Cö shu Nie「自分を受け入れて戦う覚悟を決める」 ロックの血肉から生まれた“愛のアルバム”を語る

 やり場のない孤独や処理し切れない感情を、鮮やかな旋律と構築度の高いアンサンブルで美しく昇華してきたCö shu Nieが、“自己愛”をコンセプトに掲げたニューアルバム『7 Deadly Guilt』をリリースした。

 直後の東阪Zeppツアー『Cö shu Nie Album Release Tour 2024 “Wage of Guilt”』を観ても思ったが、ギターリフの響きやベースの歪みがより一層顕著になった鋭い演奏、楽曲の“キャラクター”を象徴するコーラスやビートの細やかな仕掛け、そして内に秘めた感情をありのまま爆発させるストレートな歌詞……など、エネルギーが剥き出しになって心の奥まで響くアルバムとなっている。情報量の多い現代を生きる中で抱いた“生の根源に対する実感”や、音楽的なリファレンスの広がり(かつ原点回帰)が、Cö shu Nieの核心をますます強固にしてみせたアルバムとも言えるだろう。

 なぜ“自己愛”とここまで徹底的に向き合い、それが過去最もライブ映えする作品に結実していったのか。11月に新たな海外公演を控え、充実の季節を迎えているCö shu Nieの2人にじっくり話を聞いた。(信太卓実)

ロックの歴史を掘り起こして得た新しい刺激

ーーアルバムがリリースされてすぐ東阪Zeppツアー開催となったわけですが、ライブでも披露してみて、改めて『7 Deadly Guilt』はどんな作品だと感じましたか。

中村未来(以下、中村):演奏していてもそうだし、自分の吐露したことがまっすぐ素直に伝わるアルバムになった感じがしますね。歌詞も過去のことを書いているというより、今の自分が真っ只中にいる感じで書けたので、ダイレクトな作品になったのかなと思います。

松本駿介(以下、松本):先行曲として3曲(「no future」「Burn The Fire」「Artificial Vampire」)出して、全部違うテクニックが要求されたんですよね。アルバムのレコーディングでも振れ幅すごいなと思ってたんですけど、ワンマンでやってみたら、やっぱり同じグループに属している曲だなという感じがして。ライブで弾いていても音色やジャンルは違うのに、1曲1曲の繋がりや親和性が強いなと感じました。

Cö shu Nie – no future(official video)

ーーもう少し噛み砕くと、どのような意味で“近い”と感じたのでしょうか?

松本:(アンサンブルの中で)ベースの位置が低くなったのもありますけど、かんとく(中村のこと)がずっと自己愛がテーマだと言っていたので、どの曲もそこに向かってるから表現する目線が近いんだなと思いました。

中村:いろんなジャンルから影響を受けて、いろんなプレイスタイルや機材を使って録ったんですけど、やっぱり自分の武器となるものーーしゅんす(松本)だったらサドウスキー、私だったらストラト(キャスター)でステージに立っていて、音楽として一丸となって飛んでいく、大きい塊になっているような感覚でした。今回はかなりシンプルなアレンジも好んでやるようになって、場面によって差がつくことでリスナーの気持ちを揺さぶれているような感じがします。

中村未来

ーーわかります。アルバムのコンセプトがそうさせている部分もあると思いますけど、2人の演奏がますます“Cö shu Nieの音”に直結しているというか、2人で鳴らす音になるべく脚色したくない感覚ってあるんでしょうか。

中村:無意識だったかもしれないけど、あると思いますね。(松本には)ベースヒーローであってほしい想いがあるし、私がプレイヤーとしてやりたい部分もあるから、ライブで曲を届けると考えた時に、やっぱり削ぎ落とされていきますよね。メッセージを伝えたいから削ぎ落とした部分もあるし。ポップスとしての側面との兼ね合いもあったんですけど、やっぱり私たちはロックバンドだし、今回かなりロックの曲を書かせてもらったんですけど、そこは自分が素直になれたところかなと思います。アレンジにおいても内容においても。

ーー確かにシンプルなアレンジで、ロックな爆発感を伴う曲が多い印象です。

中村:(制作期間中は)昔のロックを結構聴いたんですよね。レイジ(Rage Against the Machine)、KoЯn、System Of A Down、The Mars Voltaなどなど……私たちを奮い立たせてくれたロックミュージックを改めてもう1回掘り返してみようと。Cö shu Nieの今とロックの歴史を眺めてみて、自分がやっていきたい音楽ジャンルと「焼き増しでなく自分たちのオリジナルを生み出したい」という欲求が合わさって進化している感じがしますね。

 私はもともと音楽の歴史にあまり詳しくなくて、そこをしっかり見るようになってから意識が変わったんです。自分たちは歴史の1点であり、現在や過去から何を受け取って、今生きていることをどう落とし込みながら何を作っていけるのか……みたいなことを考えて作っていて。そのためには知ることが重要だなと思うんですよね。こういう思いに至ったのは今回のアルバムよりだいぶ前の話なんですけど、さらにいろんな音楽を聴いて学んだり踊ったりするようになりました。

ーー歴史を知ることが重要だと気づいたきっかけは何だったんでしょう?

中村:素晴らしい音楽が溢れ返る今の世界では、何をしても何かに例えられる中、体験したことがない感覚を味わいたいし味わわせたいという好奇心と、私たちにしか鳴らせない音楽があるはずだという想いに突き動かされて、それまで以上にさらに様々なジャンルの音楽を聴くようにもなったし、心から好きな音楽も増えました。違う時代で自分と近い感性を持ったアーティストも存在したと思うので、自分が身を置く音楽世界にリスペクトを持って、その上で新しい価値を提示したいと思うからです。

「繊細と言われ続けてきたから、大味な部分も見せたい」

ーーなるほど。松本さんは今作への影響源と言われると、いかがでしょう?

