夜の本気ダンス、16年目へ突入 米田貴紀と西田一紀が語る「ENISHI」と自分たちのルーツへの回帰

 昨年の15周年イヤーを経て、新たなフェーズに突入した夜の本気ダンス。その一発目となる新曲「ENISHI」がリリースされた。節目を飾ったアルバム『dip』では、ケンモチヒデフミやビッケブランカ、そして石毛輝(the telephones)といった面々とコラボを展開し、新鮮なサウンドを響かせていた彼らだが、この「ENISHI」は一転してごくごくシンプルでストレートなロックンロールチューンになっている。

 だが、単純に『dip』の反動として素朴なバンドサウンドに回帰しました、というだけの話ではない。ここまでのいろいろな挑戦を経て、「夜の本気ダンスとは?」という大きな命題にも向き合い、そこを突破できたからこそ、今彼らはこの音を鳴らすことができた。改めて自分たちのやっていくことを宣言するような歌詞も含め、16年目に突入した夜ダンも、踊れる準備は万端だ。(小川智宏)

制作の中でたどり着いた“夜の本気ダンスっぽさ”

――昨年15周年の節目を迎えた夜ダンですが、その後ここまでどんなことを思いながら走ってきましたか?

米田貴紀(以下、米田):結構前だなっていう印象なんですけど、15年の間に繋がりを持った方々ともう一度共演したり、対バンしたかったけれどできていなかった人と、未来に向けての繋がりを作るような年でもあったなと思います。京都のKBSホールで『夜の本気ダンス presents KYOTO-O-BAN-DOSS"』というイベントをやったんですけど、その2日間はかなり印象的だったというか。同世代のバンドもいたし、後輩のバンドや大先輩のバンドも、いろんなバンドとやらせてもらって。その中でも、個人的にはDOPING PANDAを呼ばせてもらったんですよ。ドーパンから夜ダンにっていう流れでやらせてもらったんですけど、まさかそんな日がやってくるとは、と思いました。彼らにすごく影響を受けて今もバンドをやっているので、そういう日が作れてよかったなと思います。

西田一紀(以下、西田):僕は加入して7年くらいなので、当事者であるけど半分他人事みたいな気分ではありました(笑)。だから、「みんなおめでとう」みたいな。でも、それこそ15周年にかこつけて、疎遠になっていた人も集まってくれたし、その後の対バンツアーで新しい人とも一緒にやることができた。僕が影響を受けていたBase Ball Bearとも去年一緒にやることができて、それがきっかけで今度また対バンできることになったので。そんなに意識していないけれど、節目があるおかげでお客さんに還元したり、バンドにプラスになることができているんですよね。アルバムを作ろうという原動力にもなりましたし、あますことなくいい1年にできたかなと思ってます。

――昨年の『dip』はめちゃくちゃいいアルバムで。節目の15周年イヤーの中で出した新曲が、ケンモチヒデフミさん、ビッケブランカさん、石毛輝さんとともに作り上げていたりと、いろいろなチャレンジをした曲たちだったというのがよかったなと思うんです。

西田:夜ダンはこういうサウンド、こういう音楽って、自分らの中で固定観念ができてしまっていたところを、ケンモチさんやビッケさんとやったことでそこから離れたところまでいけて。その固定観念をすごくいい意味で壊せたし、それでもちゃんと自分たちのバンドサウンドが成立するなという手応えも感じました。アルバムの曲ってアルバムツアーが終わると抜けていく曲が多いんですけど、やりたいな、この曲聴かせたいなっていう曲があのアルバムの中にたくさんあるんですよね。

米田:「夜の本気ダンスとは何ぞや」的なことをずっと考えながら曲を作ってきたんですけど、結局は何をやっても“夜の本気ダンスっぽさ”はどこかしらに残るんじゃないかって思えてきました。昔は僕が「こうしたい」っていうのをみんなに伝えながらやってたんですけど、『dip』は西田がほぼ曲を固めてきて、そこに僕がボーカルだけ乗せる感じの曲もあったりもして。それでも今の自分の感覚では夜の本気ダンスっぽさは絶対そこには乗っているし、大丈夫だっていう。そういう風に気持ちが変わってきたのは大きいかもしれないです。そこはかなり自分の中で変わってきているなと思う部分ではありますね。

米田貴紀

――今回の「ENISHI」は、まさにその先でできた曲だと思うんですよね。一番無邪気にというか、「とにかくバンドで音を鳴らすんだ」っていうすごくシンプルなところにもう一回戻ってきたというか。

米田:それに近い感覚があります。『dip』ではシーケンスを使ったり、プラスアルファの音が鳴ってたというのがあったんですけど、「ENISHI」は本当に4人だけの音でシンプルにロックをやるっていう。これ以上削ぎ落とせないぐらいシンプルな曲になりました。それをやりたかったっていう思いが強かったかもしれないですね。反動というか、『dip』でいろんなものを消化した後に、僕らだけでシンプルに音を出すっていうのもいいんじゃないかなって。

西田一紀

――これはどのようにできていったんですか?

