日食なつこ×千鳥ノブ対談 音楽とお笑い、表現への対極な姿勢と通ずる信念

作品に対する対極な二人のモチベーション

――日食さんは15年やってきて、曲作りのペースは変わってきましたか?

日食:変わってますね。今、日本のどこかにある山に住んでるんですけど、山に住むようになってから……。

ノブ:ストイックすぎない? ストイックが取る行動全部しとる。ネタ作る、山奥住むって(笑)。

日食:でも本当に邪魔が入らないというか、誰も来ないし、24時間音出しても誰にも文句言われないので。そのせいもあってどんどん出てるっていうのはあるのかなと。

――どこかで「ピアノとふたり暮らし」って言ってましたもんね。

日食:そうです。心中してますね。

ノブ:言ってみたいわ、「ピアノとふたり暮らし」。で、そこで曲をめっちゃ作るじゃないですか。それは東京で作るとか、都会で作るとか、とはまた感覚が変わるんですか?

日食:正直同じだと思います。きっかけさえあれば。たとえば今日のこの対談がめっちゃ楽しかったなって思ったら、このままどこかその辺のスタジオに入ってその気持ちを曲にしていくっていうのも全然できますし、スタジオ行かなくても、帰りの道を歩きながら始まってたりするし。正直場所によっては変わらないですね。あとは作業効率の話。より集中できるのが山奥だっていうので、そっちを選んでるっていう。

ノブ:バカみたいなこと聞いていいですか? ストイックに曲を作り続けるじゃないですか。で、飯食って寝て。そこで、人間としての……俺だったら、休日めっちゃパチスロ行くとか、若いときはコンパもいっぱい行ったし(笑)、なんか酒飲むとか、映画行くとか、誰かとキスするとか、そういう楽しみもされてるんですか?

日食:そういう楽しみを全部曲にすればいちばん消化率がいいというか。

ノブ:すごいことをしてますよ(笑)。

日食:それを全部曲で自分の中で再現すれば……たとえば目の前に好きな人がいて抱きしめたいっていうのも全部実現できる。それは曲だけじゃないですか。現実はそれが叶わないこともあってフラストレーションになるけど、そのフラストレーションゼロでいけるいちばん効率のいい手段が山奥での曲作りなのかなと。だからたぶん、そういうのを現実でうまくできるようになったら、もうこっち(音楽)はやらなくなるのかなって思ってます。

ノブ:すごすぎる。だから、もう仕事じゃないですね。

日食:そうですね。もう最強の趣味、暇つぶしみたいな感じかなと思ってます。

ノブ:なるほどね。僕なんか、お笑いをがんばって、もちろん客が笑ってくれたら嬉しいし楽しいんですけど、「かわいい子と喋れた」とか「今日の焼肉うまかった」とかで「幸せ~」ってアホみたいに寝るのが好きなんですよ(笑)。なんだろう、人間のど真ん中の幸せ? それがど真ん中って俺は勝手に思ってるんですけど、それを得て日々を楽しんでいきたいっていう、強欲な男なんです。だから対極ですよね。

――日食さんの場合は、音楽を作って世の中に出したりライブをしたりするなかで、どのポイントにいちばん喜びを感じるんですか?

ノブ:俺もそれ聞きたい。アドレナリンがジュワッと出るところはどこか。僕らはわかりやすいんですよ。パッと言って笑いが起きたら「気持ちいい」ってなるんですよ。今も対談しててたまに笑いが聞こえたら「今いい感じなんだ」って。そういう病気なんですよ。日食さんの場合、そのアドレナリンいつ出るんですか?

日食:曲作ってるときですね。自分がやりたいものが再現できた率がでかければでかいほど「気持ちいい」ってなるんで、それをステージに持って上がった瞬間には、お客さんが湧いていても静まっていても関係なくなっているんです。そこもたぶんノブさんと真逆というか、お客さんの反応がどうかっていうのは、もう私は見てない。芸人さんはそんなことありえないじゃないですか。

ノブ:シーンとしてたらもう終わりです。そうか、全然違いますね。曲作ってる時に脳汁が出るのか。

日食:でも千鳥さんの場合、用意したネタだけじゃない、その場でインスタント的にお客さんと反応しながら作っていくフリートークとかみたいなのがあるじゃないですか。そういう、第三者と一緒に何かを作っていく喜びみたいなのがないんです。そこをこの15周年のタイミングで1個開けられたらおもしろいんじゃないかと思って。ノブさんを拝見してると、どんな材料が来てもおいしく返せるじゃないですか。その適応力がすごいなと思って、何来ても絶対ご馳走にして返してくれる方っていうイメージなんです。

ノブ:いや、全然です。たまたま今観てくださっているコンテンツの千鳥とか僕とかがやってることが性に合ってるというか。そうじゃない人も全然芸人にはいて、たとえばスタンダップコメディみたいな、ひとりで出て行ってブワーって自分の考えたネタを喋る、たとえばぐっさん(山口智充)とか、それこそ秋山とか。

