横山健が辿ってきた90年代パンク Ken Yokoyama『The Golden Age Of Punk Rock』リリースの背景

 Ken Yokoyamaが、90’sパンクカバーアルバム『The Golden Age Of Punk Rock』を10月16日にリリースする。「パンクロックの黄金時代」と訳される今作。Hi-STANDARDとして90年代パンクを当事者として鳴らしてきた横山健はどのように影響を受け、表現をしてきたのか。バンド初のカバーアルバムとなる今作の背景について語ってもらった。(編集部)

日本でこういうカバーアルバムができるのは俺だけだ

一一これはもう、一気に10代に戻ってしまうアルバムです。

横山健(以下、横山):(にっこり笑って)いいのができたと思います。人の曲だからよくて当たり前なんだけど。よく自分たちでまとめたなぁって感じ。

一一理由とか選曲などはライナーノーツがあるので譲りますが。ここで話したいテーマは、90年代パンクとは何だったのか、ということで。

横山:はい。僕もすごく考えた。

一一あんなに世界同時多発で、「俺もやれる」「お前も仲間だ」みたいに盛り上がっていったムーブメント、今考えても私は他で見たことがないんですよ。

横山:うん。あれは……何だったんだろうね?

一一当事者である意識はありますか。

横山:うん。俺はその中の人であり、幸いにもその一員になれた。90年代パンクを鳴らし、世の中に広めた一員。すごく当事者だなって自分でも思ってる。だから、日本でこういうカバーアルバムができるのは俺だけだっていう自負もあった。

一一きっかけの話ですけど、これは新しい時代が始まっているんじゃないかと思った瞬間って何かありました?

横山:……ないなぁ。ぬるーっと始まったんじゃないかな。

一一気づけば、ツービートなのにやけにポップなバンドが増えていた。

横山:うん。僕らがハイスタを作った時は、NOFXも知らなかったし、Bad ReligionもDescendentsも知らなかった。唯一知ってたのはSnuffだけで。

一一今挙げたようなバンドを知っていくうちに「同じこと考えてる人たちがいるんだ」みたいな?

横山:まさにそう思った。自分たちの音楽はメロディアスで、それでいてパンクの持つスピード感とか焦燥みたいなものがあって。それが最初からやりたいことだったの。ただ、当時NirvanaとかSoundgardenが流行ってたせいもあって、周りからは「横山がメタル始めた」って言われてた。そう見えたみたい。

一一へぇ……。とはいえ、パンクである、という自覚はありました?

横山:ものすごくあった。よその人とは違うけれども、俺はパンクロックを鳴らすんだ、自分はパンクスだって。その自負はすごくあったかな。

一一それは、今までのパンクとは違うものを鳴らす、という意味で?

横山:うん。でもそれはアゲインストな気持ちではなくて。もっと新しいもの、誰もやったことがないものを、っていうニュアンスのほうがデカいかな。

南英紀

一一新しさのひとつが、服装のカジュアル化。武装解除というか。

横山:そこはバッチリ意識してやってた。そもそも誰も「髪を立てよう」とか言わなかったし。「このままやるのがいいよね」って。それでライブをやっていたら、なんとなくイメージとして、革パン鋲ジャンの中にTシャツとジーンズで突っ込んでいく、っていう形ができあがっていったと思う。

一一誰も示し合わせたわけでもないのに、世界中から軽装のパンクバンドが出てきた。あれはすごく不思議なことでした。

横山:うん。話は飛んじゃうけど、その後ハイスタでアメリカに行ってNo Use for a Nameと2カ月ツアーをして。いろんな話をしたんだけど、ほんとに同じ道を辿ってたんだなと思った。みんな80’sの音楽に目覚めて、メタルに影響を受けて、でもパンクロックの精神にヤられて、全部まとめちゃおうぜって考えてた。これはノー・ユースと話してたことだから、世界中みんながそうなのかって言えば違うかもしれないけども。でも他のバンドと話しててもそんな感じだったかな。辿ってきた道、音楽のルーツとか発想、あとは気持ちの持ち方。さっき言った武装解除的なところも含めて……ほんと示し合わせたわけじゃなかった。偶然にも世界同時多発だったんだなぁって思ったな。

