インドネシアで愛される“Chika Idol”の存在 チェキ、コール、対バン……日本のアイドル文化の輸入と独自の事情も
インドネシアのアイドルシーンは、日本と共通した部分もありながら、異なる国民性も反映されているように感じる。一番顕著なのは、“コール”だろう。日本では曲に合わせてメンバーの名前や特定の文言をファンが叫んだりしているが、そのような文化はインドネシアにもあるようだ。
「指原莉乃プロデュースの=LOVEの楽曲もよくカバーされているのですが、『手遅れCaution』のカバーを見ることが多い気がします。ややゆったりしたテンポでダークな雰囲気の曲ですが、かなり激しくコールをするんですよね。日本でコールが激しい曲といえば明るくてアップテンポな曲が多いと思うので、あのテンションはインドネシアならではだと思います。それに、日本と比べて客席で歌う人もかなり多いですし、独特のグルーヴがあるんですよ。以前は日本にもいましたけど、しゃがむような低い姿勢で床に向かって叫んでいたり」(清水さん)
たしかに、実際に撮影された動画を見せてもらうと、2010年代前半のライブハウスを彷彿とさせるようなものになっていた。
「アーティストと一緒に歌いたい」という観客の気持ちはインドネシアのアイドルシーンに限った話ではない。清水さんによると、Green DayやLINKIN PARKがインドネシアでライブをやっていた時も、客席で歌うファンが多かったようだ。LDHに所属するボーイズグループ PSYCHIC FEVERも2024年にタイとマレーシアを含むアジアツアーを行った際、海外の観客について「ずっと僕らと一緒に歌ったり、踊ったりとかその空間を共有している感じがありました」(※1)と語っていた。インドネシアに限らず、東南アジアではどのジャンルの音楽でも「ライブは歌うもの」という意識がある人が少なくなさそうだ。清水さんも「宗教的にお酒を飲める人が多くないので、みんなでお茶を飲んでいるバーのようなところに歌手の人が歌いに来て、それをみんなで一緒になって歌う、というような光景も見ます」と、“歌うこと”への親和性について語る。
しかし、清水さんが日本とインドネシアの両方でアイドル文化を経験したことを踏まえると、「みんなで集まって声を出すことの楽しさは、思っているよりももっと原始的な楽しさで、国や文化に関係なく通じる気持ち良さなのではないか」と分析しているのだという。たしかに、日本のアイドルのコールには「その場を盛り上げたい」「ステージ上のアイドルを応援したい」という気持ちもあるだろうが、「みんなで同じ声を出すこと自体が楽しい」という思いも少なからずあるように感じる。音楽を楽しむ上で、「一緒になって楽しみたい」と思うことに国や文化は関係ないかもしれない。
まだ少ないが、インドネシアで公演を行う日本のアイドルグループもいる。清水さんは「2024年に解散した真っ白なキャンバスや今年2月に解散したPLANCK STARSを知ってる人も多いと思います。その理由を実際に聞いてみると、インドネシア公演をしたことがあるから、それで見て好きになったという人が多い印象です」と話す。日本のアイドルグループは、一部の人気グループを除くと、日本国内のツアーにおいてもなかなか地方を日程には組み込めないグループが多いが、海外公演となるとさらにハードルが上がり、なかなか公演の機会に恵まれないのも事実だろう。それでも海を越えた先に彼女たちを求める声は確かに存在するのだ。
アイドルは楽曲やアートワークといった“作品”としての部分を楽しむこともできるが、そのなかでもライブを主戦場にするアイドルグループは“文化”を楽しむ側面もあるだろう。仲間と週末に集まって、アイドルの楽曲に合わせて一緒に歌ったり、公演後には特典会でメンバーと会話をしたり、そういった“文化”の側面はなかなかインターネット上で共有されず、海外に進出することが難しそうだと従来は考えられていた。しかし、現地でローカライズされ、その国の文化や国民性に合わせて変化しながらも文化が根付いているのだ。東南アジア諸国を訪れることがあったら、その国のアイドルカルチャーを覗いてみるとまた違った楽しさがあるかもしれない。
※1:https://realsound.jp/2024/11/post-1830309.html