ミセス 大森元貴、ONE OK ROCK Taka、GLAY TAKURO、THE YELLOW MONKEY 吉井和哉……楽曲提供で見せるそれぞれの作家性
吉井和哉(THE YELLOW MONKEY)
次にピックアップするのは、この5月にアルバム『Sparkle X』を発表したTHE YELLOW MONKEY。その中でほとんどの詞曲を担当している吉井和哉(Vo/Gt)だ。THE YELLOW MONKEY名義、ソロ名義以外で詞曲を担当した曲は決して多くないが、教育番組『みいつけた!』(NHK Eテレ)コーナーソング「ふたりはさかさま」の作曲とコーラス、『セサミストリート』のキャラクターソングアルバム収録曲「きんにくロック ~モジャボのテーマ~」、ダチョウ倶楽部とのコラボレーションユニット「masa-yume」で詞曲を手掛けるなど、他のアーティストにはない異色さが窺える。リスペクトを大人の遊び心に上手に変換できている吉井だからこそ成立した楽曲提供ばかりだろう。
逆に吉井がTHE YELLOW MONKEYへのリスペクトを受けとめる形で実現したのが、2023年6月の東京ドームライブをもって解散した、BiSHのラストシングル曲「Bye-Bye Show」である。BiSHのマネージャー兼WACK代表の渡辺淳之介がTHE YELLOW MONKEYの大ファンだったのだという。同曲は、詞曲、プロデュースを吉井が手掛けている。吉井は、タイトルからしてリスペクトにしっかり応えている。本曲のタイトルを見てTHE YELLOW MONKEYのヒットシングル『LOVE LOVE SHOW』(1997年)を思い出す人も多いだろう。「Bye-Bye Show」というフレーズを歌詞の中で〈Bye-Bye しよう〉と表記していること、さらに最後のリフレインの余韻など、THE YELLOW MONKEYへのセルフオマージュともいえる、リスペクトへのレスポンスがしっかり刻まれている。「Bye-Bye Show」の制作時期は、おそらく前述した最新アルバムと重なっていると思うが同アルバムが、吉井の当時の現状から生み出され、結果としてTHE YELLOW MONKEYのルーツである70~80年代の洋楽ロック然とした、まるで自分の音楽人生を謳歌するような作品になったことを考えると、軽快でブライトなロックチューンとなった「Bye-Bye Show」への吉井の思いも想像することができる。
タイトなバンドサウンドと力強いメロディが続くポップナンバー「Bye-Bye Show」は、途中で平成以降のアイドルチューンのようなメロディをチラリと聴かせた後に、間奏でロック然としたギターソロを入れるなど、ポップスとロックのバランス具合もお見事。ロックシーンのみならず、歌謡曲も含めて、日本の音楽シーンをずっと俯瞰でとらえてきた吉井だからこそ制作できた1曲と言えよう。歌詞も、言葉一つひとつを彼女達が歌い紡ぐことによって、BiSHのラストソングであることがポジティブに響くように配慮されている。吉井自身が一度バンドの解散を経験したからこそ描くことができた、否、今の吉井にしか描けない、人間としての未来像が散りばめられている。直接的に前向きな言葉を使わずとも、BiSHの活動のワンシーンの描写、そして感謝の気持ちを綴ることで、万人の背中を押してくれる名曲になっている。
大森元貴(Mrs. GREEN APPLE)
最後は、Mrs. GREEN APPLEの大森元貴(Vo/Gt)を取り上げる。デビュー前から行ってきた自主企画『ゼンジン未到』シリーズを、今年7月はスタジアムツアー『ゼンジン未到とヴェルトラウム〜銘銘編〜』として開催。ノエビアスタジアム神戸2DAYS、横浜スタジアム2DAYSの計4日間で約15万人を動員し、現在の音楽シーンでの圧倒的な存在感を見せてくれたMrs. GREEN APPLE。このバンドの全詞曲を手掛けるのが大森元貴である。他アーティストへの提供楽曲数はまだ多くないが、彼のコンポーザーとしての才能が世に知られることとなったのは、アニメ映画『ONE PIECE FILM RED』(2022年)の、劇中歌「私は最強」である。主要キャラであるウタの歌唱部分をAdoが務めた同映画は、ウタが歌う楽曲を著名なアーティスト陣が手掛けたアルバム『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』を発売したことでも話題になった。
著名な作家人がひしめく劇中歌の中で、「私は最強」はSNSを中心に拡散され、主題歌「新時代」とともにロングヒットとなった。後にMrs. GREEN APPLEがセルフカバーしたことも、さらなるロングヒットにつながった理由だと思う。大森が楽曲提供しているアーティストは、大森自身のキーの高さもあるのか、女性が多い。男性は2アーティストだけで、その中から、今回は韓国のボーイグループ TOMORROW X TOGETHER「Force」(2021年)を紹介する。TOMORROW X TOGETHERは、デビューミニアルバム『The Dream Chapter: STAR』(2019年)が米Billboardのメインアルバムチャート「Billboard 200」にチャートインするなど、デビュー当初から世界的な人気を博すグループだ。2020年には日本デビューし、今年7月からは日本初となるドームツアーをスタートさせている。
2021年にリリースされた日本1stアルバム『STILL DREAMING』より先行配信されたのが「Force」だ。THE FIRST TAKEでも同曲を披露している。同曲は、Mrs. GREEN APPLEが第1フェーズ終了後の活動休止期間に、精力的にソロ活動を展開した大森が、そのソロ活動で試したこと、そしてMrs. GREEN APPLEの成功で感じた手応えをアウトプットし、TOMORROW X TOGETHERのメンバー個々のボーカルスタイルを熟知した上で、多彩な要素を緻密な配置で作り上げた1曲だ。当時のワールドトレンドを取り入れたトラックやリズムパターンは大森のソロとしての作品を、サビの高音のアプローチはMrs. GREEN APPLEを彷彿させる部分もある。
面白いのは、自身が歌う曲よりもあまり音符を詰め込まず、サビ以外でもしっかり歌を聴かせている点だ。「Force」は、歌詞の言葉数はとても少ないが、じつは楽曲全体を通して明確なブレス(息継ぎ)の場所がほとんどない。これは大森がTOMORROW X TOGETHERを聴き込み、メンバーが歌い紡ぐスタイルやユニゾンでの美しさを前提として作っているからだと思う。ボーカルの掛け合いのように、一言を次のメロディが始まる前に入れ込むなど、複数ボーカルがいるからこそできる小技も満載で、大森のプロデュース能力の高さが窺える楽曲である。途中のファルセットでは、まるで大森自身が歌いこなすかのような歌い回しもあり、デモの段階から、ハイクオリティな楽曲だったのではないかと考察する。
本稿でも触れたAimerのアルバム『daydream』やAdoの『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』など、アーティストをコンポーザーとして迎えることが、そのまま楽曲バリエーションも含め、作品性につながることも多い。そしてそのアルバム収録曲は、他の曲とも比べやすいゆえ、楽曲の個性が明確に出てくる。それには80年代初期、当時のニューミュージックやシティポップ、ロックのアーティストが、別名義でアイドルに楽曲提供をし始めた頃から続いている手法を思い出させるが、別の人が歌うことで、提供アーティストのメロディの個性と良さがより際立つ結果になるのは、時代を問わず変わらない。最近では、三宅健のアルバム『THE iDOL』にSIRUP、WurtS、熊木幸丸(Lucky Kilimanjaro)らが楽曲提供したことに個人的に驚いたばかりだ。これからも、もっともっと驚かせてほしい。
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