日食:もう完結してるってことですよね、その方で。

ノブ:そう、そういうのは結構攻撃的なスキルだと思うんです。もう「作品を見せる」みたいな。日食さんもそうかもしれない。でも俺らは意外と……ま、ネタもするんですけど、それよりも「変なものを直す能力」なのかなと思うんです。僕らが今やってる仕事を思い返すと、全部「変なものを直してる」だけなんですよ。『相席食堂』(朝日放送テレビ)っていう番組なんか、変なロケを僕が「ちょっと待てぃ!!」って止めて指摘していくっていう。これ、変じゃないとダメなんですよ。あれ、うまいロケされたら僕ら全然おもしろくない。あと『千鳥のクセがスゴいネタGP』(フジテレビ系/現『千鳥のクセスゴ!』)も普通の漫才のネタじゃなくて、10秒喋れないとか、逆にスベってるとかを直すとか。なんか変わったおかしいことが起こったものを、俺らは直していってるだけなんですよ。それがただただ好きというか、楽しいというか。

日食:それも昔からのご自身の気質ですか? 「ちょっと待てぃ!!」ってやって、自分の手をさらに加えて送り出すみたいな。

ノブ:お笑いやる前とかはただクラスでふざけるようなやつだったんです。ダウンタウンさんが当時世の中でどのミュージシャンとか俳優さんとかよりかっこよく見えたんですよ。おもしろいとかそんなのはわかんなかった。ただかっこいいなと思って、ダウンタウンさんを目指してやってきたんです。だから司会者になりたかったんですよ。MCというか。そこを目指してやってきたんで、どうにかMCになるにはってそこからめっちゃ勉強して。そしたら「受けの技術がいるんだ」って。なんか変なものが飛んできたのを直してきれいに返すみたいな技術がいるんだというのに5年目ぐらいに気づいて、そこからはそればっかり日夜やってきたって感じですね。自分に染み込ませるために、「俺は直す作業をする人」って思って、毎日普段の会話とかでもそういう感じでやってきました。

日食:ご自身のキャラを捕まえて、そこをより高めていくために、キャッチャーの球を受け取る個人練みたいなのを毎日毎日されてきたっていうことですよね。それもやっぱストイックなところではあるんじゃないですか。

ノブ:そう思えばそうかもしれないですね。

――そういえば、千鳥はネタの作り方も独特ですよね。

ノブ:僕らはまったく書かずに、フリートークで喋るだけなんです。それこそアイスコーヒーがあったらアイスコーヒーでちょっと喋ってみようかって。それで30分くらい喋ってみて、全然おもしろくなかったら「はいはい、じゃあ次、ガムシロップで」みたいな。そんなんでやって、「今の3分から7分目、ちょっとおもろかったな。じゃあ、そこをちょっと広げようか」みたいなのでやっていったりする。

――ジャムセッションですよね、もう。反射神経で。

日食:本当に。すごいですね。

ノブ:だから賞レース弱いんですよ。今は5秒以内に笑いがなかったら『M-1』とか獲れないんです。

日食:そうなんですね。

ノブ:でも俺らは大悟が喋り出してから僕の「何を言うとんねん!」まで平気で1分半くらいあったりするんですよ。『M-1』でそんなに時間をかけたら絶対に獲れないんですよ。今はもう、4分間のうちに50個はボケがないと、みたいな短距離走みたいになってきてる。

――音楽もそういうのありますよね。イントロが何秒で、1サビまで何秒だと売れる、みたいな。

日食:ありますね。SNSの普及で140秒とかに収まる曲を作ったりしている界隈もあって。それはもちろん素晴らしい文化、新しい文化だと思うんですけど、正直難しい付き合い方だよなって。

ノブ:そういえばこの前聞いたんですけど、今はあれでしょ? なんとなくパソコンに入れたらメロディが出てくるらしいですね。

日食:それこそさっき言った「ネタがよければ」っていうのが「音がよければ」に差し替わっちゃうと、それがたとえAIが作ったものでも「よければいい」っていう結論に行ってしまうので。それはそうだけど、じゃあ人間の尊厳は結局どこにあるか、みたいな。

ノブ:天照大神の話、知ってます?

日食:神話の?

ノブ:はい。その話に俺は勇気づけられてて。天照大神っていう神様が、女性なんですけど、岩の洞窟に隠れちゃうんです。「恥ずかしい、欲にまみれた世界を見るのが嫌」みたいな感じで。で、どうにか神様を外に出さないとって、みんなでお笑いと音楽の祭りをしたんですよね。そしたらその笑い声と歓声が気になって「なになに?」って出てきたっていう。だから、音楽とお笑いは絶対なくならないものだって。その話をデビュー1年目に笑い飯から聞いたんです。それで「続けてみるのは絶対価値あるな」と思ってやったので。だから大丈夫なんじゃないですか。

日食:大丈夫だといいなと思ってます。

ノブ:……なんか、酒飲みながら喋る話みたいになってきた(笑)。熱くなっちゃってすみません。

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