kZm、円環を鳴らして“破壊の先”へ 三部作の終着点にしてシーン最前線を行く『DESTRUCTION』徹底考察

 冒頭から自分語りで恐縮なのだが、Spotifyの年間リスニングレポートをご存知だろうか。年末になると、直近1年間での視聴記録を一枚絵やプレイリストでまとめてくれる、あの機能である。同レポートによると、筆者はここ数年間ずっと、kZmの上位リスナー0.001%に必ず入るほど、彼の音楽を愛聴しているらしい。

 主な理由はふたつある。ひとつは、kZmの鳴らす音楽は、ヒップホップの解釈を広げてくれるから。そしてもうひとつは、彼は“自分たちの遊び場”を作ることに自覚的であり、そうした精神がサウンドやリリックにも確かに反映されているから。このふたつの感覚に、筆者自身もとかくフィールしているのだと思う。

 1994年1月生まれ、東京・渋谷区育ちのkZm。代々木公園のストリートバスケでヒップホップに出会い、2015年にkiLLaを結成。その後、JNKMNら率いるYENTOWNに移籍して頭角を現すと、2018年3月には1stアルバム『DIMENSION』を発表。2020年4月発表の2ndアルバム『DISTORTION』では野田洋次郎(RADWIMPS)、2022年11月発表のEP『Pure 1000%』では、カナダ・バンクーバー出身の3兄弟メンバーを擁するバンド Gliiicoとコラボするなど、自身の畑以外の才能と積極的にクロスオーバーを重ねてきたのが、彼のキャリアにおける大きな特徴だ。

 また、自身主宰のコレクティブ・De-void*では、2022年よりパーティシリーズ『Jungle Clash*』を開催。同年秋、渋谷を代表するクラブ SOUND MUSEUM VISIONとContactがクローズしたこともあり、自分たちで東京の“遊び場”を作っていこうとするパーティの担い手意識を見せてくれている。その延長としてか、2023年以降はghostwriter boyfriend名義でのDJも開始し、コロナ禍以降に傾倒してきたダンスミュージックとますます近い距離に身を置くことに。前置きが長くなったが、こうした経緯や精神性があり、本稿にてレビューする待望の3rdアルバム『DESTRUCTION』がようやく産み落とされたのだ。

レイジ、アマピアノ、アンビエントベース……あらゆるジャンルをパッケージ

 2024年8月14日発表、全18曲収録。前作『DISTORTION』から約4年4カ月ぶりとなる本作は、kZmが以前より語っていた通り『DIMENSION』『DISTORTION』の流れにあるアルバム“三部作”を締めくくる1枚となっており、約6年半もの歳月をかけた物語がついに完結に至った。

 作品全体の構成を簡単に紹介すると、前半は「STAR」など、“叛逆児”のように暴れるような“動”のオーラで圧倒する展開に。レイジビートに終盤、ジャージーを掛け合わせるという“とんでも発想”でボルテージを振り切ることだけを考えた最高楽曲「Super Sonic」を筆頭として、アッパーチューンの殴打で耳元の感覚を掌握される。

kZm - STAR

 一方、後半は一気に“静”の空気に振り切り、「帰り道がない」から始まる内省モードを経て、最後には「TRAUMA」で再び盛り上げるという、前作『DISTORTION』収録曲順のフォーマットと通ずる展開が採用されている。特に後半に並ぶ楽曲は、詳細こそ後述するが人間誰しもが経験するダウナーな感情を鮮明に描いており、筆者も聴いた後しばらく、気持ちを持っていかれて静かに横たわるしかなかった。

 こうした流れあるアルバムで話の軸を作っているのが、事前にシングルカットされていた3曲。それぞれ、自身の荒んだ心を荒天に喩えた「DOSHABURI」、そこから見えた晴れ間に青春時代を重ねた「Forever Young」、心の土砂降りの元凶に想いをはせた「U Are My Paradise」だ。

kZm - DOSHABURI feat. JUMADIBA (Prod. Chaki Zulu)
kZm - Forever Young feat. BIM & WILYWNKA (Prod. Chaki Zulu)

