岸谷五朗&寺脇康文が語る『Act Against Anything』の意義 深い絆の根源も「価値観が同じなんだと思う」

岸谷五朗&寺脇康文が語る『AAA』の意義

 岸谷五朗の呼びかけで、1993年から2018年まで開催していたエイズ啓発ライブイベント「Act Against AIDS』の意思を受け継ぎ、2020年からスタートした『Act Against Anything』(以下、『AAA』)。そのVOL.3が12月1日に日本武道館にて開催される。

 今回リアルサウンドでは、岸谷と、40年の絆を築いてきた寺脇康文の対談をお届け。初回の開催から遡りながら、そして40年のふたりの道のりのなかにおいて『AAA』とはどのような存在であったのか、楽しく語り合ってもらった。(編集部)

『AAA』は“知るワクチン”としての活動

岸谷五朗

――岸谷さんと寺脇さんは、SET(劇団スーパー・エキセントリック・シアター)時代から数えると相当長いお付き合いですよね。

寺脇康文(以下、寺脇):そうですね。五朗ちゃん(岸谷)が20歳、僕が22歳の時に出会っているから……40年ですね。

岸谷五朗(以下、岸谷):ちょうど40年だね。でも、そんなに長くいる感じはしないよね。このあいだ知り合ったぐらいの感覚ですよ。

――このあいだ(笑)。

寺脇:うまくいっている間柄というのは、そういうものなんでしょうね(笑)。『AAA』も今回で29回目だけど、全然そんなふうに思えないし。

岸谷:だからこそ、いつまで経っても新鮮な気持ちでいられるんじゃないですかね。

寺脇:やっぱり、僕にとって五朗ちゃんは必要な人なんです。彼がいなかったら地球ゴージャスもなかっただろうし、半身浴もしてなかっただろうなと思うし……いろいろなことを修正してもらってます(笑)。まったくタイプの違う人間だから、それもいいのかもしれないですね。僕にないものを五朗ちゃんはいっぱい持っていて、逆に彼にないものを僕が持っていたり。でも、根底にある「これはいい」「これは悪い」という価値観が同じなんだと思うんです。考え方は違うけれど、感じ方が一緒。だから飽きないんでしょうね。

岸谷:そうそう。1週間くらい飲まないでいると「最近飲んでないな……」って。そうなるとすぐ電話して「(甘えた声で)ねえ、いつヒマなの〜?」って(笑)。

――付き合いたてのカップルみたいですね(笑)。

寺脇:いまだに8時間くらい飲む日もありますからね。それも、ずーっとふたりでしゃべってるんですよ(笑)。よくそんなに話すことがあるなあと我ながら思うけど。

岸谷:以前、新幹線で大阪へ移動する時に我々の乗った車両がガラガラだったんですよ。でも、僕と寺ちゃん(寺脇)がふたりで隣同士に座るもんだから、一緒にいた風間俊介くんに「こんなに空いてるのに、おふたりはどうして隣に座ってるんですか?」と言われたことがあります(笑)。新大阪までの2時間半、ひたすら飲み続けて、喋り続けて。

寺脇:クーラーボックスを持って、ビールからワインまで詰め込んで乗りますから。

岸谷:寺ちゃん、優しいんですよ。チーズ剥いてくれて「はい!」って渡してくれたり。

寺脇:そんなことしたっけ?

岸谷:渡してくれたじゃん!

