犬山たまき、AI音声合成との“共存”で広がる創作の幅 VoiSona/VoiSona Talk「玉姫」の完成度に衝撃

犬山たまき、「王姫」制作を語る

 漫画家・佃煮のりおがプロデュースするVTuber 犬山たまきが、音声創作ソフトウェア「VoiSona」とコラボ。今年6月1日にAI歌唱ソフト「VoiSona」 、9月22日にAI音声合成ソフト「VoiSona Talk」と、それぞれのボイスライブラリ「玉姫」をリリースした。

「ぼくのしーくれっと」covered by 玉姫 (CV:犬山たまき)

 それぞれのボイスライブラリでは、犬山の喋り声や歌声をもとに深層学習等のAI技術を使い声質・癖・喋り方・歌い方をリアルに再現している。犬山本人も「クオリティが高すぎる!」と絶賛するほどの完成度を誇っている。

 VTuberという仮想世界に生きる犬山は、AI技術の発展の産物であるVoiSona/VoiSona Talk「玉姫」の制作を通してどんなことを感じたのか。犬山ならではの視点で、VoiSona/VoiSona Talkの優良性や可能性についてメールインタビューにて語ってもらった(編集部)。

試行錯誤を重ねて確立した個人勢VTuberとしての人気

ーー犬山さんはVTuberのシーンが盛り上がりを見せていた2018年9月に、VTuberとしての活動を開始しました。当時どんな思いで活動を始めたのでしょうか。

犬山たまき(以下、犬山):元々、(佃煮)のりおママがバーチャルYouTuberのキズナアイさんを見て、衝撃を受けたことがスタートでした。少しメタい話にはなってしまいますが、「これは一体……どんな技術で動いているんだ!?」と大変驚いたそうです。そこから、のりおママが「自分もバーチャルYouTuberになってみたい!」と決意して……まあ、ボクとのりおママは別人なんですけど、犬山たまきが生まれたという経緯でした。

 当時どうやってバーチャルYouTuberになっていいか分からなかったのりおママは、まずはにじさんじとENTUMのオーディションを受けたそうです。にじさんじは不合格だったのですが、ENTUMからは「佃煮のりお先生、存じております!すぐに打ち合わせしましょう!」とご連絡をいただいて、事務所に打ち合わせに出向きました。

 最終的に条件面などのお話を色々と聞いて、のりおママが思ったのは「自分で絵も描いて、自分で声もあてて、自分の元々の知名度も使って、企画も自分で考えるのに何で事務所にお金をとられないといけないの?」とENTUMの社長さんに言ったそうでして……(笑)。のりおママは元々ニコニコ生放送をやっていたので、固定の視聴者さんもすでに獲得していたんですよね。

 それを聞いたENTUMの社長さんが「それでは、個人勢でやるのがオススメかもしれません」と進言して下さって「VTuberって個人でやってもいいんだ!」と知ったという経緯でした。あの当時は、VTuberのノウハウが調べても全く出てこなかった時代だったので、個人でVTuberをやれることすら知らなかったんです。そこから準備をして、宣伝をして、犬山たまきがデビューすることになります。

ーー活動を始めた当初に思い描いていた活動のビジョンについても聞かせください。

犬山:ボクがデビューした2018年夏~秋頃は、2017年から始まったバーチャルYouTuberブームが少し落ち着いていた時期でした。同時期デビューですと、にじさんじSEEDs2期生、ホロライブ2期生がボクの同期です。初配信は700人の方が遊びに来てくれて、これは個人勢としてはもちろんすごい数字だったのですが……。問題は2回目の配信からですね。やはりガクッと数字が下がってしまって。そんな時に、ちょうど同時期にデビューしたホロライブ2期生の湊あくあちゃんと、よく朝方まで「どうやったら1,000人見に来てくれるんだろう?」と通話会議をしていました。

 まずは嫌われてもいいから、名前を知ってもらうところから! という気持ちで、当時は今では考えられないようなアングラで過激なネタを扱っていましたね(笑)。もちろんアンチも多かったと思うのですが、アンチよりも知られていない・知名度のない自分という状況の方がとんでもなく恐ろしかったです。

