ONCE、1年ぶりの新作とともに辿り着いた現在地 アルバム『Wandering』に込めたこれからの旅路を語る

  杉本雄治(ex.WEAVER)のソロプロジェクト ONCEが、2ndアルバム『Wandering』をリリースした。「夢でもし逢えたら」「Flyby」「この手」というデジタル配信シングル3曲に加え、新曲4曲を収録。冒頭の「Overture~Wandering~」は、ピアノで始まる密やかなアンビエントミュージックかと思いきや、やがてストリングスや打楽器のリズムが存在感を増していき、高らかなファンファーレのように鳴り響いていく。まるで、一人きりで旅に出たONCEが、様々な経験を積み重ねながら、これまでに出会った人たちとの想い出も忘れず、これから出会った人々と共にパレードを繰り広げていく、これからの道を表すかのように。

 1stアルバム『ONLY LIVE ONCE』から約1年。1stツアーではたった一人きりで全てを表現する実験的なライブを成し遂げ、その後はBillboard Liveツアーなどでバンド編成の表現にも挑戦してきた。ONCEがこれから進む道は真っ直ぐなのか、あるいは分岐点が広がっているのかーー日々の瞬間ごとに目の前の聴き手に向き合い、彷徨いながら道を探っているように見える、ONCEの現在地を尋ねた。(大前多恵)

その瞬間ごとの自分の想いを形にした『Wandering』

ONCE - 「Wandering」(Album Trailer)

――『Wandering』というタイトルが決まり、作品の全体像が見えてきたのはいつ頃でしたか? 

ONCE:タイトルは最後の最後、曲がほぼ揃ってから決まりました。アルバムに向けて曲を作っているというよりも、ONCEの活動で「ここで今、こういう曲を聴かせたいな」と考えながら、毎日続いていく日々の中で、その時々のリアルな曲を作り続けている、という感覚なので。それが積み重なった結果、楽曲たちを振り返った時に、まだ価値観もサウンドも完全に確立しているわけではないONCEの道の中で、いろいろな道を彷徨いながら楽曲が生まれているな、と感じたんですね。その想いをそのまま込めて、このタイトルにしました。

――杉本さんらしいピアノの美しさには磨きが掛かり、前作で挑んだR&B感をより自然に取り入れた曲が揃っていると感じます。

ONCE:サウンド面ではたしかにR&Bだったり、僕が好きなグルーヴ感を少しずつ形にできているのかなという感覚があります。前作『ONLY LIVE ONCE』の時は、まだ「自分のアイデンティティって何なんだろう?」という迷いがあったんです。それに対して「やっぱりピアノなんだろうな」という向き合い方だったんですけど、今回は曲を作る過程で、自然に「ピアノのリフから入ろう」みたいな気持ちになって。そこに気負いも決意表明もなく、自然と“自分の音”としてピアノを選んでいた気がします。それが杉本雄治とONCEのサウンドとして自然なものになってきているのかな、と改めて感じましたね。

ONCE(撮影=はぎひさこ)

――「Right Now」は、ピアノの旋律に和の要素を感じたのですが、意識的に、ですか?

ONCE:今思い返すと、たしかに意識はしていましたね。ずっと同じフレーズをループさせたダンスナンバーが好きでよく聴いていて、「自分が表現するならどんなものがいいかな?」と思った時に、「日本が持つ“侘び寂び”を感じさせる旋律を混ぜることができたら面白いな」という発想からこのリフを作っていきました。この曲をアルバムに入れよう、と決めて取り掛かった時にはもう、時間がなさすぎて……まさに、この歌詞はその時の衝動をそのまま落とし込んでいます。「この想いを今晩中にこの曲に込めて形にしないと、間に合わない!」みたいな(笑)。

ONCE - Right Now (Official Music Video)

――締切という現実的な問題が……(笑)。でも、後世に残る名曲はそういう誕生秘話を持っているものも多いですよね。

ONCE:冒頭は恋愛を仄めかす内容ではあるんですけど、自分の中に沸々と湧いてきた「今すぐこの想いを伝えに行きたい」という衝動を、この曲には込めたいな、と思っていました。

――〈浮かんでは消えてく〉という表現からは、焦燥感も伝わってきます。

ONCE:その時に湧いてきた熱量って、やっぱり“その時にしかないもの”なんですよね。一晩寝かせて次の日になってしまうと、「あれ、なんか違ってたな」となったりしますし。一瞬に対する想い、その時にしか湧いてこない感情を形にしたい、という熱も湧き上がってくるというか、これはきっとモノづくりをする人の感覚ですね。

