横山健が辿ってきた90年代パンク Ken Yokoyama『The Golden Age Of Punk Rock』リリースの背景

横山健

武勇伝ではなく誰かの新しい扉が開くきっかけを作るような感覚

一一ラップに挑戦するバンドが増える時代に、グッドメロディに回帰する。これも90年代パンクの大きな特徴でした。

横山:そう。俺たちは何言われても「いや、メロディなくてどうすんの?」って思ってた。だから初期のハイスタはほんとマイノリティだったの。

一一そうやってメロディ、メタル要素、演奏力などを補強していく。過去のパンクやハードコアとは違うものを作りあげていく感覚ですよね。

横山:そう。まず先人をリスペクトしつつも、そこから離れている自覚はすごく当事者たちにあったと思う。僕も含めて。たとえばDischargeと一緒かって言えば違う。Black Flagと一緒か、Ramonesと一緒かって言えば違う。だから俺らは俺らでパンクを名乗ることにものすごく勇気が要ったし、名乗ってしまえば案外気楽なものだったけど。でもオリジナルパンクの人たちには「あんなのパンクじゃねえ」って言われた。10年くらい前にSAと対バンしたら「Tシャツ短パンの親玉とライブするとは思わなかった」ってタイセイさんに言われて(笑)。

一一「Tシャツ短パン」がシンボルであり、揶揄の言葉でもあった。

横山:うん。それはすごく端的に表してるなぁと思ったな。彼らからしたら「こっちは何時間かけてリーゼント作ってると思ってるんだよ?」っていう話だし。「なんだお前、その無造作な頭は」「楽屋とおんなじ格好でステージ出ていきやがって」みたいな。タイセイさんは愛嬌たっぷりに言ってたけど、当時はマジでそう思っていた人たちはきっといたはず。

一一だからこそ、90年代パンクのバンドたちには「俺たちはこれでいい」っていう仲間意識、連帯感がありました。

横山:そうね。もちろんハイスタがFAT(Fat Wreck Chords)だから、っていうのもあったと思うけど。仲間として歓迎してくれて、いろいろツアーに誘ってくれたり。メールがまだないから手紙でやり取りしてたもん。でもほんと、「同じような奴らが出てきた、ヘッタクソな英語で歌ってはいるけど、日本からも出てきたぞ!」って歓迎される感じはすごくあったかな。

一一いわゆるアジア蔑視のムードもなかったですか。

横山:バンドからはなかった。ツアー行った先で、街の中でアジア人差別みたいなものに遭ったことはあるけど。バンド同士、メンバーからは全然なくて。

一一ファンもそうでしたよね。スウェーデンのバンドだろうが日本のバンドだろうが、別に国籍は考えずに受け入れる、すぐ盛り上がる。

横山:うん。ほんと不思議な時代よね。妙な連帯感は世界中にあった気がする。

一一だから、あの時代を振り返ると、総じて「ポップ、ヘルシー」みたいな論調になっていくんですよ。実際はそうでもない面もあったと思うんですが、これっていいことだったと思います?

横山:いろんな人に受け止めてもらうためにはいいことだったと思う。実際Hi-STANDARDはライブハウスの敷居を下げたと思うのね。今まで怖くて来れなかった人たちがどんどん来てくれるようになった。それが「ヘルシー」って言葉になるんだと思うけど。でも同時に「ライブハウスのスリル、なくなっていくな」って思ってたりはしたかな、やってる本人としても。自分たちが観に行ってたハードコアパンクの風景を思うと「同じライブハウスだけど、これって違うよな」っていう、なんとなくの違和感が生まれたり。だから、これこそが自分たちが望んで作った光景だ、みたいな自覚はあんまりなかった。

一一ただ、今思えばギリギリでスリルや焦燥はあった気がします。blink-182が売れた1999年あたりから、サウンドはより綺麗に整えられていって。

横山:あぁ、ブリンクの登場は大きかったね。あそこで潮目が変わったのは、今になって思うことかな。単純に曲の感じが変わってきちゃったなぁって。

一一同時期にはエモも出てくる。今回のカバーにblink-182とThe Get Up kidsが入っているのが象徴的です。

横山:うん、それこそThe Get Up kidsは大きな境目だった気がする。だから、ここが俺の中での90’sパンクの終わり、なんだろうな。この2バンドを入れることは、メンバーもみんなちょっと考えて「そこ、90’sに入るかなぁ?」って感じだったし。でもあれ以降のブリンクが、今の日本のメロディックのバンドたちに与えた影響はすごく大きくて。無視できないっていうのもあった。同じような理由でThe Get Up kidsも入れたかった。

松本"EKKUN"英二

一一はい。ただ、ここまでを区切りとして「GOLDEN」と定義するのは、ちょっと危険なことでもあると思うんです。下手すると「これ以降はわからなくなっちゃうんだよね」っていう宣言に取られかねないので。

横山:あぁ。そう取られても別に全然いい。むしろこれがパンクにとって良かった最後の時代で、2000年代に入ってからはちっともいいことありません、ぐらいに思ってる(笑)。あとは、こういうのを聴いて、僕は2000年代に入ってからKen Yokoyamaを作って、今もこの延長線上に立ってるつもりだよ、って言いたいところもあるし。もちろん「GOLDEN AGE」っていうのは俺の主観だけども、ほんと俺にとってはこれがゴールデンな時代だし、自分が「ここの中の人」でほんとよかったなと思ってる。これより後に出てきてたら、もう眩しく見えてしょうがなくて、「なんで俺はあと5年早く生まれてこなかったんだ!」って一生爪を噛んで生きることになってたと思う。

一一実際にそう言ってるバンドもいますね。でも、逆にこの時代をまったく知らない若者から「そんな昔の武勇伝みたいなこと言われても」って言われたら?