 ただ、どうしても規模感が大きくなると炎上リスクが高まるので……。登録者30万人くらいでガラッと方向転換をしました。最終的に今のトーク企画メインの活動方針となったのですが、当時は当時で、毎日がむしゃらですごく楽しかったことを覚えています。

ーーなぜトーク企画中心でいくことにしたのでしょうか。

犬山:最初はとにかく有名になりたくて。「VTuber界で自分はどんなポジションになろうか?」と考える毎日でした。活動初期は、色々やりましたよ。今ではゲームが苦手なので全くやっていませんが、実はゲーム実況も数多くやっていました。その際に、一番視聴者さんから反応が良かったのが、雑談のコラボ配信だったんです。それが今現在の、対談コラボや座談会、トーク系のコラボ企画に繋がっています。とにかく色々試してみて、反応が良いものは続ける、反応が鈍かったものはやらない、と試行錯誤していって、今のチャンネル方針になりました。

 コラボがメインコンテンツのチャンネルなのですが「ソロもやってほしい」みたいな声ももちろんいただき続けた数年間でした。今ではもはやそんな声もないんですが(笑)。犬山たまきチャンネルのように、メインコンテンツがコラボという方針を取っているVTuberさんって、多分いないんですよ。「VTuberたるものソロ配信をするべき!」という固定概念が、恐らく視聴者さんの中にあったと思うのですが……ボクはあくまでも、自分のチャンネルで面白い番組作りをしてみたかったんです。

 テレビ番組って、毎回色んな出演者やゲストが登場するじゃないですか。それに疑問を持つ人っていないと思うんです。ボクは、犬山たまきチャンネルというテレビ局を作りたいと思って活動をしていました。だからこそ、企画に合ったキャスティングにもこだわっています。今回はこういう構成にしたいというのをまず考えて、企画に合う演者さんにお声がけしています。また、共演者の方にはなるべく負担が掛からないように、拘束時間はなるべく短くしたり、準備は全部ボクが行って、番組のMCもボクが行って、演者さんには時間になったら1時間だけ来てもらう……という形式でやっています。

ーー活動当初から変わらず軸にしていること、活動におけるポリシーはありますか?

犬山:ボクの活動のメインはコラボと案件なのですが……。「コラボ相手を常におもてなしする心」「案件は迅速に的確に!」を心がけています。要は社会性なのかなと思うのですが、ちゃんとやらないとのりおママに怒られちゃうので(笑)。

 後は、クリエイティブ面もすごく気を付けています! サムネイルや配信画面、MVやデザイン周りなども妥協しないようにしています。なんと言っても、ボクは漫画家・佃煮のりおの息子ですし、クリエイターVTuber事務所「のりプロ」のリーダーなので、クリエイティブ面は特にこだわっていますね。

ーー歌や音楽活動に対してはどんな意識で取り組んでいますか? 初配信で「趣味は歌うこと」「歌は得意」とも話されていましたが、当時から積極的に歌いたいと考えていたのでしょうか。

犬山:小さい頃から周りの中で一番歌が上手かったんです。なので、実は歌に自信があったんですけど……。新潟から東京に上京してきた際に、のりおママが仲良くなったお友達がすごく歌が上手い子で。特に活動者とかではなくて、絵描きだったんですが。その時に「あれ? 自分は都会だとそんなに歌上手くない?」とちょっと気付き始めてはいたのですが……。

 ボクが初配信を終えて、周りのVTuberさんの歌枠を聴いてみたら、皆さんすごく歌がお上手で! 本当にびっくりしました。それと同時にショックでしたね。全国区になるとこんなにもレベルが高いのかと。それからは、歌が得意……とは、正直あまり言わなくなってしまったのですが、比較的、音感は良い方だと思います。数回聴けば曲は覚えられますし、ハモりのメロディもスタジオで1回聴いて歌ったりも出来ます。まあ、もっとすごい子もいるので……。これもあまり大きな声では言えないのですが……(笑)。

ーー「歌ってみた」動画ではさまざまなジャンルの楽曲を歌っているほか、他のVTuberの方とのコラボも盛んに行っている印象です。楽曲やコラボ相手の選定など、「歌ってみた」動画を企画・制作する際に意識していること・こだわりについてお聞かせください。