――すごいですね(笑)。家族でもそこまでの関係性はなかなか珍しい気がします。

岸谷:逆に、もし家族だったら「寝かしてくれよ」って離れた席に座るかもしれない(笑)。

寺脇:五朗ちゃん相手だと、「こうしたら悪く思うかな?」という心配が一切いらないし、自分の悪いところも安心してさらけ出せる。だからずっと一緒にいられるんでしょうね。

寺脇康文(撮影=三橋優美子)
寺脇康文

――おふたりが旗振り役を務めるチャリティプロジェクト『Act Against Anything』が、12月1日に日本武道館で開催されます。あらためて、発足の経緯から教えてください。

岸谷:もともとは『Act Against AIDS「THE VARIETY」』として1993年に始まったものです。きっかけは、当時僕がやっていたラジオ番組に届いた、HIVポジティブの14歳の女の子からの一通の手紙でした。その手紙は、「病気が怖いんじゃなくて、それを告白した時の差別が怖い」という、とても切ない内容だったんです。その差別をなくすためには、まずエイズがどういうものかを知ることが不可欠だった。そのうえで“知るワクチン”としての活動を始めたのが発端でした。

寺脇:当時、五朗ちゃんからそのラジオの話や「チャリティをやりたいんだ」という話を全部聞いていて。一も二もなく「僕も参加させてよ」と言ったのを覚えていますね。

岸谷:最初は大学の先生を呼んだり、エイズの啓発活動をしていたDJのパトリック・ボンマリートさんなどを招いて、すごく真面目なシンポジウムを開いたんです。ただ、そこにいちばん伝えたいターゲットである若者たちには、あまりきてもらえなかった。つまり、このやり方では届けるべき相手に届かないんだということがわかったんです。そこで作戦を変更して、エンターテインメントの力で人を集めて、ショーを楽しむなかで大事なことに気づいてもらおうと考えました。

寺脇:五朗ちゃんが、それはもうすごいメンバーを集めてきたわけですよ。桑田佳祐さん、原由子さん、泉谷しげるさん、TM NETWORK、CHABO(仲井戸麗市)さん、三上博史くん……今回も出ていただくサンプラザ中野くん(当時は爆風スランプとして出演)もそうですし。大きな規模でしたよね。その大きなイベントを仕切っている五朗ちゃんは、本当にすごいなと思った記憶があります。

岸谷五朗(撮影=三橋優美子)

岸谷:代々木第一体育館にしても日本武道館にしても、本来であれば我々演劇人が普通に立てる小屋ではないんですよ。いろいろなアーティストさんたちの力を借りることで初めて実現することです。チャリティとしてある程度の金額を寄付したいと思ったら、やっぱり大きな小屋で大々的にやる必要があるんです。そのことが明確になって以来、日本武道館という場所が『AAA』の拠点になりました。

――そして2020年、エイズに限定せず世界中のあらゆる困難に立ち向かう子供たちへの支援を目的として『Act Against Anything』に名称を変え、新たにスタートを切りました。ただ、初年度はコロナの影響で無観客開催を余儀なくされ、2022年にパシフィコ横浜で行われた『VOL.2』は有観客ではありつつも声出し制限があったんですよね。今回の『VOL.3』でようやくフルバージョンと言いますか、制限なしの有観客開催ができる運びとなりました。

岸谷:地球ゴージャスの公演も、今年ようやくフルでできたんです。「あ、これだな」「戻ってきたな」と感じました。おそらく武道館でもそれを感じることができるのだろうなと思いますし、もしかしたら「戻ってきた」という感覚以上のものにもなり得るとも思うんですよ。コロナ禍を経てネット配信というものが急激に発達して、生活のなかに普通にあるものとして定着しましたよね。武道館に集まってくれるお客さんに加えて、配信で観てくれるお客さんも増えれば、過去いちばん大きな寄付に繋がるかもしれない。

寺脇:いろいろな事情で当日どうしても武道館へこられない人もいるでしょうし。地方の方も配信で観ていただけますし。やっぱり、ひとりでも多くの人に来てもらいたいし、観てもらいたいですから。寄付をしても足りるなんてことはないんですけど、できる限りのことはしたいです。

――やらなきゃゼロなわけですしね。

寺脇:そうなんですよ。全然足りはしないだろうけど、だからって何もしないわけにはいかない。そういう思いでやっています。

寺脇康文(撮影=三橋優美子)

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