞬一瞬は尊くて美しくて、それを共有するライヴがどれだけ素晴らしいか。そういったことを、4人の響きで伝えてくれた気がします。
東條:私もそこをあげようと思ってました! 生きて、死んでいくという死生観を、「真実と幻想と」と「ALONE EN LA VIDA」の2曲でhydeさんは表現していると思うんです。どちらの曲にも〈私の証〉というワードが出てきて、それが生の証と死の証だと思います。終わりがちゃんと人生の中にあるんだという証。hydeさんはMCでもちょっとした引っ掛かりを作って、みんなに今を生きることをメッセージとして伝えているんですよね。そこがエモーショナルだなと思いました。誕生したことをただ単にお祝いするだけではなく、死も意識させるところが今回の誕生祭の肝だったなと思います。
後藤:序盤は完全に構築された世界観で、センターステージに移動してからの中盤以降では、hydeさんの感情や人間味がじわじわ出てくるセットリストの組み方でもあった気がします。
東條:今回もなかなかMCが来なかったですよね。大体3、4曲目で、「こんばんは、L'Arc-en-Cielです」みたいなMCを入れていたことが多かったんですが、tetsuyaさんがセットリストを組んだ『ARENA TOUR 2024 UNDERGROUND』を通して、hydeさんも「MCをこんなに入れなくても大丈夫なんだって気づいた」って言っていたんですよ。そういう意味では、『ARENA TOUR 2024 UNDERGROUND』でのtetsuyaさんの試みが今回に活きてきたんじゃないかと。だからこそ、もっと深いところへ行こうというトライで、今回の東京ドーム公演もダークな曲を続ける選択ができたんじゃないかなと思うんです。
大前:それはメンバーに対してはもちろん、お客さんに対しても信頼感があるということですよね。「東京ドームはコアファンじゃないお客さんもいるだろうから、この辺でポップな曲も入れよう」みたいな配慮はしない。強気といえば強気だし、L'Arc-en-Cielというバンドと、彼らが作り上げてきたものは、もうその域に達しているんだなと思いました。
東條:これはファンの成長がないとできない選択ですよね。
後藤:SNSでの反響などを見ていると、これを待っていたファンもたくさんいたんだなと思いました。
大前:濃い2日間でしたね。とはいえ、最後に「あなた」を持ってくるのも優しさを感じますし、幅広いファンの皆さんに対しても届けたいというのは出ていたかもしれません。「HONEY」もロックバンドという感じがしてかっこよかったですよね。代表曲として歌番組でいつも歌っていた感じではなくて、本当に今のL'Arc-en-Cielがやるとこうなんだという。この曲も育ってきて、コアファンも楽しめる曲になっていたと思います。