松本孝弘、21年ぶりのカバー作品から伝わる力強いミュージシャンシップ LiSAやTERUらと共に紡いだ音楽への愛情と感謝

 松本孝弘(B’z)によるカバーアルバム『THE HIT PARADE II』が8月28日にリリースされた。Tak Matsumoto名義で発表された本作は、そのタイトルからもわかるように2003年11月に発売された『THE HIT PARADE』に続く、実に21年ぶりの続編アルバム。松本自身が感銘し音楽的にも影響を受け、さらには彼の人生を変えた名曲たちに憧れや尊敬、感謝の意を込めて制作されたカバー集だ。全10曲のうち9曲にゲストボーカリストを迎えており、その人選もB’zでの相棒・稲葉浩志や前作にも参加した倉木麻衣のほか、LiSAやGRe4N BOYZ、TERU(GLAY)、山本ピカソ(青いガーネット)、KEISUKE&YUJIRO(Z)、上原大史(WANDS)、新浜レオンと実にバラエティ豊かな面々が参加している。

 選曲に関しては、1960年代後半から1980年代初頭と松本が幼い頃から青年期にヒットし、日本のポップス/ロック黎明期に一世を風靡した名曲が中心。松本はかつてROCK'N ROLL STANDARD CLUB BAND名義で洋楽ロック/ハードロックのカバーアルバム『Rock'n Roll Standard Club』(1996年)を発表しているが、そちらがギタリストとして自身に多大な影響を与えた楽曲/アーティストへのリスペクトを表したものだとしたら、邦楽にスポットを当てた『THE HIT PARADE』シリーズは彼のソングライター/メロディメイカーとしてのルーツを深掘りしつつ、そうした名曲たちを今の松本がギタリストとしてプレイし、アレンジするならどんな形へ昇華するのか……そうしたリスペクトとオリジナリティが色濃く交差する良企画と言える。

 事実、この『THE HIT PARADE II』で聴くことのできるカバーの大半は原曲のイメージを忠実になぞりつつ(=リスペクト)、唯一無二の存在感を放つ松本のギタープレイと“懐かしさとモダンさ”が共存するアンサンブル&アレンジ(=オリジナリティ)で楽しむことができる。松本といえばハードロッキンなリフ&ソロプレイ、時にダンサブルなデジタルサウンド、時には豪快なハードロック全開のバンドサウンドというイメージが強いかもしれないが、B’z結成以前はさまざまなアーティストのレコーディングやライブサポートなどにも対応し、2011年には著名ジャズギタリストのラリー・カールトンと共作したアルバム『TAKE YOUR PICK』(2010年)が『第53回 グラミー賞』で最優秀ポップ・インストゥルメンタル・アルバムを受賞するなど、表層的なイメージ以上にその表現力には多彩なものがある。筆者も松本のプレイするブルースナンバーでの間合いやトーンコントロールは大好物で、もっと多くのリスナーに伝わってほしいと思っているひとり。今回の『THE HIT PARADE II』ではそうした一面はもちろん、派手なハードロックから繊細なスローナンバー、はてはムーディな往年の名曲まで幅広いタイプの楽曲で松本の変幻自在なギタープレイを堪能することができるのだから、松本のファンはもちろんのこと、ゲストシンガーのファンから原曲に親しみのあるリスナー、さらにはギター弾きまで幅広い層にアピールすることは間違いない。

 本当ならここで全曲レビューをしたいところだが、本稿では本作のハイライトとなる楽曲をいくつかピックアップして各曲の魅力やゲストシンガーとの相性、さらには松本のプレイについて解説したい。

 アルバムのオープニングを飾るのは、カラオケ黎明期の盛り上がりに欠かせなかったアン・ルイスの代表曲のひとつ「六本木心中」。この曲のシンガーにLiSAを選んだ理由を、松本は「LiSAさんがあの頃のアンさんとオーバーラップしてオファーしました」と述べているが(※1)、確かに歌謡曲からロック/ポップスへの過渡期だった1980年代初頭、派手なビジュアルとダイナミックなボーカル、ハードロックをベースにしたサウンドでお茶の間を賑わせたアンのイメージと、アニソンシーンから登場して徐々に活動の幅を広げ、今や国民的ヒット曲(「紅蓮華」「炎」など)を携え国内外の音楽ファンを熱狂させる“ロックヒロイン”LiSAのイメージが少なからずリンクするところがある。

 原曲でも象徴的だったイントロのシンセリフに、いかにも松本らしいねっとりとしたギターフレーズが重なり、そこにはつらつとしたLiSAの〈ワン、ツー、スリー、フォー!〉というカウントが続けば、それだけでがっつり心を掴まれるはず。松本はLiSAのデビュー10周年を記念したミニアルバム『LADYBUG』(2021年)に「Another Great Day!!」という楽曲を提供し、プロデュースやギターでも参加した経験を持つだけに、その相性の良さは折り紙付き。バブリーな当時の世相とギラギラした歌唱スタイルが魅力だった原曲とは異なる、今のLiSAさからこそ表現できる艶やかさと気怠さ、そのボーカルを引き立てるロングトーンを多用した松本ならではのギタープレイは、アンのオリジナルバージョンとは違った輝きを放っており、何度もリピートしてしまいたくなるから不思議だ。

 続く2曲目「木蘭の涙」はスターダスト☆レビューが1993年にヒットさせた1曲で、本作では唯一平成(1990年代)からのピックアップとなる。1993年といえば、B’zとして「愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない」というメガヒット曲を生み出し、初の野外ライブ『B’z LIVE-GYM Pleasure '93 "JAP THE RIPPER"』を静岡・渚園で開催した大きなターニングポイントとなる年。松本はこの曲を選んだ理由として「90年代に沖縄でスターダスト☆レビューさんのLIVEを観せて頂いた際にあまりに良い曲で感動したのを覚えています」とコメントしているが、今作でセレクトしたということは自身のルーツとなった名曲たちと並べても違和感がないほどの必然性があると感じたからなのだろう。

 そんな楽曲を歌唱するのは、この春にGReeeeNからの改名を発表したばかりのGRe4N BOYZ。松本とGRe4N BOYZといえば、この3月にリリースされた鈴木雅之のアルバム『Snazzy』に収録された「Ultra Snazzy Blues」で松本が作編曲(Yukihide“YT” Takiyamaと共編曲)、GRe4N BOYZと鈴木が作詞を手がけたことが記憶に新しい。新たなコラボレーションとなった「木蘭の涙」では、GRe4N BOYZらしい4声ボーカルが効果的に活かされており、その歌声の裏では松本ならではの細やかなギターフレーズが鳴り響く。しかし、B’zで聴けるような主張の強いプレイではなく、繊細さすら感じさせるGRe4N BOYZのボーカルを盛り立てる、押し引きの匙加減も絶妙と言える。そして、原曲のイメージを踏襲しつつも和テイストを若干強めたアレンジにも松本らしさが感じられ、楽曲後半に登場するブルージーなギターソロも彼ならではといったところだろう。

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