“大丈夫”と言い聞かせたあの日に──JUJUが『The Water』でそっと寄り添う、あなたの人生への肯定

JUJUが肯定するあなたの人生

 なぜだろう。JUJUのニューアルバム『The Water』を聴いていると、ぽかぽかする。せせらぎとともにポエトリーリーディングで始まる「The Water - Prelude」は、まるで独白するようでいて、さりげなく決意表明をするような芯の強さを感じさせ、そのメッセージは心の奥にスーッと溶け込んでゆく。

 昨年メジャーデビュー20周年を迎えたJUJUの8枚目となるオリジナルアルバム『The Water』は、2004年のメジャーデビュー以降、ジャンルや世代を超えて歌を丁寧に届けてきたJUJUだからこその表現力で聴かせる15のストーリーを収録。1曲目「The Water - Prelude」について彼女は、セルフライナーノーツでこう綴っている。

アルバムのタイトル『The Water』をテーマに詞先で作った曲で、
ポエトリーの部分には〈大丈夫と言い聞かせたあの日に 大丈夫だと伝えたい〉というフレーズがあります。
この部分が、前作『I』のラストナンバーでタイトル曲「I」の〈ひとりで大丈夫 私は強いから〉と自分に言い聞かせていた“私”の“その後”のように聞こえたんですね。
だから、この曲をオープニングナンバーにすることはすごく意味があると感じたんです。
お伝えしたいことがぎゅっと詰まっているので、アルバムの導入部分として、
必ず飛ばさずに聴いていただきたいです。
(JUJUアルバム『The Water』特設サイトより/※1)

 ポエトリー部分と英詞で歌うサビで構成された同曲のみ、アルバムのブックレットに歌詞の記載はないのだが、JUJUが伝えるメッセージはしっかりと耳に残る。これまでにカバーアルバムやジャズアルバムのシリーズを発表し、2007年から毎年全国規模のツアーを行い、昨年は東京ドーム公演や全国アリーナツアーも大盛況だったJUJU。常にその歌声を耳にしていた感覚がある中、意外にもオリジナル盤は7年前の『I』まで遡る。

 JUJUがライナーノーツで述べているように、〈ひとりで大丈夫〉と言っていた主人公に、7年経って今回、その選択が間違いではなかったことを提示。「The Water - Prelude」に込められた想いは、〈人生のグラスに水は揺れている/それをしあわせとただ呼べばいいだけ〉と歌われるアルバムのラストナンバー「The Water」と共鳴し、対になっていることがわかる。

 1曲目、2曲目、3曲目……と収録された15の物語を聴き進めていくと、ひとりの女性が時に恋に落ち、時に悩み、そして力強く人生を歩み、自分自身を肯定していく姿が窺える。今作はタイトル通り“水”がキーとなるアルバムだが、誰もが生を享ける前、母親のおなかの中で赤ちゃんの時から羊水に守られているし、出産して7年も経てばもう小学生だ。社会人1年目の新人も、7年経てば中堅。さらに7年後にはベテランになっていたり、転職していたり、結婚していたり。いろいろな刺激を受けてぐんぐん吸収していく成長期を過ぎると、壁にぶつかることや立ち止まること、自分の力だけではどうにもならない出来事も経験するようになっていく。

 年を重ねるごとに、なんでも人生が思い通りに進むことはない、と悟るわけだが、大人になっても迷う時期だってもちろんあるはずだ。筆者は6年前にフリーのライター・編集者・エッセイストとして独立するまで、出版社で主に雑誌編集者として働いていたが、コミュニケーション能力が大事とされる編集の仕事において、もとが人見知りのためとにかく団体行動が苦手で苦労することがあった。だから独りでいることが楽だった一方、寂しい時もあった。しかし、無理に大勢に溶け込もうとしても、周りに人はいるのに心は孤独、という状態になったこともあった。

 さらに会社員だとやりたい仕事だけができるわけではなく、気の合う人とだけ仕事していいわけでもないため、しんどい時もあった。それでもこの仕事をやってこられたのは、青春時代から今まで、生きる力をくれる音楽やドラマや映画といったエンターテインメントが、ただただ“好き”だから。その魅力を世の中に伝えたいからだ。プライベートでは婚活をして、約4年間で1,000人の男性と会うまで結婚できなかったというモテなさっぷりだった。仕事でも恋愛でも、自分の存在が誰にも必要とされていないと感じるのは、ツラいことだ。ただ、うまくいかなくて落ち込むことばかりでも、生きていると、ほんの時々、いいことだって起こる。

 だからなのか、いいことも悪いことも、大人のままならなさを歌うJUJUの歌が心に染みるのかもしれない。最新作『The Water』は歌唱の表情が豊かで、心のひだに触れてくる彼女の歌声と多彩な楽曲が心地いい。さまざまな主人公が登場する同作だが、現実でも、いろいろな人たちが自分の人生をデザインしながら、生きている。なんでも思い通りにいく人生を送ることができれば楽しいだろうが、平坦すぎる道やすぐ手に入るものは有り難みが感じづらい。とはいえ、困難がある道を行くのは大変だから、どうにもならないことに悩んだり抗ったりするよりも、なんとなくでも変化に寄り添っていけたら、少しずつ前に進んでいけるのではないか。

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