横山:いや、これ別に武勇伝じゃないもん。今は聞かれたからこうやって答えてるけど、これを作品として出すことは、僕にとっては武勇伝でも何でもなくて。ただ「いい曲教えてあげるよ」くらいの感じ。

一一あ、そういうニュアンスなんですね。

横山:うん。「ツェッペリン(Led Zeppelin)、格好いいんだぜ」って言うのとほぼ似た感覚。みんな知らないだろうから。それこそ30年前の音楽だし、もうとっくに古いものだっていうのは俺も案外冷静に捉えてるのね。それぐらいリーチする機会がない。だからこそこうやってひとまとめにしてみたかった、っていうのが理由のひとつ。

一一はい。

横山:あともうひとつの理由として……昨今思うのは、フェスにある日本のバンド同士の繋がり、バンドとお客さん同士の繋がり、すごく可視化できるし、いいなって思うの。ただ、お客さんがそこで止まっちゃうのはもったいないと思うことがあって。こと、ラウド系とかパンク系と呼ばれるバンドは、ルーツを海外に求めることができるはずで、そこに行ったらもっと世界が広がるのになって思う。

一一誰かの新しい扉が開くきっかけを作りたい?

横山:そんな気持ち。「フェスで観たいのはコレとコレ」「この2バンドが観れて大満足」が終着点になっちゃうのはもったいないよって思うから。

一一昔の話だけど、私、「California Dreamin’」の原曲を知った時びっくりしたんですよ。最初はカバーだとも知らずに聴いていたから。

横山:あ、そう。

一一で、まずThe Mamas & the Papasを聴きますよね。そして60年代がどんな時代だったか、その時何が起きていたのか、自分なりに調べていく。もう途中からハイスタとは関係ない話になっていくんだけど、それが単純に楽しかったんです。知らないカルチャーに触れていける感覚。

横山:あぁ。そういうのが音楽ファン、ロックファンだって、俺はどこかで思ってるのかもしれない。そうやって辿っていけば、どこかでクラシックロックと繋がっていくし。こういう話っていわゆる老害なのかもしれないし、別に「私は好きなバンド観れたらそれでいいです」っていう思考なんだったら、何も言えない。言えば言うだけ無粋になってしまうと思うから。だから、今回行動で示してみた。

一一Ken Yokoyamaの生演奏で名曲16曲、一気に聴かせます、と。

横山:うん。オリジナル音源集めて、横山監修のオムニバス作ってもよかったんだけど。お楽しみとして演奏したかった。もちろん、ライブでやっていきたいしね。

■リリース情報
8.5thアルバム『The Golden Age Of Punk Rock』
2024年10月16日(水)リリース
通常盤 ¥2,750(税込)

<収録曲>
1.Soothing
Originaled by Satanic Surfers
2.It’s A Fact
Originaled by Vandals
3.Stickin’ In My Eye
Originaled by NOFX
4.Too Late
Originaled by Snuff
5.International You Day
Originaled by No Use For A Name
6.I’m The One
Originaled by Descendents
7.All My Best Friends Are Metalheads
Originaled by Less Than Jake
8.You’ve Done Nothing
Originaled by Face To Face
9.Time To Grow Up
Originaled by Bodyjar
10.Roots Radical
Originaled by Rancid
11.Crazy
Originaled by ALL
12.All The Small Things
Originaled by Blink-182
13.Break The Glass
Originaled by Suicide Machine
14. 21st Century Digital Boy
Originaled by Bad Religion
15.Holiday
Originaled by The Get Up Kids
16.May16
Originaled by Lagwagon

■ツアー情報
『The Golden Age Of Punk Rock Tour』
2024年10月21日(月)渋谷 CLUB QUATTRO
2024年10月29日(火)福岡 DRUM LOGOS
2024年10月30日(水)岡山 CRAZYMAMA KINGDOM
2024年11月1日(金)松山 WStudioRED
2024年11月7日(木)新潟 LOTS
2024年11月8日(金)仙台 RENSA
2024年11月15日(金)川崎 CLUB CITTA'
2024年11月19日(火)大阪 GOLLIRA HALL
2024年11月20日(水)名古屋 DIAMOND HALL
2024年12月1日(日)江の島 OPPA-LA
2024年12月6日(金)渋谷 Spotify O-EAST

『The Golden Age Of Punk Rock』特設サイト
https://www.pizzaofdeath.com/ken8.5th/

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