西田:この曲は春先のツアーファイナルのアンコールでやったんですけど、その少し前ぐらいに「アンコールで新曲をやろうか」って話をしてたんです。『dip』がリリースされた後にも、その感覚が鈍る前に新しい曲を作っていきたいなということで何曲か触ってはいたんですけど、新曲というからアルバムの曲かと思いきや全然違う曲をチョネくん(米田)が出してきたんです。「あ、そっちか!」って。しかも、いつもだったら仮歌ぐらいのデモで送られてくるんですけど、これは届いた時点でほぼ歌詞もできてたんですよ。曲の全体像がバチって見えてたんだなって。

米田:最初は「ENISHI」とは真逆の、シーケンスだったりいろいろな音が鳴っているサウンドで曲を作っていたんです。ただ、『dip』を作ってみて「もっとこうしたらよかったんちゃうか」みたいな反省点も出てきたので、たとえばドラムのキックの音ひとつにしてもこだわって、どこの帯域に置いてとか、そういうのを最初からやっていったほうがいいんじゃないかと思って。でもそういうやり方で曲を作っている中で、その反動としてこの曲のフレーズができていったんですよね。『dip』の反省を活かしてじっくり作っていくのも、この先の自分たちにとっては大事だけど、それだけにフォーカスを当てていくとおかしいことになるなっていうのは何となく感じていたので、今こそ「ENISHI」はやっておくべきかなと思って。

――リファレンスはあったんですか?

米田:なんとなく、テレキャスターで弾いてるというよりはジャズマスターとか、めっちゃ歪んだ音でバッキングしてるようなイメージはありましたね。UKなテイストじゃないというか、今まではテレキャスターでチャキチャキと切り刻んでいく方が好きだったんですけど、今回はもっとUS的な感じ。

――ちょっとグランジっぽい感じもありますもんね。

米田:そう、ちょっとボワッとした、温かみがある感じですかね。そういうバッキングをやりたいなって。

――今ギターにフォーカスして話してくれましたけど、シンプルなアレンジだからこそギターがちゃんと聞こえてくる感じがありますよね。実は『dip』もそうだったと思うんですけど、今改めてギターにフォーカスを当てているのは何か理由はあるんですか?

西田:曲のデモみたいなものを、何個か前のアルバムぐらいから僕がやり始めたんです。ギタリストがそれをやったらギターの比重が高くなるよなっていう気がしつつも、意図的な部分もありました。というのも、「ピラミッドダンス feat. ケンモチヒデフミ」やビッケさんとやった「Vivid Beat」とか、ああいう「よく曲がる変化球」をゲットしたことで、逆に直球が投げやすくなったというか。直球だけだったときは「このストレートっていけてんのかな」みたいな不安もあったんですよ。でも、すごい曲がるカーブをゲットしたからこそ、これならど真ん中にストレートを投げていけるなという自信みたいなのも出てきた。だから、よりそのギターを押し出しやすくなったというか、「出してええやん」っていうポジティブな気持ちになれたかなって。

――なるほど、いろいろ挑戦したことで逆にど真ん中が怖くなくなった。

西田:あと、この「ENISHI」で言ったら、チョネはジャズマスターやUSっぽい感じでって言ってたんですけど、僕は普段ストラトを使ってるんですよね。本当はハムバッカーみたいなギターで、アンプもスタックタイプみたいな感じで鳴らすイメージとしてあるんだろうなと思いながらも、そこまで寄ったらそれはもう自分のギターの音じゃないしなあ、と思って。それで結局、ストラトとコンボのアンプでどこまでその方向に追い込めるかっていうのを突き詰めたんです。自分のトレードマークというか、ここまで曲げんでええか、みたいな。

――そこもストレートというか、自分たちの持ってる手札や武器の中でどこまで作っていけるのかみたいな。

米田:でも、すごくイメージに近いものになったと思うんです。確かに寄せすぎると自分たちじゃなくなる感じもあるかなと思うんですけど、西田がバランスを見てくれたのもあるし、そういう各々のバランスがいい具合にミックスされて、今回のサウンドになっているのかなと思いました。

西田:でも、作りがシンプルだからこそ、演奏性にはすごくこだわりました。4つ打ちのスピード感がある曲だと、リズムはタイトであればあるほどいいんですけど、こういう曲でリズムがタイトになると味気なくなってしまう。そこはデモを作った段階で「ここはベースが突っ込んで」とか「ギターのリズムはルーズな感じで」みたいなことを考えていって。それが4つともガシャンと上手いこと整合性が取れたところに落とし込みたいとは思っていたんです。レコーディングの時も「ベース、ちゃんと弾けてるけど、もうちょっと、ちゃんと弾いてほしくないな」って言うことは結構ありましたね。やっぱり生々しさのある曲で、演奏を生真面目にやってもねっていう。すっぴんに限りなく近い感じというか、揺らぎがあるほうが歌詞とも結びついてくると思うし、その辺は意識しましたね。

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