藤井 風は今、“過渡期”の中にいる NHK特番で明かされた次作アルバムへの葛藤と覚悟を読み解く

 藤井 風を特集した番組『藤井 風 ~登れ、世界へ~』(NHK総合)が10月31日夜に放送された。2020年のデビュー以来、急速に音楽シーンを駆け上がってきた藤井 風。同番組は、日本のみならず海外でも話題となった『tiny desk concerts』出演時の映像をはじめ、8月に日産スタジアムにて開催したスタジアムライブ『Fujii Kaze Stadium Live “Feelin' Good”』の密着映像から、ロサンゼルスの制作現場を捉えた映像まで、2024年の彼の活動を余すことなく捉えている。

 なかでも我々にとってサプライズだったのは、全曲英語詞によるオリジナルアルバムを制作中だということだ。5月に自身初の北米ツアー『Fujii Kaze and the piano U.S. Tour』を行い、その後にアメリカの大手レコード会社のリパブリック・レコードとの契約を発表するなど、海外進出を本格化させている現在の藤井だが、これまで洋楽カバーはリリースされていたものの、全編英語詞によるまとまったオリジナル作品はなかった。日本のアーティストによる海外進出というと宇多田ヒカルのUtada名義による2000年代前半の諸作が真っ先に思い浮かぶが、当時とは時代も状況も異なる上に、元々ニューヨークで生まれた彼女とはその意味合いも変わってくる。アルバムはまだ制作中だというが、色々な意味で新たな挑戦に踏み出した次作への期待は高まるばかりだ。

 着実に世界へと広がりを見せている藤井の今をキャッチしたこの番組。その中で印象的だったことの一つは、藤井 風のルーツや音楽性をあらためて一から辿ることにしっかりと時間を割いていた点である。幼い頃から洋楽に親しみ、特にマイケル・ジャクソンには深い感銘を受けたということ、現在進めている制作ではそのマイケルに並び立つ覚悟を持っているということが本人の言葉によって語られ、「自分が今まで聴いてきたような英語の曲たちに劣るようではダメ」と一切の妥協を許さない姿勢を見せる。作曲する上ではまず最初にピアノを弾き、そこからメロディを紡ぎ出していく。彼はその制作スタイルについて「メロディに呼ばれる言葉を探す」と以前から話していたが、今一度それがどういうプロセスなのかを映像とともに明らかにしていた。

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