『ナナヲアカリワンマンライブツアー「BLUE×PINK」』の初日公演が、8月23日に東京・Spotify O-WESTにて開催された。「BLUE」と「PINK」の2種類のテーマを織り交ぜたこのツアーは、公演によって披露する楽曲が異なるライブだ。渋谷で開催されたこの日は「PINK」公演。会場は満員で開演前からすでに熱気が充満していた。

　開演すると、序盤から「チューリングラブ feat. Sou」など、勢いのよいアップテンポな曲を立て続けに披露していく。オーディエンスの掛け声や合いの手には最初から一体感があり、演者と観客とが協力してこの場を作り上げているのが印象的だった。特に秀逸だったのは、玉屋2060％（Wienners）が制作プロデュースした軽快なポップナンバー「全部ホントで全部ウソ」での一幕だ。この曲のサビでの〈全部ホントで全部ウソなの〉のフレーズを会場全体が大合唱する光景は、まさに圧巻の一言だった。単に現場を盛り上げるためのシンガロングというよりは、強い共感の意思を全員が示しているような、ナナヲとそのファンとの強固な結びつきを感じる瞬間だった。

　本公演では、インディーズ時代の作品も披露された。今と比べるとロック色強めのナナヲの当時の作品は、より攻撃的な歌詞と激しいサウンドが魅力。こうした楽曲を歌っている時のナナヲはいつも以上に表情や歌声が生き生きとしていて、まるでデビューしたばかりの新人かのような爆発力がある。

　バンドメンバー（通称えんじぇるズ）の息も合っている。寸分も狂わず正確にリズムを刻むドラムのタイヘイ、低音でしっかりとサウンドを支えるベースのつよぽん、華麗なテクニックで魅了するギターのカトリーヌ、曲中にダンスでも華を添えるVJの野良いぬ。見ているだけでこの4人とナナヲの仲の良さが伝わってきて、ナナヲアカリという人間がどれだけ周りから愛されている存在かが理解できるステージだ。こうして過去から現在までのナナヲの作品を堪能して、前半は一瞬で過ぎ去った。

　ここで恒例のトークコーナーがスタート。今回はナナヲが出題するオーディエンス参加型のクイズが行われ、メンバーから観客まで全員が積極的に言葉を交わした。こうした密なコミュニケーションを通して、会場の空気がまた一段階温まったのを感じる。

　後半はアコースティック編成でしっとりと始まり、先ほどまで大興奮だった会場は一転してナナヲの歌声を聴くために静まりかえる。歌い終えてあらためてマイクを握ったナナヲは、今の心情について語り始めた。

　デビューからさまざまなクリエイターやアーティストとともに活動してきたナナヲ。しかし、それによって自分で自分を雁字搦めにしている時期があったという。「私の周りには常に人がいて、感謝を忘れないようにしようと思って、いつしかそれに囚われて他人ありきの自分になっていた」というのだ。「上京してきた時はめっちゃ尖ってたはずなのに、色んな人に支えられすぎてるあまり欲を欠いていた」ーーある意味それは、人との関係性の中で生きてきたナナヲならではのジレンマだ。周りの期待に応えたいがために、本来の自分が徐々に消えていく。だがナナヲは「これからはもっと欲を出して“強欲”なナナヲアカリに」と、力強く今後の自分を宣言した。会場からはその言葉に大きな拍手と歓声が送られた。どことなく景色が晴れたようなこの瞬間を経て、終盤のパフォーマンスへとなだれ込んでいった。