一一その前を振り返ると、ハードコアやスラッシュメタルを筆頭に、どのバンドも激しく過激になっていった80年代の流れがあると思うんです。

横山:うん。そこに対するリスペクトは僕らにもすごくあるの。みんなスラッシュメタルが好きだったし、たとえば移動中、車の中でMetallicaかけたらもう大変。みんな「イェェェェー!」なわけ。

一一Metallicaは大好き。でも精神としてパンクスでありたい。ジャンルとして水と油みたいに言われますけど、そこは関係なく?

横山:あ、僕らの世代からは全然ないの。昔はパンク対メタルの構図ってものすごく明確にあったんだけど。もちろん人によってはまだあったよ? 高校の時に仲良くしてたメタル仲間がいて、ある時Sex PistolsのTシャツ着てたら「行っちまったなぁ、あっちに」って言われたことがあったり。そこで忠誠を誓った奴はいまだメタルをやってたと思う。逆にパンクにこだわる奴ならファッション面でもパンクを守ってたし。だけど、ちょうど変わり目だったんじゃないかな。「どっちも好きだし、どうでもいいじゃん」っていう奴らが、たぶん90年代のパンクを鳴らしたんだと思う。

一一ここまでメタルってワードが出てくるとは思ってなかったですけど、90年代パンクにとって、メタルは重要なんですか?

横山:すごく重要だと思う。それは演奏性の高さっていう意味で。正直言って初期のパンクって音楽的には酷いものも多いじゃない。そこにはすごく大事なメッセージがあるんだけども。でもメタルのほうが演奏レベルが高かったし、音源もしっかりしてたのは事実だから。

一一あと、これはBad Religionのグレッグ・グラフィンに聞いた話ですけど、彼って子供の頃クワイアに、合唱団にいたそうで。コーラスの美しさ、分厚いハーモニーの魅力が体に染み付いてるんだと。

横山:へぇー。

一一あのバンドが最初からあれだけカッチリとコーラスを完成させていたのも、音楽レベルの高さを象徴する話で。

横山:そうそう。結局90年代パンクって、速くて歪んでるイメージがあると思うんだけど、その中にはものすごく豊かな音楽性が隠れていて。たとえばグレッグのいうコーラス要素とか、あとはスカをやるバンドも出てきたり、Snuffなんかはラテンもやってた。どのバンドもいろんなエッセンスが入り込んでたし。それも90年代パンクの特徴のひとつかな。「格好いいものを何でも取り入れようよ」っていう気分を、まるっとパンクっていうもので包む感じだったと思う。

一一何でも取り入れるなら、同時代のレッチリ(Red Hot Chili Peppers)みたいなミクスチャーの手法もあったと思うんです。包む外壁がパンクであることは重要でした?

横山:重要。それがむしろ重要で。レッチリみたいにやろうとすると、音楽的にグルーヴが求められるから速くならない。そうするとパンクでコーティングできなくなるのね。どうしてもメタルファンクみたいになってしまう。僕らもそういう曲あったしね、ハネたリズムの曲。大ゴケしたけど(笑)。初期のオリジナルにはそんな曲もあったな。今も覚えてる。

一一じゃあ……いつかどこかのボーナストラックに(笑)。

横山:ははは! でもさ、それこそハイスタ始めた91年あたりってレッチリとかが出てきた頃だから、周りのバンド、レーベルの人とかも「今メロディあったらダメだよ。ラップだよ」って言ってた。メロディなんかもう古いって言われる時代。いまだに心の中に残ってる。あの時代を象徴する言葉だったと思う。

Jun Gray

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