松本:かんとくのイメージをより自分なりに具現化させていく感じだったから、「このアーティスト」っていう影響はなかったかな。でも、1曲1曲に対してこういう音を出したいというイメージは今まで以上にあったので、歪み成分とか、バランスとか、エフェクトとかを意識して、ベースもいろいろ試して弾いてみました。触ったことないSGを借りて弾いたりしたんですけど、やっぱり四弦でショートスケールって結構限定されていて、自分なりのフレージングとかプレースタイル的に難しいなと思って、最終的にフェンダーとサドウスキーになりました。

松本駿介

ーー「Deal With the Monster」の歪み感ってギター以上にベースが担っている感じがするし、「Where I Belong」でも荒れ狂うようなベースのスラップが曲の感情を表現している感じがして。そこはどうですか。

松本:全体的にベースの位置が低いのと、細かすぎて聴こえない部分を少なくしてシンプルにしようってことで、レコーディングでかんとくから指示をもらって。癖で音を増やしたくなるんですけど、8分(音符)で弾こうと思ってたところを、「そこは4分の方がいいと思う」って言われて、「え、それはどうなんだろう」と思いながら4分で弾いたらすごくハマったりして、「本当だ」みたいな(笑)。そうやってシンプルに削ぎ落として、1音1音を大切に弾くところが強くなったから、“低い位置+ α”の働きができたのかなと思いましたね。

Cö shu Nie 「Where I Belong」 Lyric Video

中村:(松本のプレイは)キャラクターが強いので、Cö shu Nieにとって絶対になくてはならないところだから、そこをどう表現しつつベース本来の役割を担うのか? みたいなところはいつも一緒に考えてるよね。

松本:いつもより少し低めでブライトな音が出るアンプを選んでやったので、「歪み感的には似ているけど、ちょっと違う」みたいな位置取りができて、いろんなところを支えられたのかなと思いますね。ベースの仕事をちゃんとベースがしている感じはありました。

ーーさっきRage Against the Machineの名前も出ましたけど、中村さんは今回のアルバムに還元されたと思う影響源はありますか?

中村:レイジは「Burn The Fire」を作っていた頃に聴いてたんですけど、「Labyrinth」とかだと、やっぱり私はビョークやジェイムス・ブレイクが好きで、エレクトロニカが好きだなと改めて思いましたね。もっといろいろあるんですけど……。

松本:Metallicaじゃなくて?

中村:ああ、確かに「Burn The Fire」の時に聴いてたね。

松本:バンドとしてのスケールの大きさ、みたいな感じでね。

中村:KoЯnも聴いたし、MVもかっこよくて好き。

Cö shu Nie - Burn The Fire(Official Video)

ーーMetallicaは1980年代が黄金期のバンドではありつつ、90年代以降はゴロッとした塊感のあるアンサンブルに変わっていて、KoЯnとかレイジあたりのニューメタル勢に接近した時期もありましたけど、そういったアンサンブルに近い感じは今作にありますね。

中村:そうなんです。音は全然違いますけど、そのあたりのギターサウンドのゴロッとした感じがあるんですよ。今回って、みんなが弾きたくなる曲に挑戦したかったんですよね。だからわかりやすいギター/ベースリフが入っていて。

松本:ギターリフが頭に残る曲が多いよね。

中村:ベースとのユニゾンだったりするので、ベースとギターが合わさってちゃんと音域が埋まるような感じに作りたくて。それでギターもバランスを取って構築しました。

松本:だから他の楽曲よりも、ベースにより歪みを譲ってもらった部分もあると思うな。

中村:ベースがギラっと歪んでる音色がすごく好きで。「Deal With the Monster」もそうだし。

ーー弾きたくなるリフを目指したのは何か理由があったんですか。

中村:運指がかなり複雑で「難しくて弾きづらい」とよく言われてきたので。それは私がピアノから音楽に入っていて、メロディ先行で考えているからなんですけど。みんなペンタ(トニックスケール)でかっこいいリフを考えるじゃないですか。でも、ピアノでかっこいいリフとギターでかっこいいリフは全然違うし、(ギターリフは)結構やり尽くされているし……と思ってたけど、やっぱりシンプルで憧れますよね。それこそメタルとかハードコアのかっこいいバンドって地元にすごく多くて、私がデスボイスみたいな声を出せたら、絶対やりたかったなと思ってたくらい、血肉にはなっているんですよね。繊細やと言われ続けてきたから、大味な部分も見せたいなと思って、憧れていたようなリフを作ってみました。

ーー疎外感や孤独感を答えもなく吐き出していくような曲が多いので、塊的なリフとの相性もいいですよね。そこも意識的だったのでしょうか。

中村:考えていました。メッセージに対して自然とジャンルが選ばれていったような。「消えちゃう前に」もそうですし、「Artificial Vampire」もテーマ的な意味合いで、ダンスミュージックでキャッチーじゃないといけないなと思って。七つの大罪をモチーフにしたアルバムで、「Artificial Vampire」はその中の“暴食”だったんですけど、与えられた情報を食らってお腹いっぱいになっちゃって、自分で考える力もなくなっていつの間にか乗っ取られてしまうみたいな物語なので、キャッチーでジャンクな音じゃないといけないなってことで、ファンクでディスコな感じにしました。「Where I Belong」は心の叫びというか、群衆の中で感じる孤独がテーマだったので、やっぱりロックで叫びたいなと。映画音楽のように、表現したい場面に合わせて音が鳴るイメージです。

Cö shu Nie - Artificial Vampire (Official Video)

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