映秀。×カツセマサヒコ、音楽と文学で紡ぐ誰かを救う言葉 「僕らが見ていた景色はほとんど同じだった」

「お互いにとって実験的な試みだった」(映秀。)

ーー今作のライナーノーツで、映秀。さんは自身の「アファンタジア」について触れられていました。それが今、歌詞や曲作りに影響している部分もあるのでしょうか?

映秀。:アファンタジアは、心的な視覚イメージを思い浮かべられない特性のことです。僕の場合、家族の顔や風景を頭の中でイメージすることができません。でも、「できない」で終わらせたくなくて、聴く人に景色や温度感を感じてもらえる歌詞を書きたいと思っています。

カツセ:映秀。さんのアファンタジアという特性は、僕には想像もつかないものです。でも、それが彼の作る歌詞の世界観そのものなんだと気づきましたね。この特性を無理に補ったり隠したりするのではなく、むしろ強みとして活かそう。具体的な描写を加えるときも、映秀。さんの感覚を損なわないよう慎重に進めました。

映秀。:カツセさんとのコラボを通じて、僕の視点が変わった部分もあります。これまでは何気ない街並みを見ても特に意識しなかったんですが、最近は「あれ? この前ここにあった建物は何だったっけ?」みたいに、ふと気づくことが増えました。空をよく見たり、街の変化に敏感になったり、これまで見えていなかった現実が目に入るようになったんです。

カツセ:映秀。さん、夢の中に住んでるんじゃない?(笑)

映秀。:そうかもしれない(笑)。これまでは抽象的なことばかり考えていたけど、現実のディテールを見るようになりました。視点が広がった感覚です。

ーー二人のやり取りは、ある意味セッションのようでもありますね。

映秀。:本当にそうですね。「ちょっと試してみようか」くらいの軽いノリで進められたのが良かったと思います。肩肘張らずやれたからこそ、自然な形で作品が生まれたんじゃないかなと。もし最初から構えすぎていたら、逆に行き詰まっていたかもしれない。

カツセ:確かに。お互いにアイデアを出し合う中で、「そうくるか!」みたいな意外性が常にあって。こちらが出した提案が全然違う形で返ってきたり、その逆もあったりで、どんどん新しい方向に広がっていったのですが、我々のような関係性を築けていなかったら、ちょっと険悪な雰囲気になっていたかもしれない(笑)。最初は軽いキャッチボールをしている感じだったのが、だんだん本気で投げ合うピッチングセッションみたいになりましたね。

映秀。:「瞳に吸い込まれて」の制作なんて、まさにそんな感じでした。最初は何度も修正を繰り返していて、正直、方向性を探るのに時間がかかったんですけど、後半は3周くらいしてようやくスムーズに進むようになりました。

 今回の制作は、お互いにとって実験的な試みだったと思います。僕はこれまで感覚重視でふわっとしたスタイルでやってきたんですが、カツセさんはリアルをすごく大事にする方。その違いがうまく交わって、新しい形が生まれた気がします。それが今回の制作全体のテンポ感にもつながっていたんじゃないかなと思いますね。

ーーところで、今作のタイトルが『音の雨、言葉は傘、今から君と会う。』ですよね。一方、カツセさんの1月に出る新刊のタイトルが『傷と雨傘』。……これって偶然なんでしょうか?

映秀。:それはもう……人生を通してリンクしちゃっているんでしょうね(笑)。

カツセ:なに気持ちよくなってんのよ(笑)。

映秀。:あはは。でもアルバムのタイトルには、ちゃんとした意味があるんです。『音の雨、言葉は傘、今から君と会う。』というタイトルは、僕自身、今の時代をすごく雑音が多い時代だと感じているからこそ付けました。言わなくてもいいことや聞こえなくてもいいことが、毎日どんどん耳に入ってくるような中、言葉が唯一の傘になってくれる感覚があったんです。

 たとえば、「きっと君なら大丈夫だよ」みたいな言葉。そこに特別な根拠はなくても、その言葉が僕を守ってくれる気がして。だから、このアルバムの中に詰めた言葉や音楽が、聴いてくれる人の傘になれば嬉しいなと。

カツセ:それ、僕の新刊のタイトルの由来とほとんど一緒ですね。

映秀。:本当ですか?

カツセ:僕の本は2年くらい前から雑誌で連載していたものを一冊にまとめたものなんですけど、特に2024年は全国を回ってサイン会や書店イベントをやっていて、読者と直接話す機会が多かったんです。その中で、「この本に救われました」と涙を流しながら話してくれる方もいて。その時に、「誰に向けて投げたか分からない言葉であっても、雨傘のように誰かを守ることもあるのだな」と実感したんです。それで『傷と雨傘』をタイトルにしようと。

 音楽で人を守ろうとするのか、小説やストーリーで守ろうとするのか、アプローチの違いはあっても、僕らが見ていた景色はほとんど同じだったんじゃないかと思います。

映秀。:確かにそうかもしれませんね。

カツセ:今って、人類史の中で最も言葉が頻繁に使われている時代だと思うんですけど、本来、社会を良くするために生まれたはずの言葉が、今では人を傷つけるために使われてしまうこともある。その一方で、救えるのも言葉でしかない時もあって。だからこそ言葉が持つ可能性を信じたいし、そういう意味でも僕たちが「作り手」として感じていたものは、すごく近かったんじゃないかなと思います。

ーー今後また一緒に何かやるとしたら、どんなことを考えていますか?

映秀。:僕はもう勝手に構想を練っているんですけど(笑)、またカツセさんと共作で、一つのEPを作りたいなと思っています。ちゃんとコンセプトを作って、初めから最後まで一貫性があって、一つのストーリーになるようなものを目指したいです。

 それぞれの曲が独立して聴けるのに、全体を通して聴いても一つの物語が完結するような、そんな作品にしたい。媒体として小説にするわけではなく、音楽だけでそのストーリーが伝わるものを作れたら最高だなと思っています。

カツセ:めちゃくちゃ聴いてみたいし、面白そうだなって思うけど、作る過程を考えると大変そうで、ちょっと怖いなあ……(笑)。僕は今回、初めて作詞をやらせてもらって、すごく楽しかった反面、自分の未熟さを感じる場面も多かったですね。だからこそ、得られた手応えもある。「もっとこうできるはず」と思ったからこそ、次はさらに良いものが作れそうだな、という野心も芽生えました。それが今回のコラボレーションで一番の収穫だったと思いますね。

映秀。『音の雨、言葉は傘、今から君と会う。』

■リリース情報
3rd Album『音の雨、言葉は傘、今から君と会う。』
2025年01月22日(水) UMCK-1789 3,300円
配信:https://eisyu.lnk.to/Therainofsound

【収録曲】
01. まほうのことば
02. 涙のキセキ (12/04 先行配信)
03. 瞳に吸い込まれて
04. ほどほどにぎゅっとして (11/06 先行配信)
05. 黄色の信号
06. Boys&Girls
07. 幸せの果てに
08. 星の国から
09. 全部しようぜ
10. My Friend
11. 縁
12. よるおきてあさねむる
13. youme

■ライブ情報
映秀。CLUB QUATTRO TOUR "音の雨、言葉は傘、今から君と会う。"
2/21(金) 名古屋 CLUB QUATTRO
2/22(土) 梅田 CLUB QUATTRO
3/01(土) 渋谷 CLUB QUATTRO
<チケット> オールスタンディング 5,500円 (税込・別途ドリンク代あり)
受付・詳細はこちら https://eisyu0317.com/news/detail/512

特設サイト:https://sp.universal-music.co.jp/eisyu/otonoame/

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