犬山:歌ってみた動画は、原曲を大切に作るようにしています。まずは譜割りですね。自分勝手にアレンジしたりせず、原曲通りの譜割りで歌うようにしています。

 もちろん歌が上手い子はアレンジしても良いと思うんです。ただ、ボクはとびっきり歌が上手いわけではないので……で、あるならば!「オタクとして原曲リスペクトを持とう」と思って今の方針になりました。またイラストやMVの制作進行もしているのですが、その際にも原曲の雰囲気に寄せていただくようにディレクションしています。

 コラボの際は、「このお相手と一緒に歌う意味がある曲」を選ぶようにしています。ソロの際も「犬山たまきの文脈的に歌うと意味がある曲」を選んではいるのですが、コラボの時は自分のことより、コラボ相手が映える曲を選んだりもしていますね。後は単純にこの人の歌声で聞いてみたい楽曲を選んだりもしています(笑)。

 特におすすめなのは、神楽めあさんと歌った「匿名M」(ピノキオピーカバー)です。VTuber界隈のMCと呼ばれる犬山たまきが、匿名Mの“神楽め(M)あ”さんにインタビューする楽曲です。歌詞も作曲者様に許可を取って、めあさん用に一部改変していたりもします。動画投稿後に、しぐれうい先生から「すごくよかったよ……」とわざわざご連絡をいただいた1曲でもあります。

ーー犬山さんのことをあまり知らない方に、まずおすすめしたい「歌ってみた」動画もレコメンドしていただけますでしょうか。

犬山:ボクの歌ってみた動画は文脈を大事にしているので、犬山たまき初見でも響く楽曲が良さそうですよね。今年アップした楽曲なのですが「もってけ!セーラーふく」(テレビアニメ『らき☆すた』オープニング曲カバー/犬山たまき×熊谷タクマ×稲荷いろは×レグルシュ・ライオンハート)はおすすめです。公式のアニメーション部分を再現した動画なのですが、制作に時間もお金も掛かった作品です。

もってけ!セーラーふく / らき☆すた(covered by 犬山たまき×熊谷タクマ×稲荷いろは×レグルシュ・ライオンハート)

 ボクではなく、のりおママにはなってしまうのですが……「ダーリン」(須田景凪カバー)はすごくこだわって作ったそうです。イラスト、アニメーション、実写を融合させたMVなのですが、見ごたえのあるMVになっています。さらにのりおママの既婚者である部分、旦那さんへの愛が深い部分など文脈を知るとさらに深みが増す作品になっていると思います。

ダーリン / 須田景凪(covered by 佃煮のりお)

ーー2019年に発表された、犬山たまきとしての最初のオリジナル曲「わんたまでいず☆」は、どんなイメージで制作した楽曲になりますか? 作詞を担当された佃煮のりおさんのこだわりを含め、お聞かせください。

犬山:YouTube登録者10万人記念に出した、犬山たまき名義初のオリジナル楽曲でした。実は、作曲をして下さったリリーの法則さんから、犬山たまきをテーマに楽曲を作りたい! といただいたお話だったんです。なので基本の制作はリリーの法則さんにお任せしていたのですが、作詞を一部のりおママが手を入れています。「ぼくのしーくれっと」「アタシの神様」はのりおママが作詞した楽曲なのですが、「わんたまでいず☆」は犬山たまき名義の楽曲なので、よりキャラクターソング感を意識して作詞をしたとのことでした。

ーーほかにもREDALiCEさんとの「恋のMoonlight」やNEKOZUMEさんとの「ゾッ!キュン♡」など、幅広い楽曲を歌われていますが、ご自身としてはどんな音楽が好みなのでしょうか? 歌うのが得意なジャンルについてお聞かせください。

犬山:色んな楽曲を歌わせていただきましたが、得意な楽曲はバラード系ですね。テーマ的に暗かったり、シリアス目な楽曲が歌いやすいです。今までで一番すんなり収録出来た楽曲が「少女レイ」(みきとPカバー)でした。キー的にも歌いやすかったです。

少女レイ / みきとP(covered by 犬山たまき)

 最近はテンポが速くて、早口な楽曲が多いですが、実はものすごく苦手です。歌唱難易度が高すぎて……(笑)。とはいえ、難易度が高い楽曲も何度もカバーしてきているので、だんだん歌えるようになっている気はしています……。

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