――「Nocturne」は物悲しくもドラマティックなバラードで、陶酔しました。

ONCE:これは『ONLY LIVE ONCE in Billboard Live』(2024年2月/東京と大阪で開催)で披露しました。「Billboard Liveのグランドピアノでは、どんな曲を弾けたらドラマティックになるだろう?」と考えながら作った曲で、実際にファンの皆さんにも評判が良かった曲です。東京の夜景をバックにしたあの綺麗でおしゃれな空間や、そこに広がる景色を思い浮かべながら、ファンの皆さんと素敵な夜を作るための言葉選びや音、コード選びをして作っていきました。一番大切にしたのは、あの空間の中で「この時間が永遠に続いたらいいな」というイメージでしたね。

――歌い方も情熱的だと感じましたが、レコーディングで特に心掛けたのはどんなことですか?

ONCE:基本的に最近の歌録りは全部自分のスタジオで行なっていて、声のトーンを曲によって変えながら録っているんです。この曲は声を張るのではなく、Aメロでは少し低く響くような歌い方を意識していました。そのほうがより距離感が近く響く感じがするので。

――間近で歌っているような声の響きを感じるのは、そのためなんですね。「いつか」はポップなナンバーで、アレンジャーとして佐伯栄一さんが参加されています。

ONCE:ディレクターさんの紹介で初めてお願いした方なんですが、僕から「こんなふうにしてほしい」というイメージを最初にお伝えして、戻ってきたアレンジを基にどんどんブラッシュアップしていった、という感じですね。

――ブレス音が活かされているなど、人肌感が伝わってきたのも印象的です。

ONCE:アレンジャーさんにオーダーするときに、一番大事にしたのは「ノスタルジックなアレンジにしてほしい」というイメージでした。リズムが入ってからは割とキラッとしたポップス、少しピアノが跳ねたようなサウンドになるんですけど、Aメロの導入としては切なさというか、人の温もり感が感じられるアレンジにしてほしい、とオーダーしていましたね。

――明るく軽やかな仕上がりで、ライブで聴くのが楽しみです。

ONCE:このアルバムは、その瞬間ごとの自分の想いを形にしている曲がほとんどだったので、この曲だけは作る時の意識としても、聴いて受け取ってもらうシーンとしても、“ライトな”楽曲を作りたい、と思っていたんです。歌詞も自分の実体験というわけではなく、「こういう主人公で書いてみたら面白いかな?」というぐらいのライトな感じで。メロディもよりポップス的でスタンダードなものにしたくて、自分の中にあったアイデアの中から「このメロディ強いな」というものを選んで曲にしていきました。

――失恋の後悔が綴られていて、〈書き直せないストーリー〉〈もう叶えられない/「いつか」〉という歌詞が切ないです。

ONCE:切ないというか、ただ不甲斐ない男の気持ちだと思うんですけどね(笑)。

――実体験ではなく、フィクションの物語として書かれたのですか?

ONCE:はい、まだフィクションの歌詞をあまり書いたことがなかったので、そういった部分ではチャレンジした曲でもあると思います。

――フィクションとしての作詞では、人物像を具体的に設定されるのですか? たとえば「このぐらいの年齢で」とか。

ONCE:どうなんだろう。「自分がこうだったら?」みたいなイメージで作っているかもしれないですね。自分がもっと不甲斐なくて、20代の時に誰かと付き合っていて、こういう感じだったら一体どうなっていたんだろう? とか(笑)。

――架空の人物を一から創り上げるのではなく、あり得たかもしれないもう一つの人生、パラレルワールドの物語、みたいな?

ONCE:そんな感覚に近いかもしれないです。自分も20代の時に「忙しい」を言い訳にして「いつか行こう」みたいなことはよく言ってたなぁ……と思って。結局行っておけばよかったな、と後悔したりとか(笑)。そういう自分の中の経験も、もしかしたら入ってるのかなとは思いますね。

――フィクションとしての作詞に挑んでみて、手応えはどうでしたか?

ONCE:「こういうやり方も面白いな」と思えたのは大きかったですね。先日flumpoolのラジオに出た時、(山村)隆太さんに「どうやって詞を書いてるんですか?」と聞いたら、ちゃんと設定を自分の中で作って書いている、とお話しされていたので「なるほど」と。自分の引き出し、選択肢は増えたと感じたので、作ってよかったなと思います。

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