 周辺を固めるのは収録順に、件のカチ上げソング「Super Sonic」、南アフリカ出身のシンガーソングライター・Tyla「Water」でも話題のアマピアノを取り入れた「ROKUDENASHI」、kZm本人が求め続けてきた音像を再現できたとご満悦なアンビエントベースでの「VIDA LOCA」、自身の内側にいる“小さな宇多田ヒカル”が出てきたと語る「Only Is Not Lonely」、エレクトロなサウンドで哀愁漂う「渡り鳥」など(※1)。

kZm - ROKUDENASHI feat. Awich (Prod. Chaki Zulu)

 ここまで記したように、本当にあらゆるジャンルのサウンドを取り入れながら、ブーンバップ/トラップのわかりやすい二項対立でないヒップホップの概念を広げ、再構築しようとする気概が伝わってくる。かつ、時にはリリックや自身の声を音のように捉え、クラブで鳴っていて“踊れる”サウンドにまとめ上げられるセンスこそ、彼の大きな持ち味である。そして『Pure 1000%』でも語っていたが(※2)、彼にとってのヒップホップとは、常にフレッシュなこと。その点で、オントレンドなアマピアノに初挑戦したことや、「Super Sonic」などで天才・Jeter(Peterparker69)らと巡り合った意味も大きい。

Jeter、Big Animal Theoryら、参加アーティストの顔ぶれに見る“シーン最前線”

 本題からは少し外れるのだが、筆者は4年前に記した『DISTORTION』レビューにて「どのラッパーにどのようなトラックをぶつければ、その人物の持ち味を最大限に活かせるかを考えた、kZm自身が持つ高い“選球眼”的な能力にも驚かされる」と綴っていた(※3)。この感想は基本的に前回から同様なのだが、今回はビートメイカー/プロデューサー選びにおいても、その選球眼とセンスのよさ、そして、前述のパーティ開催やDJ活動を通して培ってきた人脈も大いに活きていると思う。

 というのも『DISTORTION』までは、アルバム収録楽曲の半数以上をYENTOWNのボス・Chaki Zuluが制作。だが今回は「DOSHABURI」などの重要パーツは彼が手掛けながらも、Y ohtrixpointnever(Peterparker69)、DAIKI(AWSM.)、Big Animal Theoryら、kZm作品に初参加の顔ぶれが並んだ。DJ DISK(旧名義:Disk Nagataki)こそ前作『DISTORTION』にも名を連ねていたが、KM、Yohji Igarashiらもアルバム楽曲でタッグを組むのは初めて。このあたりは本人に聞いてみなければわからないが、彼が日々のパーティで遊び、ともにDJをする仲のよい面々がほとんどなのだろう。

 また、客演アーティストの顔ぶれからは、この4年間におけるシーン最前線の変化も掴める。自身の兄弟分・BIMや、前作『DISTORTION』でもラップで勝てないと唸っていたDaichi Yamamotoは続投しながら、kZm語でいえば“ダルいくらいの天才”枠はLEXからJUMADIBAやJeterに継承(ちなみに、kZmはJeterが普通に化け物すぎて引いているらしく、今回自身のキャリアで初めて、客演バース受領後、自身のバースとフックをすべて書き直したらしい)。

 ほか、“大パイセン”枠は5lackからCampanella、メジャーアーティストでいえば野田洋次郎から、WILYWNKAやAwich(彼女は、前作『DISTORTION』のMonyHorseポジションとして、YENTOWNの系譜とも受け取れるが)。シンガーとの交流という意味では、小袋成彬からKaorukoに。そしてアルバムのラストを飾る重要な役割を、Tohjiからralphへとそれぞれ受け継いでいる。

 もちろん『DISTORTION』客演アーティストは現在でも第一線で活躍するアーティストばかりなのだが、JUMADIBA、Jeter、ralphなど、ここ数年間で登場したフレッシュな才能をキャッチアップしているあたり、シーンの変化という側面での捉え方をしても問題ないのではないだろうか。

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