SHE'Sが今描く、恋愛や友情を超えた“愛情”の姿 7枚目のアルバム『Memories』とバンドのあり方を語る
身のまわりで起きていた別れへのアンサー「Memories」
――そういうことだったんですね。「Memories」という曲から感じるのは、だんだん年齢を重ねるごとにさよならが増えるというか。時期的にも昨年はミュージシャンの方の逝去も多くて、10代の時に思うような“Memories”とはちょっと違ってくるということでした。
井上:うん、全然違いますね。3月に出すし、そういう別れをテーマにした曲を書こうと思ったんですけど、自分の卒業ってもう14、15年前になるから覚えていないし、卒業する側の意見はちょっと書けないなと思って。人との別れに大きくテーマを変えて、見送る側としての意見――〈選んだあなたの 僕は味方だ〉っていうフレーズに関しても、自分の身のまわりで起きていた別れだったり、そういうものへのアンサーだったりするんです。「死んでほしくないけどさ」「お前が選んだんやろ」みたいな。「この声は届かんけど、俺はお前の味方でい続けるぞ」というようなことを書きたくて書いた話なんです。ある人にとっては、地元を離れて上京する時とかに、「ええ? なんで離れるの? 寂しいなあ」「だけど、お前が選んだ道なら応援するぜ」というふうにも受け取ってもらえるかなと思って、言葉を広くとりましたね。
――その人の決断を尊重する?
井上:うん、そうですね。そういう気持ちでしたね。
――他者の存在に助けられている「Cloud 9」が実質的な一曲目で、最後が「Memories」なのはこのアルバムでグッとくるところでもあるし。
井上:きれいでしょ(笑)?
――はい。「Cloud 9」はMVの内容も相まって、曲の印象がさらにビビッドになりました。
井上:ああ、よかったです。「Cloud 9」の音楽がメインになってないビデオも作ったんですけど、あまりにもふたり(藤﨑ゆみあ/伊礼姫奈)の演技がよすぎて、脚本のセリフもしっかりあったので、MVとは別のものとして、ちゃんとあのストーリーが感じれるようにとビデオも新しく出したんです。事前に監督には恋愛のMVにはしてほしくないって言って。そもそもこの曲を作り始めた時からメンバーに向けて歌った曲でもあったので、サビの歌詞とかは特にそうなんですけど、いろいろと要素を変えていって“完全なメンバーの歌”にするのはやめようと思って楽曲の雰囲気的に変えました。恋愛とか友情とかを超えた愛情のようなものに気づいた時の歌にしようと思っていたので、それをテーマにしてほしいと監督にも伝えました。恋愛に捉えられて、男女の青春ムービーみたいになっちゃうのが怖くて、いろいろと話をしましたね。
――メンバーに向けたのは〈君がいないと見れなかった〉というところですね。
井上:うん。ひとりじゃできなかったことばっかりなので。
――まさにバンドとして演奏した時に強みの出る曲ですよね。「今やるべきはこういう音楽」みたいな感じではなく、今のSHE’Sが鳴らしたらこうなるということかも。
井上:だと思います。
――曲順もよくて、「I’m into You」のあとに「No Gravity」があることで繋がるなと。
井上:ああ、そうですね。
――男性ファンも増えてきましたし、「I’m into You」はメンズファンが勇気付けられそうだし。
井上:(笑)。結構変な曲ですけど、たぶん男の子はみんな経験したことあるでしょうね。にっちもさっちもいかない恋愛(笑)。なんにも響かないような、相手からのレスポンスもない、相手にされてない感じというか。
――恋愛初期のふわふわした感じが「No Gravity」に繋がるのもいいですね。あらためて「No Gravity」を作った当時のリファレンスはなんだったんですか?
井上:リファレンスはMaroon 5の「Sugar」じゃないですかね。そのあとに「Dynamite」(BTS)も出て、似たようなリズムで大ヒットして。「こういう曲ってやっぱりノりやすくて気持ちいいな」と思ってリズムから作り始めて。で、打ち込みでやってみるところから始まってシンセの音を入れて。シンセの音が感覚的にふわふわした浮遊感を感じて、イントロで使ってるあのシンセにも浮遊感があったので、浮遊感をテーマにして「No Gravity」というタイトルで(曲を)書こう、と。「自分がふわふわしてた時ってなんやろう?」って、過去の恋愛のこととかを当てはめていった感じでしたね。
――サウンドのイメージから歌詞も?
井上:うん、そうですね。
――そういう作り方をしていくと広がりそうでいいですね。
井上:いろんなパターンがありますけど、珍しいかもしれないですね、サウンドイメージで歌詞を書くっていうのは。いつも書きたい曲のタイトルを決めておいて、言いたい内容のテーマを決めたような状態でそこから逆算してイメージに合うトラックを作って、歌詞を乗っけるっていう作業がわりと(自分のなかでは)オーソドックスなやり方ではあるんですけど、「No Gravity」はレアな作り方でしたね。サウンド先行で。
――「Angel」は「C.K.C.S.」に続く愛犬に向けた曲だそうで。
井上:そうです。よくご存知で(笑)。
――人間じゃなくてなんか犬や猫じゃないと書けない気持ちってありますよね。
井上:うん。親が死んでもこの歌詞は書けないですもんね(笑)。これは2年前ぐらいに書いていた曲なんです。武道館公演(2022年2月24日開催『SHE’S in BUDOKAN』)の直前ぐらいに飼ってた犬が亡くなって。その時に書いて寝かしていたんですよね。『Shepherd』のテーマには合わへんしな、と思って。今回『Memories』っていうタイトルにして「あ、やっと入れれる」と思ってフルでアレンジした感じでした。
――感情としては素直に出せる気がしませんか?
井上:うん。ここまでストレートに日本語を書いたことは、あんまりなかった気がしますよ。なんて言うんですかね、「生まれてくれてありがとう」とか「愛してくれてありがとう」とかのフレーズは特に。こっ恥ずかしくてそういう歌詞の書き方はしたことがなかったから、どう受け取られるかわからない(笑)。
――これまでのアレンジのなかにあったクワイヤも、今回のアルバムでは「Alright」ではかなり本格的になってますね。どんな経緯で出てきた曲想ですか?
井上:「Alright」は、曲ができなさすぎた時に書いた曲なんです。時期的には「Memories」と同じ今年1月に書いて、「ビルボードでどっちをやる?」と言っていたタイミングの曲でもるんですけど。その制作が難航しすぎて、曲ができなくなっちゃってしんどくなっている時に書いた曲でしたね。
――自分で「Alright」って言うしかない、みたいな?
井上:そうです。もう言うしかなくなって(笑)。大丈夫じゃないですけど「大丈夫! 大丈夫!」って根拠なく言い聞かせている歌ですね。
――状況そのものを書くっていうのもアリになってきた?
井上:そうですね、もう何ができないんかなと思うぐらい(笑)。それこそ、もう自分を縛る鎖がない感じがしますね、なんでも書ける。「Kick Out」もそうなんですよ。もともと3年前ぐらいに書いていた曲をリアレンジしたような感じで。
――「Alright」の本格的なクワイヤやホーンのアンサンブルが、もうトレンドとしてのアレンジではなくオーセンティックに聴こえたんです。
井上:今まではトレンド扱いというか。これまではフックとしての使い方でしたけど、今はすごくピュアな感じがしますね。