竹内まりや、傑作アルバム『Precious Days』全曲解説 45年間表現し続けてきた普遍的な想い
竹内まりやのニューアルバム『Precious Days』が10月23日にリリースされた。本作は2014年9月発売の11thアルバム『TRAD』以来となる、実に10年ぶりに発表されるオリジナルアルバム。あいだに企画アルバム『Turntable』(2019年)を挟んではいるものの、このアルバムリリースサイクルは彼女のキャリアにおいて過去最長のものとなる。
昨年11月にデビュー45周年という大きな節目を迎えた竹内だが、『Precious Days』=“かけがえのない日々”というタイトルが付けられた今作はそのアニバーサリーイヤーを締めくくるうえでとても重要な一枚。と同時に、『WBS(ワールドビジネスサテライト)』(テレビ東京系)のエンディングテーマとして制作された「今日の想い」(2016年)から、この夏に放送された生田絵梨花主演ドラマ『素晴らしき哉、先生!』(ABCテレビ・テレビ朝日系)主題歌「歌を贈ろう」(2024年)まで、この10年間に発表された数々のシングル曲やタイアップ曲を網羅していることから、『TRAD』以降の活動を振り返る際にも欠かせない作品集ともいえる。
全18曲、トータルで68分超とボリュームたっぷりの大作に仕上がった『Precious Days』について、ここでは収録された一曲一曲についてを巡る全曲解説をしてみたい。
01. Brighten up your day!
『大下容子ワイド!スクランブル』(テレビ朝日系)メインテーマとして、昨年4月からオンエア中の1曲にてアルバムは幕開け。〈ほんのちょっとだけ やる気起こしてみてもいいよね〉〈まずは一日を 笑顔で始めてみよう〉と軽やかに歌われるこの曲は、“かけがえのない日々”=二度と戻ってこない貴重な時間というタイトルが冠されたこのアルバムのオープニングにぴったりな一曲と言える。
02. 小さな願い(2024 New Remix)
2018年公開の映画『あいあい傘』の主題歌として制作。2018年10月には「今を生きよう (Seize the Day)」との両A面シングルとしてもリリースされている。映画『あいあい傘』の主人公・さつきの心情に優しく寄り添った歌詞と、マージービートを彷彿とさせる優しいバンドサウンドとが相まって、「これぞ竹内まりや」と言わんばかりの王道ナンバーだ。
03. ベイビー・マイン(日本語 Ver)
2019年公開のディズニー映画『ダンボ』日本版のエンドソング。80年以上前から愛され続けるこの名曲、海外ではArcade Fireが独自のサイケ色を散りばめながら歌唱したが、日本版に採用された竹内まりやバージョンはドラマチックさを際立たせたスローバラードとして表現され、原曲に新たな魅力を注ぎ込むことに成功。「小さな願い」から続く構成も、アルバムとして絶妙な流れを作り上げている。
04. 君の居場所(Have a Good Time Here)
2023年末にNetflixで公開された新作アニメ『ポケモンコンシェルジュ』の主題歌。サンバの陽気なリズムと爽快感の強いブラスサウンド、心から純粋に楽しむことを歌った歌詞は、あらためてこのアルバムのテーマにぴったりな内容と言える。曲中にはコダック&ピカチュウもゲスト参加しており、その声に思わずニヤリとするはず。
05. Smiling Days(2024 New Remix)
ベルメゾンのCMソングとして制作された貴重なナンバーが9年越しでCD化。大人になっても童心を忘れない姿が描かれた「ベイビー・マイン」「君の居場所(Have a Good Time Here)」と異なり、ここでは聴く年代によって響き方が変わるものがある。日々の世界の中にある何気ない生活こそ、実は最も“かけがえのない日々”であることを伝えており、ある意味今作のテーマソングのようにも映る。それは竹内がこのアルバムにたどり着くまでの10年間、いや、45年以上におよぶアーティスト生活における普遍のテーマなのかもしれない。
06. Watching Over You(Duet with 杏里)
2021年に放送されたドラマ『和田家の男たち』(テレビ朝日系)主題歌として、杏里とのユニット・Peach&Apricot名義で発表されたシティポップチューン。竹内の代表曲のひとつ「SEPTEMBER」で知られる林哲司が書き下ろしたメロディを、1978年デビューの同期である竹内と杏里が艶やかな歌声で表現。これぞ大人の女性のデュエットと言わんばかりの、力の抜けた余裕の伝わる一曲だ。
07. 遠いまぼろし
作詞を竹内、作曲を竹内の大学の先輩であり彼女のデビューのきっかけを作った杉真理が担当。ボサノバをベースにしたアレンジと、どこか物悲しげなメロディと歌詞は、聴き手として年齢を重ねれば重ねるほど深く響く。濃厚な楽曲群が並ぶ本作において、アルバム中盤に差し掛かるタイミングに用意されたこの曲が醸し出す郷愁感は特別なものがある。
08. Subject:さようなら
2011年にリリースされた松浦亜弥のベストアルバム『松浦亜弥 10TH ANNIVERSARY BEST』収録曲のセルフカバー。キーこそ変更されているものの、アレンジはほぼ松浦バージョンのまま。当時の松浦の実年齢に沿った歌詞の世界観は、このアルバムにおいては少し初々しくも感じられるが、こういうテイストも他アーティストに提供した楽曲のセルフカバーだからこそ味わえるもので、本作においてもいいフックとなっている。
09. 夢の果てまで
早見沙織が2017年に発表した『劇場版 はいからさんが通る 前編 〜紅緒、花の17歳〜』主題歌のセルフカバー。こちらもキーこそ異なるが、アレンジは早見バージョンと大きく変わらない。『はいからさんが通る』の作品世界および主人公・花村紅緒の生き様とリンクした歌詞も、このアルバムのテーマに沿ったものといえる。なお、早見本人も本曲のコーラスに参加している。
10. Tokyo Woman
2023年放送のドラマ『Tokyo Woman』(フジテレビ系)主題歌。杉真理や松尾清憲によるロックバンド・BOXが2012年に発表したアルバム『マイティ・ローズ』収録曲をカバーしたもので、同アルバムには竹内もコーラスで参加していた。曲中何度も出てくる〈ちゃんとやろうぜ〉というフレーズは、〈ほんのちょっとだけ やる気起こしてみてもいいよね〉と歌う「Brighten up your day!」と口調こそ異なるものの、言いたいことは共通しているのでは、と想像する。